【完結】花咲く手には、秘密がある 〜エルバの手と森の記憶〜

ソニエッタ

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呪いの皇子と森の片隅のお花屋さん

花咲く3

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ぴしり。

まるで空気に細いひびが入ったような音が、部屋の中を裂いた。

誰かが動いたわけでもない。扉も風もない。けれど確かに何かが“割れた”。

「……咲き始めた」

オルガの目が、皇子の胸の上にある“呪いの花”のつぼみに注がれる。

花の先端が、ゆっくりとほどけていく。まるで呼吸するように開いては閉じ、震えるような薄紫の光を放ち始めた。

「花が……光ってる?」

レオニダスが思わず口にする。だが、すぐにそれが“光”ではなく、“魔力”そのものであると気づき、身構えた。

同時に、部屋の空気が一変する。部屋を充満していた嫌な違和感が軽くなった気がした。

花のつぼみは完全に開き始めていた。
中から伸びる透明な根が、皇子の胸、腕、額へと這い、優しく絡みついていく。毒を吸い上げるように、その根から黒い“霞”が逆流し、花びらの奥へと吸い込まれていくのが見えた。

「……すげえな、こいつ……」

ルーカスが思わず呟く。生まれて初めて“戦わずして、魔を退ける力”を見た気がした。

それは、剣ではない。魔法でもない。
ただ、小さな花が、呪いを吸い上げている。

ただ、それだけの光景が、言葉にならないほどの威力をもって、皆の心を打った。

 

だが、そのとき――

ぱちん、と、何かが弾けた音がした。

「……!?」

エリオットの身体が、一瞬、跳ねた。
目を閉じたままの彼の額に、うっすらと黒い紋様が浮かび上がる。

「残り滓か……!」

ゼーレが身を乗り出すが、それより早く、オルガが花に手を添えた。

「咲いて。もっと咲いて。……この子、まだ生きたいって言ってるんだから」

その手から、金色の光がふわりと広がる。
花の色が、ひときわ深くなる。
つぼみの奥から、音もなく二輪目の花が咲いた。

まるで、皇子の命が“答える”ように。

紋様はふっと消え、エリオットの呼吸が、すこしだけ、穏やかになった。

「……効いてる」

ゼーレが呟いた。

その瞬間、誰もが確かに思った。

――これは、治る。

この“花屋の少女”が持ち込んだ力は、魔でも呪いでもない。
説明できない“自然の手”だ。

 

静かに、花はなおも咲き続けていた。
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