19 / 103
呪いの皇子と森の片隅のお花屋さん
花咲く
しおりを挟む
扉がゆっくりと開かれた。
部屋の寝台に横たわる皇子、エリオットの顔は青白く、十六歳の青年とは思えないほど痩せ衰え、まるで老人のようだった。骨ばった手が胸の上に置かれているが、指先にはかすかに紫が滲んでいる。
「……っ」
皇太子アルデバランがわずかに息を呑む。その声に反応したように、エリオットのまぶたがぴくりと震えた。
「まだ、大丈夫…頑張ってる。君は強いね…」
オルガが小さく呟く。
彼女はふわりと花咲く掌をかざしながら、少年に近づいた。花から零れる光が、ゆっくりと室内に拡がっていくと、それに呼応するように腐った空気がわずかに揺れる。
「呪いが何重にかかっていたって、この子には関係ないよ。ただの、花を咲かせる“養分”みたいなもんだから」
ゼーレが眉をひそめ、呟く。
「……“呪い”を、養分にする……だと? そんな発想、聞いたこともない」
ルーカスが低く口笛を吹いた。
「やっぱり、ただの花屋じゃねえな。とんでもねぇ化け物を育ててやがる」
オルガはそれに気づいたように、いつもの調子で言った。
「え、褒めてる? うちの子たちとってもかわいいの!」
オルガは、そっと掌の上の種を見つめた。
淡い芽をのぞかせた小さなそれは、握る指先の温もりに応えるように、静かに震えている。
「待たせちゃったね、行っておいで。」
囁くようにそう言って、オルガはその種をエリオットの胸の上にそっと置いた。
次の瞬間――
芽はみるみるうちに伸び、つるりと艶のある茎を空に向けて突き出す。
すぐに細い根が四方へ広がり、まるで水を得たように勢いよく布の隙間から潜り込んでいく。
「……!」
アルデバランが思わず半歩踏み出した。だが止めはしなかった。
茎は伸びながら柔らかく枝分かれし、皇子の身体を囲うように優しく包んでいく。
その動きに、威圧や侵略の気配はなかった。むしろ、慈しむような、深い深い庇護のような――。
「……あれが、“呪いの花”」
ゼーレがかすれた声で呟いた。
「いま、あの子の呪いを吸いながら……咲こうとしてる」
静まり返った室内に、植物の茎が伸びる微かな音だけが響いていた。
やがて、皇子の呼吸が少しだけ、楽になるように見えた。
オルガは微笑んだ。
けれどその目には、一瞬の緊張が宿っている。
部屋の寝台に横たわる皇子、エリオットの顔は青白く、十六歳の青年とは思えないほど痩せ衰え、まるで老人のようだった。骨ばった手が胸の上に置かれているが、指先にはかすかに紫が滲んでいる。
「……っ」
皇太子アルデバランがわずかに息を呑む。その声に反応したように、エリオットのまぶたがぴくりと震えた。
「まだ、大丈夫…頑張ってる。君は強いね…」
オルガが小さく呟く。
彼女はふわりと花咲く掌をかざしながら、少年に近づいた。花から零れる光が、ゆっくりと室内に拡がっていくと、それに呼応するように腐った空気がわずかに揺れる。
「呪いが何重にかかっていたって、この子には関係ないよ。ただの、花を咲かせる“養分”みたいなもんだから」
ゼーレが眉をひそめ、呟く。
「……“呪い”を、養分にする……だと? そんな発想、聞いたこともない」
ルーカスが低く口笛を吹いた。
「やっぱり、ただの花屋じゃねえな。とんでもねぇ化け物を育ててやがる」
オルガはそれに気づいたように、いつもの調子で言った。
「え、褒めてる? うちの子たちとってもかわいいの!」
オルガは、そっと掌の上の種を見つめた。
淡い芽をのぞかせた小さなそれは、握る指先の温もりに応えるように、静かに震えている。
「待たせちゃったね、行っておいで。」
囁くようにそう言って、オルガはその種をエリオットの胸の上にそっと置いた。
次の瞬間――
芽はみるみるうちに伸び、つるりと艶のある茎を空に向けて突き出す。
すぐに細い根が四方へ広がり、まるで水を得たように勢いよく布の隙間から潜り込んでいく。
「……!」
アルデバランが思わず半歩踏み出した。だが止めはしなかった。
茎は伸びながら柔らかく枝分かれし、皇子の身体を囲うように優しく包んでいく。
その動きに、威圧や侵略の気配はなかった。むしろ、慈しむような、深い深い庇護のような――。
「……あれが、“呪いの花”」
ゼーレがかすれた声で呟いた。
「いま、あの子の呪いを吸いながら……咲こうとしてる」
静まり返った室内に、植物の茎が伸びる微かな音だけが響いていた。
やがて、皇子の呼吸が少しだけ、楽になるように見えた。
オルガは微笑んだ。
けれどその目には、一瞬の緊張が宿っている。
16
あなたにおすすめの小説
