現実的な異世界召喚聖女

章槻雅希

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召喚側の思惑

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 美琴は文官アルフォンソの案内で王城の一角、貴賓を招く応接室に入った。

「まずは、初対面の貴方方に礼を失する言動をしたことをお詫びします」

 第一王子エンリケに見せた高慢な態度とは打って変わった、礼節を弁えた言葉遣いで美琴はアルフォンソとナサニエルに先ほどの無礼を詫びた。それにアルフォンソとナサニエルは慌てる。

 聖女とは神に選ばれた救世の乙女だ。そんな尊い少女に詫びられるなど二人は思ってもいなかった。寧ろ神の使いである少女に無礼を働いたのは王子のほうだ。

「いいえ、お招きしたにも関わらず尊大な態度で礼を失しているのはこちらのほうです。お詫び申し上げます、聖女様」

 本来ならば聖女召喚は必要ない状況だ。それを、『聖女と婚姻し、王位に就く』というエンリケと側近の私欲と都合だけを理由に聖女召喚は行われてしまった。それを知るアルフォンソとナサニエルは聖女への罪悪感でいっぱいだった。

 筆頭公爵家の令嬢を婚約者に持ちながら未だに立太子されていないほどに将来を不安視されている王子だ。隣国の王女だった王妃への配慮から王太子最有力候補という立場を与えられているが、国王も重臣たちも側室腹の第二王子を次期国王としたいと水面下で動いている。それを感じ取った策謀だけは得意な側近の一人が第一王子を唆し、神殿の一部を巻き込んで強行したのが今回の聖女召喚だった。

 神殿の一部、聖女召喚を行なった者は自分たちの魔力の強さと聖女召喚を行い成功させたという栄誉を得ようとした研究馬鹿の神官と、隣国との繋がりで甘い汁を啜っていた一部の権勢欲の強い神官だった。それにナサニエルは苦い思いを抱えている。

 結局、聖女召喚を為した者たちは王家側も神殿側も己のことしか考えていないのだ。国民のことも国のことも考えてなどいない。まして、異世界に召喚される聖女の心情も立場も何も考慮などしていなかった。

「貴方方は責任を負える立場ではないでしょうから、謝罪は不要です。謝罪はそれをすべき者たちにいずれきちんとしてもらいます。貴方方を指名したのは、あの中で貴方方だけが私に申し訳ないといった表情をなさっていたからです。貴方方ならば正直に、誠実に、私の立場や為すべきことを教えてくれると思ったからです」

 美琴は恐縮しきりなアルフォンソとナサニエルに柔らかい声音で告げる。

「まず、何を目的として私が召喚されたのか、私は何をしなければいけないのか、教えてもらえますか?」

 まぁ、大体想像はついている。ラノベの定番の瘴気の浄化とか魔王討伐とか、そういったものだろう。魔王討伐ならば勇者という存在も召喚されるなり国内で選ばれるなりしているだろうが、そういった気配はないから、大方瘴気の浄化だろうが。

「建前上は、国境付近の魔の森に発生している瘴気の浄化です」

 登利津芙媛の影響か、アルフォンソは含みのある返答をする。建前上、つまり本当の目的は違うということだ。

「魔の森に瘴気が発生しているのは事実です。しかし、王国騎士団と王国魔導師団、神殿聖騎士団で十分に対応可能な範囲で、態々聖女様に異世界から来ていただくほどの規模ではありません」

 更にアルフォンソは現状を正直に告げる。

「エンリケ王子は第一王子ですが、その愚かさから未だに立太子されていません。隣国王女の王妃の子という血筋の良さ、筆頭公爵家令嬢を婚約者に持つ強い後ろ盾があるにも関わらず、王太子ではないのです。それに焦った王子とその側近が聖女様を召喚し王子の妃とすることで、エンリケ王子を次期国王とする狙いがあっての召喚なのです」

「エンリケ王子は婚約者の公爵令嬢を嫌っています。あまりにも優秀だからです。当てつけのように身分が低く身体と媚を売るしか能のない男爵令嬢を寵愛しています。王子自身も見た目と身分しか能のない、下半身で生きているような愚か者です」

 おおう、ぶっちゃけたなと美琴は思った。登利津芙媛の影響は有ろうが、ここまでぶっちゃけるともなると、相当エンリケへの鬱憤が溜まっていると見える。大体二人とも『エンリケ王子』と言い、敬称である殿下という言葉は一切使っていないのだ。

「では、私を召喚したのは王子と側近の独断で、国王や国の重臣は関わっていないということですか」

「どうせ成功しないだろうと思っていたようです。ですが、成功した今は聖女様を利用する気満々でしょう。騎士団や魔導師団、聖騎士団を動かせばそれなりの資金が必要になりますから」

 ほほう、それは聖女には無料奉仕させるということかと美琴は眉を顰める。なるほどなるほど、胸糞悪いラノベのような展開なわけだ。召喚した聖女を無料奉仕させて、瘴気を払わせ、最終的にはエンリケ王子ごとポイ捨てする気だろうと、国王や国の重臣の思惑を推し測る。

「そうですか。判りました。では、色々と国王や神殿と話を詰めなければいけませんね。国王と国の重臣の代表、それから神殿のトップとの会談の場を設けてください。まずはそこからです」

 美琴は要求を突きつける。至極当たり前のことを告げたつもりだが、アルフォンソもナサニエルも鳩が豆鉄砲を食ったような表情をしている。まさか、聖女がそんな要求をするとは思っていなかったのだろう。

 聖女召喚はこれまでにも行われてきた。そして、当時の状況は王家にも神殿にも記録が残っている。聖女たちは王子や神官の求めに応じて状況を受け入れていた。若い女性が好むような見目麗しい王子や高位貴族、神官を配していたから、聖女は容易くこちらの掌の上で転がされていたのだ。

 しかし、この聖女は違う。今回も見目麗しい青年が配されていたのに、目もくれなかった。アルフォンソとナサニエルは実務担当者だったから、そこまで見目がいいわけではない。なのに彼女は一目で彼らが実務担当者と見抜き、貌だけが取り柄の青年達は完全に無視していた。

「あ、瘴気を祓うって、その方法は? 神殿で教えてもらえるの?」

「ああ、はい。私がご指導させていただきます」

 聖女の規格外(飽くまでも歴代お花畑脳な聖女と比べて)な言動に混乱していたナサニエルがハッと気づいたかのように答える。どうやら瘴気を祓うには何らかの行動が必要なようだ。よくあるラノベのようにその場にいるだけで世界の瘴気が祓われるといったご都合主義な展開はないらしい。

「そう、それならよろしくお願いします。では、早速、国王と神殿の長との会談の場を設けてくださいね」

 美琴はにっこりと笑って、当初の要求を再度突きつけたのだった。
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