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第三十七話……カンスケの妄言
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「社長、御具合いかがですかな?」
晴信がベッドで目覚めると、傍らにはカンスケが座っていた。
隻眼白髪交じりの風貌なので、とても目の保養にはなり様がない。
……だが、その顔にはしっかりとした生への安心感といったものがあった。
「あんまりよくない」
晴信が一拍考えだした返事がこれだった。
少し拗ねているようだった。
いつも単身戦地へと赴かされているからだろうか。
「みんなは無事?」
「はい、皆無事でございます。奥方様も大層心配なさっておいででしたよ」
「ああ」
奥方様とはブリュンヒルデのことだ。
晴信は何故かあまり彼女となじめず、友達といった感が強かった。
「戦線はどうなった?」
「戦線の方は社長のお陰で、作戦目的の渓谷地が占領できたようです。あとは敗残兵狩りに移るとのことです。今回はお見事でしたな」
「死にかけたらダメじゃん」
そういう晴信に、カンスケは突如上着を脱いだ。
そこには古傷の傷跡が都会の交通網のように描かれていた。
移植された皮膚も別の種の生物が混じっており、さながら幼稚園の絵画のようだった。
「わっはは! 死にかけるとはこのようになってから言ってほしいですな!」
「大声はやめてくれよ。傷に響くよ」
「あい申し訳ない。だがディー殿が申しておりましたよ。頭が無事でよかったと。頭を噴き飛ばされると再生が難しいと聞きます」
……難しい?
それは不可能なのじゃないか?
晴信はそう思う。
「ミハタ社の方はどうなってる?」
「はい。新たに核融合炉を積載した輸送艦3隻を就航させました」
「順調だね」
「順調ではありませんぞ! あのザムエルとか言う老人が毎回値切っていくのです。ろくに利益が上がりませんわ」
「どうせカンスケのことだろうから、赤字では売ってないのでしょ?」
「もちろん」
カンスケは鼻髭を自慢げにさする。
「でもさ、どうして僕は暗殺されかかったのだろう?」
晴信が少しうつむく。
「まぁ、功績が大きいとそうなりますな……」
「それだけ?」
晴信は問い返す。
「治安があまりよくないことも原因です。それに……」
「それに?」
カンスケはひとつため息をつく。
「社長、この世界において、食べ物にこまる人々がつく職業とはなにかわかりますかな?」
「わからない」
「それは傭兵です。貧しさゆえに安易に命を売るのです。よくお金のある人は武器を捨てて欲しいと言いますが、彼らは貧しさゆえに武器を捨てることが出来なのです。もちろん彼らは自爆同然の暗殺も担います」
「つまり、この地の貧しさに暗殺されたと?」
「その通りです。平和は願えば手に入るものではりませぬ。あまねく民が武器を捨てても生活をしていけるようにしていかねばならないのです」
「でもさ、僕は社長で政治家ではないよ」
「そのための政略結婚でございました。申し訳ない」
「もう、僕は政治家なのかな?」
その問いに、カンスケはお茶を一口、口に含んで応えた。
「ある一定の地位にはありますな。ブリュンヒルデ様にはあまり力はありませぬ。実際にはミハタ社の力が奥方様を支えているのです」
「じゃあ、僕がやることは何?」
「この世界を平和に導いてくださるには、先ずは貧民たちを食わせてやることです。満足な生活を手にすれば、普通の生物は命を掛ける兵隊にはなりたくないものですから……」
「わかった。じゃあミハタ社は貧民たちを優先的に雇うことにしよう」
それを聞いて、カンスケは天井に目線を移す。
「それは技能のないものを雇うということに繋がりますぞ。教育や技術習得、その他もろもろの経費が社を圧迫しますぞ!」
「構わない。その分は僕たちで稼ごうじゃないか!」
晴信は今できる背一杯の笑顔をカンスケにしてみせた。
「さすがは社長! 某がみこんだだけありましたぞ!」
カンスケは手を叩いて喜んだ。
その音は晴信の傷に響いたのは言うまでもない……。
☆★☆★☆
「みんな心配をかけたね」
晴信は車いす姿で、ドレッドノートの艦橋に現れた。
腕には点滴が釣られ、万全といった感ではない。
その車いすを押すのはディーだった。
「ご無事でなによりです」
半ば涙目のエリーから花束を貰う晴信。
他の士官たちも喜びと安堵がひとしおだった。
「……では、先の作戦の成功により、我が艦はこれより惑星コローナに帰投する。抜錨せよ!」
「はっ」
ドレットノートは物資輸送の観点から、水上艦艇用の一般港湾施設に停泊していたのだ。
水中から錨が巻き上げられ、艦内に仕舞われる。
「ドレッドノート発進せよ!」
「はっ! 発進します!」
ドレッドノートは惑星エーレントラウトの海水面を滑走。
勢いをつけたところでメインエンジンに点火。
直ちに海水面を離れ、雲を突き抜け、空高く飛びあがったのだった。
☆★☆★☆
――その頃。
ゲルマー星系主星アレクサンドルの上空では、新造兵器の実験がはじまっていた。
「くくく……、これで宇宙戦艦などは無用な長物になろうな……」
ゼノン王が怪しく笑う。
「仰せの通り、この遊撃生物兵器サーペントが遍く宇宙船を仕留めてまいります」
脇にひれ伏すアンゲラー辺境拍が応えた。
……前文明時代、最悪と言われた宇宙生物兵器が再び鼓動をはじめようとしていたのだった。
晴信がベッドで目覚めると、傍らにはカンスケが座っていた。
隻眼白髪交じりの風貌なので、とても目の保養にはなり様がない。
……だが、その顔にはしっかりとした生への安心感といったものがあった。
「あんまりよくない」
晴信が一拍考えだした返事がこれだった。
少し拗ねているようだった。
いつも単身戦地へと赴かされているからだろうか。
「みんなは無事?」
「はい、皆無事でございます。奥方様も大層心配なさっておいででしたよ」
「ああ」
奥方様とはブリュンヒルデのことだ。
晴信は何故かあまり彼女となじめず、友達といった感が強かった。
「戦線はどうなった?」
「戦線の方は社長のお陰で、作戦目的の渓谷地が占領できたようです。あとは敗残兵狩りに移るとのことです。今回はお見事でしたな」
「死にかけたらダメじゃん」
そういう晴信に、カンスケは突如上着を脱いだ。
そこには古傷の傷跡が都会の交通網のように描かれていた。
移植された皮膚も別の種の生物が混じっており、さながら幼稚園の絵画のようだった。
「わっはは! 死にかけるとはこのようになってから言ってほしいですな!」
「大声はやめてくれよ。傷に響くよ」
「あい申し訳ない。だがディー殿が申しておりましたよ。頭が無事でよかったと。頭を噴き飛ばされると再生が難しいと聞きます」
……難しい?