勝手に召喚され捨てられた聖女さま。~よっしゃここから本当のセカンドライフの始まりだ!~
楠ノ木雫
ファンタジー
IT企業に勤めていた25歳独身彼氏無しの立花菫は、勝手に異世界に召喚され勝手に聖女として称えられた。確かにステータスには一応〈聖女〉と記されているのだが、しばらくして偽物扱いされ国を追放される。まぁ仕方ない、と森に移り住み神様の助けの元セカンドライフを満喫するのだった。だが、彼女を追いだした国はその日を境に天気が大荒れになり始めていき……
※他の投稿サイトにも掲載しています。
魔法使いとして頑張りますわ!
まるねこ
恋愛
母が亡くなってすぐに伯爵家へと来た愛人とその娘。
そこからは家族ごっこの毎日。
私が継ぐはずだった伯爵家。
花畑の住人の義妹が私の婚約者と仲良くなってしまったし、もういいよね?
これからは母方の方で養女となり、魔法使いとなるよう頑張っていきますわ。
2025年に改編しました。
いつも通り、ふんわり設定です。
ブックマークに入れて頂けると私のテンションが成層圏を超えて月まで行ける気がします。m(._.)m
Copyright©︎2020-まるねこ
お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~
みつまめ つぼみ
ファンタジー
17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。
記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。
そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。
「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」
恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!
幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない
しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。
魔晶石ハンター ~ 転生チート少女の数奇な職業活動の軌跡
サクラ近衛将監
ファンタジー
女神様のミスで事故死したOLの大滝留美は、地球世界での転生が難しいために、神々の伝手により異世界アスレオールに転生し、シルヴィ・デルトンとして生を受けるが、前世の記憶は11歳の成人の儀まで封印され、その儀式の最中に前世の記憶ととともに職業を神から告げられた。
シルヴィの与えられた職業は魔晶石採掘師と魔晶石加工師の二つだったが、シルヴィはその職業を知らなかった。
シルヴィの将来や如何に?
毎週木曜日午後10時に投稿予定です。
積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!
ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。
悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。
魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。
迷い人と当たり人〜伝説の国の魔道具で気ままに快適冒険者ライフを目指します〜
青空ばらみ
ファンタジー
一歳で両親を亡くし母方の伯父マークがいる辺境伯領に連れて来られたパール。 伯父と一緒に暮らすお許しを辺境伯様に乞うため訪れていた辺境伯邸で、たまたま出くわした侯爵令嬢の無知な善意により 六歳で見習い冒険者になることが決定してしまった! 運良く? 『前世の記憶』を思い出し『スマッホ』のチェリーちゃんにも協力してもらいながら 立派な冒険者になるために 前世使えなかった魔法も喜んで覚え、なんだか百年に一人現れるかどうかの伝説の国に迷いこんだ『迷い人』にもなってしまって、その恩恵を受けようとする『当たり人』と呼ばれる人たちに貢がれたり…… ぜんぜん理想の田舎でまったりスローライフは送れないけど、しょうがないから伝説の国の魔道具を駆使して 気ままに快適冒険者を目指しながら 周りのみんなを無自覚でハッピーライフに巻き込んで? 楽しく生きていこうかな! ゆる〜いスローペースのご都合ファンタジーです。
小説家になろう様でも投稿をしております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる