当然だったのかもしれない~問わず語り~

章槻雅希

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 彼女は本当に健気で無邪気で天真爛漫で、真っ直ぐな愛らしい少女でした。一途に愛を求め与え、自分たちの信ずる真実の愛を貫きました。

 ですから、こうなったのも当然だったのでございましょう。







 第一王子妃アンジェリカは信じられないものを見るかのようにわたくしを見つめております。

「ど……ぢで……ベアトリーチェ……ざま……」

 愛らしい花のかんばせを苦痛に歪め、アンジェリカはわたくしに縋るかのように手を伸ばしました。否、掴みかかろうとしているのかもしれません。それくらいはするでしょう。かつては近所の少年と取っ組み合いの喧嘩をするくらいにはお転婆だったと言っておりましたもの。

 アンジェリカ、貴女は王宮ここには相応しくなかったのです。だから排除されたのです。──いいえ、王宮伏魔殿が貴女には相応しくなかったのです。

 事切れて動かなくなったアンジェリカをわたくしはただ見つめました。これで役目は終わりです。王家から出た罪人の処理を見届けるのが次期王妃であるわたくしの役目とされたのでした。次期国王である夫とともに。孤独な玉座に座る覚悟を問われたのかもしれません。

「アンジェリカ、貴女の愛した方も既にお待ちになっていらっしゃいます。望んだように、永遠に一緒にいられましてよ」

 今頃、第一王子である彼女の夫はわたくしの夫である王太子が看取っていることでしょう。アンジェリカと同じく毒杯を賜ったのですから。尤も、アンジェリカは毒杯だとは気づいていなかったでしょうけれど。

 公には二人は心中したとされます。いいえ、表向きには病死の発表がなされ、裏では心中だと噂されることになるでしょう。外交の失敗により戦争の一歩手前まで国を危機に追い込んだ責任を取らされ幽閉されることを恐れて死を選んだと。







 かつての愛らしさは見る影もない、苦悶の形相のアンジェリカを見遣り、遺体の処分を言いつけます。

 最期までアンジェリカは何故自分が死なねばならないのか、理解出来なかったことでしょう。自分たちは崇高な真実の愛を貫き、その素晴らしさを知らしめようとしただけだと思っていたのでしょうから。

 王侯貴族に崇高な真実の愛なんて必要ありませんのに。

 王族としての責務を理解せず、我欲を満たそうとしたことがアンジェリカの命を奪いました。そのことにも彼女は最期まで気づかなかったのでしょう。

 第一王子に見初められなければ、彼女は平穏な一生を送れたでしょうに。否、見初められても分不相応な正妻の地位を望まなければ。

 今更言っても仕方のないことですけれど。ある意味彼女は王家の被害者でもあるのですけれど。それでも自ら選んだのであれば、相応の責任もございましょう。

 彼女たちの冥福を祈ることは致しません。わたくしに祈られても嬉しくないでしょうし。彼女とその夫にとってみれば、わたくしは紛れもない敵なのですから。

「恨み言はいずれ煉獄で聞いて差し上げますわ。お待ちくださいましね、アンジェリカ」
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