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王宮の毒花と森の片隅のお花屋さん
新人冒険者
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今日もオルガは畑で黙々と作業をしていた。手は忙しく動いていたが、意識は空に向かっていた。
「はいはーい、たーんとお食べ」
ひと声かけると、いつもの白いカラスが降りてきた。手のひらに置かれた赤い実を、満足そうに一粒ずつついばむと、ふわりと飛び立っていった。
最近、このカラスの訪問頻度が妙に増えている。可愛いといえば可愛いが、オルガが留守にしていると畑を荒らされかねないので、心穏やかではない。今のところ被害はないが、油断はできない。
そんなことをぼんやり考えていると、森の奥から声がした。
「これでいいのかな?」
「うーん、本にこの葉っぱっぽいのが載ってるよな……」
若い男の声が二つ。どうやら薬草を探しているらしい。オルガが気配を辿って視線を向けると、案の定、森の入り口で冒険者風の青年二人がしゃがみこんでいた。
微笑ましいなあと思って見ていたのも束の間。そのうちの一人が、迷いもなく葉を根ごと引っこ抜いた。
「だめー、だめだめー。全然だめ」
言いながら近づいていくと、青年たちは目を丸くして動きを止めた。オルガはその反応に構わず、まくし立てる。
「根っこは残さないとだめ。そこが命だから。また数日で生えてくるんだよ。それに、葉っぱ握りすぎ。効力落ちるよ。……講習受けてない?」
自分の口から出た言葉に、オルガは数日前の出来事を思い出した。受付のミーナが同じように怒っていたっけなあ。
「ほら見てて、こうやって取るの」
土に指を差し入れて、やわらかい新芽だけをやさしく摘む。力は最小限に。生命の流れを断ち切らないように。
「はい、やってみて。聞いてるー?」
「あ、は、はい!」
「え、えっと……こう?」
青年の一人が見よう見まねで葉を摘む。
「そうそう、上手。これ持ってけばミーナには怒られない、……たぶん」
オルガが笑うと、青年たちは顔を見合わせて苦笑いを浮かべた。すでに怒られたことがある顔だった。
「薬草のノルマ達成しないと、ランク上がらないもんね。がんばれー」
「お、おう!」
「はい!」
二人の名前はロレンツォとエンリケ。王都出身の新米冒険者。もともとは騎士団志望だったらしいが、推薦状も試験も必要な騎士団は狭き門だ。手っ取り早く稼げる冒険者の道を選んだ、と。
「二人とも、今からギルドに薬草持ってくの?」
「ああ、鮮度が落ちる前に」
ロレンツォの言葉に、オルガの目がきらりと光る。
「それならちょうどいいや。今からギルドに商品届けるんだけど、荷物持ち手伝ってくれる?」
「もちろん!僕たちで良ければ!」
「ああ、力仕事なら任せといて」
三人で荷物を抱えて森を降りる道中、会話は絶えなかった。
「あなたがオルガさんでしたか。先輩方から話は聞いてました」
「俺たち、魔法使えないんで。回復アイテム、助かってます」
「それはどうも、ご贔屓にー」
やがてギルドの建物が見えてきた。中は妙に騒がしい。
「なんだか慌ただしいね」
「大きい依頼でも入ったのか?」
人混みをかき分けて受付まで進むと、ミーナがぱっと顔を上げた。
「あ!オルガちゃん!いいところに来た!ギルド長ー!オルガちゃん来ましたよ!」
奥でセレンと何か話していたギルド長マッシモが、慌てた様子で近づいてきた。いつもののんびりした顔とは違う。
「オルガ、ちょうど良かった。今セレンに君を呼びに行かせようとしてたとこだったんだ」
「ほーん?なんかあった?」
「2日前からアルデバラン殿下が行方不明だ。ダンジョンに入ったまま、連絡が途絶えている」
「……なんでまた、そんなとこに」
「最近、魔物の動きが変だろ?その調査だ。だが、帰ってこない。……嫌な予感がしてる。オルガ、捜索を手伝ってくれるか?」
ギルドの喧騒の中、マッシモの言葉だけが、重たく沈んだ。
「はいはーい、たーんとお食べ」
ひと声かけると、いつもの白いカラスが降りてきた。手のひらに置かれた赤い実を、満足そうに一粒ずつついばむと、ふわりと飛び立っていった。
最近、このカラスの訪問頻度が妙に増えている。可愛いといえば可愛いが、オルガが留守にしていると畑を荒らされかねないので、心穏やかではない。今のところ被害はないが、油断はできない。
そんなことをぼんやり考えていると、森の奥から声がした。
「これでいいのかな?」
「うーん、本にこの葉っぱっぽいのが載ってるよな……」
若い男の声が二つ。どうやら薬草を探しているらしい。オルガが気配を辿って視線を向けると、案の定、森の入り口で冒険者風の青年二人がしゃがみこんでいた。
微笑ましいなあと思って見ていたのも束の間。そのうちの一人が、迷いもなく葉を根ごと引っこ抜いた。
「だめー、だめだめー。全然だめ」
言いながら近づいていくと、青年たちは目を丸くして動きを止めた。オルガはその反応に構わず、まくし立てる。
「根っこは残さないとだめ。そこが命だから。また数日で生えてくるんだよ。それに、葉っぱ握りすぎ。効力落ちるよ。……講習受けてない?」
自分の口から出た言葉に、オルガは数日前の出来事を思い出した。受付のミーナが同じように怒っていたっけなあ。
「ほら見てて、こうやって取るの」
土に指を差し入れて、やわらかい新芽だけをやさしく摘む。力は最小限に。生命の流れを断ち切らないように。
「はい、やってみて。聞いてるー?」
「あ、は、はい!」
「え、えっと……こう?」
青年の一人が見よう見まねで葉を摘む。
「そうそう、上手。これ持ってけばミーナには怒られない、……たぶん」
オルガが笑うと、青年たちは顔を見合わせて苦笑いを浮かべた。すでに怒られたことがある顔だった。
「薬草のノルマ達成しないと、ランク上がらないもんね。がんばれー」
「お、おう!」
「はい!」
二人の名前はロレンツォとエンリケ。王都出身の新米冒険者。もともとは騎士団志望だったらしいが、推薦状も試験も必要な騎士団は狭き門だ。手っ取り早く稼げる冒険者の道を選んだ、と。
「二人とも、今からギルドに薬草持ってくの?」
「ああ、鮮度が落ちる前に」
ロレンツォの言葉に、オルガの目がきらりと光る。
「それならちょうどいいや。今からギルドに商品届けるんだけど、荷物持ち手伝ってくれる?」
「もちろん!僕たちで良ければ!」
「ああ、力仕事なら任せといて」
三人で荷物を抱えて森を降りる道中、会話は絶えなかった。
「あなたがオルガさんでしたか。先輩方から話は聞いてました」
「俺たち、魔法使えないんで。回復アイテム、助かってます」
「それはどうも、ご贔屓にー」
やがてギルドの建物が見えてきた。中は妙に騒がしい。
「なんだか慌ただしいね」
「大きい依頼でも入ったのか?」
人混みをかき分けて受付まで進むと、ミーナがぱっと顔を上げた。
「あ!オルガちゃん!いいところに来た!ギルド長ー!オルガちゃん来ましたよ!」
奥でセレンと何か話していたギルド長マッシモが、慌てた様子で近づいてきた。いつもののんびりした顔とは違う。
「オルガ、ちょうど良かった。今セレンに君を呼びに行かせようとしてたとこだったんだ」
「ほーん?なんかあった?」
「2日前からアルデバラン殿下が行方不明だ。ダンジョンに入ったまま、連絡が途絶えている」
「……なんでまた、そんなとこに」
「最近、魔物の動きが変だろ?その調査だ。だが、帰ってこない。……嫌な予感がしてる。オルガ、捜索を手伝ってくれるか?」
ギルドの喧騒の中、マッシモの言葉だけが、重たく沈んだ。
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