それは不可能なのじゃないか?
晴信はそう思う。
「ミハタ社の方はどうなってる?」
「はい。新たに核融合炉を積載した輸送艦3隻を就航させました」
「順調だね」
「順調ではありませんぞ! あのザムエルとか言う老人が毎回値切っていくのです。ろくに利益が上がりませんわ」
「どうせカンスケのことだろうから、赤字では売ってないのでしょ?」
「もちろん」
カンスケは鼻髭を自慢げにさする。
「でもさ、どうして僕は暗殺されかかったのだろう?」
晴信が少しうつむく。
「まぁ、功績が大きいとそうなりますな……」
「それだけ?」
晴信は問い返す。
「治安があまりよくないことも原因です。それに……」
「それに?」
カンスケはひとつため息をつく。
「社長、この世界において、食べ物にこまる人々がつく職業とはなにかわかりますかな?」
「わからない」
「それは傭兵です。貧しさゆえに安易に命を売るのです。よくお金のある人は武器を捨てて欲しいと言いますが、彼らは貧しさゆえに武器を捨てることが出来なのです。もちろん彼らは自爆同然の暗殺も担います」
「つまり、この地の貧しさに暗殺されたと?」
「その通りです。平和は願えば手に入るものではりませぬ。あまねく民が武器を捨てても生活をしていけるようにしていかねばならないのです」
「でもさ、僕は社長で政治家ではないよ」
「そのための政略結婚でございました。申し訳ない」
「もう、僕は政治家なのかな?」
その問いに、カンスケはお茶を一口、口に含んで応えた。
「ある一定の地位にはありますな。ブリュンヒルデ様にはあまり力はありませぬ。実際にはミハタ社の力が奥方様を支えているのです」
「じゃあ、僕がやることは何?」
「この世界を平和に導いてくださるには、先ずは貧民たちを食わせてやることです。満足な生活を手にすれば、普通の生物は命を掛ける兵隊にはなりたくないものですから……」
「わかった。じゃあミハタ社は貧民たちを優先的に雇うことにしよう」
それを聞いて、カンスケは天井に目線を移す。
「それは技能のないものを雇うということに繋がりますぞ。教育や技術習得、その他もろもろの経費が社を圧迫しますぞ!」
「構わない。その分は僕たちで稼ごうじゃないか!」
晴信は今できる背一杯の笑顔をカンスケにしてみせた。
「さすがは社長! 某がみこんだだけありましたぞ!」
カンスケは手を叩いて喜んだ。
その音は晴信の傷に響いたのは言うまでもない……。
☆★☆★☆
「みんな心配をかけたね」
晴信は車いす姿で、ドレッドノートの艦橋に現れた。
腕には点滴が釣られ、万全といった感ではない。
その車いすを押すのはディーだった。
「ご無事でなによりです」
半ば涙目のエリーから花束を貰う晴信。
他の士官たちも喜びと安堵がひとしおだった。
「……では、先の作戦の成功により、我が艦はこれより惑星コローナに帰投する。抜錨せよ!」
「はっ」
ドレットノートは物資輸送の観点から、水上艦艇用の一般港湾施設に停泊していたのだ。
水中から錨が巻き上げられ、艦内に仕舞われる。
「ドレッドノート発進せよ!」
「はっ! 発進します!」
ドレッドノートは惑星エーレントラウトの海水面を滑走。
勢いをつけたところでメインエンジンに点火。
直ちに海水面を離れ、雲を突き抜け、空高く飛びあがったのだった。
☆★☆★☆
――その頃。
ゲルマー星系主星アレクサンドルの上空では、新造兵器の実験がはじまっていた。
「くくく……、これで宇宙戦艦などは無用な長物になろうな……」
ゼノン王が怪しく笑う。
「仰せの通り、この遊撃生物兵器サーペントが遍く宇宙船を仕留めてまいります」
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……前文明時代、最悪と言われた宇宙生物兵器が再び鼓動をはじめようとしていたのだった。
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