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呪いの皇子と森の片隅のお花屋さん
花咲く4
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静寂が落ちた。
まるで部屋全体が、深く、深く息を呑んだように。
誰も言葉を発さず、ただその光景を――一輪、また一輪と咲き続ける“呪いの花”を、見つめていた。
ふいに。
寝台の上、エリオットのまぶたが、かすかに震える。
「……っ」
アルデバランが思わず前に出る。
だが、オルガが片手でそっと制した。
「もう少し、待って」
優しくそう言って、花に添えていた手を、すこしだけ離す。
光が揺れ、部屋の空気がさらに清らかになった気がした。
「もう呪いは、ほとんど消えてると思う。でも、長くかかってたから……回復魔法、かけてあげたほうがいい」
アルデバランは口を開きかけたが、何も言わずに唇を噛んだ。
かわりにルーカスが、ぽつりとつぶやく。
「……ありがとう、オルガ嬢。お前がいてくれて、本当によかった」
オルガは肩をすくめて笑った。
「褒めても、何にも出ないよ」
ゼーレがそれを聞いて、ふっと小さく笑った。
彼はゆっくりと息を吐き、白髪を後ろにかき分ける。
「植物とは、不思議なもんじゃな。人間に比べれば、ちっぽけに思えるが――かくも力強く、無限の力を秘めておる。あっぱれだ、花屋の娘よ」
「偏屈じじいが、素直じじいになった。……まあ、ありがと」
その軽口に、空気が少しだけ和らいだ。
そして、アルデバランがようやく小さく頭を下げる。
「……必ず、礼はする」
「いや、だいじょうぶ。私はただ――お花を見たかっただけだから」
そう言って、オルガはなおも咲き続ける花を見つめた。
部屋には、かすかに甘い香りが漂っていた。
けれどそれは、呪いの腐臭ではなかった。
新しく咲いた、花の匂い――希望の、匂いだった。
まるで部屋全体が、深く、深く息を呑んだように。
誰も言葉を発さず、ただその光景を――一輪、また一輪と咲き続ける“呪いの花”を、見つめていた。
ふいに。
寝台の上、エリオットのまぶたが、かすかに震える。
「……っ」
アルデバランが思わず前に出る。
だが、オルガが片手でそっと制した。
「もう少し、待って」
優しくそう言って、花に添えていた手を、すこしだけ離す。
光が揺れ、部屋の空気がさらに清らかになった気がした。
「もう呪いは、ほとんど消えてると思う。でも、長くかかってたから……回復魔法、かけてあげたほうがいい」
アルデバランは口を開きかけたが、何も言わずに唇を噛んだ。
かわりにルーカスが、ぽつりとつぶやく。
「……ありがとう、オルガ嬢。お前がいてくれて、本当によかった」
オルガは肩をすくめて笑った。
「褒めても、何にも出ないよ」
ゼーレがそれを聞いて、ふっと小さく笑った。
彼はゆっくりと息を吐き、白髪を後ろにかき分ける。
「植物とは、不思議なもんじゃな。人間に比べれば、ちっぽけに思えるが――かくも力強く、無限の力を秘めておる。あっぱれだ、花屋の娘よ」
「偏屈じじいが、素直じじいになった。……まあ、ありがと」
その軽口に、空気が少しだけ和らいだ。
そして、アルデバランがようやく小さく頭を下げる。
「……必ず、礼はする」
「いや、だいじょうぶ。私はただ――お花を見たかっただけだから」
そう言って、オルガはなおも咲き続ける花を見つめた。
部屋には、かすかに甘い香りが漂っていた。
けれどそれは、呪いの腐臭ではなかった。
新しく咲いた、花の匂い――希望の、匂いだった。
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