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14.現実世界
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「それはあんたがなんかしたんでしょ! あんたみたいなバグがいるから上手く攻略が進まないのよ」
どこまでも現実と認めず、メアリーは責任転嫁いたします。
「バグだとおっしゃるならあなたの行動もそうではなくて? ゲームであれば今の時期はまだ誰とも名前で呼び合ったりはしていないでしょう? ゲームのヒロインは注意されれば名前の呼び方を改めていたわ。そして攻略対象に愛称呼びを求められてからリック様やマット様、エド様と呼んでいたはずよ」
でもメアリーは初めから愛称で呼んでおりました。何度窘められても諫められてもそれが改まることはございませんでした。
「貴族は礼節を重んじますの。それを無視して近づいてくる者を受け入れるほど寛容ではなくてよ。だから殿下もお兄様もあなたを嫌うのです」
「でもトマスもヘンリーも何も言わなかったわ」
ええ、そうでしょうね。彼らは長兄が家を継げば平民となりますもの。ですから、そこまで彼らは貴族としての礼節を重んじてはおりません。むしろ早めに平民の常識に慣れておこうとしておりましたから、『これが平民の常識』とのたまうメアリーを『そういうものか』と受け入れてしまっていたのです。なお、エドワードに関しては『毛色が変わっていて面白い』と放置しているようですわ。
それを伝えればメアリーは愕然としています。
「あなたの行動によってあなたは孤立しているんです。ゲームのヒロインであれば、どんな行動を取ってもモブである友人たちはヒロインの側におりましたけれど、ここは現実です。だからいつまでも貴族の最低限の常識を弁えないあなたから離れたのです。あなたと共にいれば巻き込まれて自分まで非常識扱いされてしまいますもの」
入学当初はメアリーにも同級の女性の友人はおりました。それこそゲームのお役立ちキャラですとか、スピーカー役だった令嬢とか。
ですが、メアリーは彼女たちを一個人の人間としては見ず、ゲームの役割だけを求めました。その結果、彼女たちに距離を置かれております。当然ですわね。完全に道具扱いされ親愛と善意からの忠告は馬鹿にされて無視されるのです。どちらか一方だけの要求を聞き続けるなんてことまともな友人関係ではありえませんもの。
「あなたにとって有り得ないことばかりが起きているのでしょう? けれど、現実の世界では至極当然のことではなくて?」
そう告げればメアリーは顔を俯かせる。様々なことが今彼女の頭の中を巡っているのでしょう。
様々なこと──上手くいかない攻略のことやこれまでの人生を思い返しているのかもしれません。
メアリーは攻略が上手く行かないと言っていますが、それは殿下やお兄様に限ったことではありません。着実に親密になっていっているエドワード、トマス、ヘンリーであってもゲームのような行動は取っていないのです。
ゲームではこれくらい親密になれば攻略対象は様々な贈り物をヒロインへプレゼントします。男爵家では買えないような格式ある商会の品々を上位貴族であるエドワードは貢ぎますし、裕福な伯爵家と子爵家の子息であるトマスとヘンリーもことあるごとに高額なアクセサリーや小物をプレゼントするのです。
けれど現実の彼らはそうではありません。エドワードは学生時代の一時の遊び相手に婚約者にプレゼントするような高級な品を贈ることはなく、精々庶民向けの小物程度。トマスやヘンリーに至っては自由になる金銭は殆どなく、プレゼントどころか下手をすればデートの飲食代をメアリーが出さねばならないほどです。
また、ゲームであれば学院内の学生寮で過ごし、それゆえの夜のイベントなどもございますし、ヒロインは親の目のないところでのびのびと過ごします。けれどメアリーはあまりの常識のなさに王都の別邸に軟禁状態です。堅物の老執事が学院の登下校に同行しますから自由はございません。
学院から戻ればマナーや礼儀作法を教える家庭教師が待ち構え、寝るまでの間ずっと監視されているようです。それでも全く改善しないあたり、いっそ天晴でございますね。
「ゲームじゃない……? 本当に? だって、私、名前も、髪の色も、顔も全部ヒロインだよ」
良い感じに混乱しておりますわね。
「けれどよかったではございませんか。ゲームならバッドエンドがございましてよ。王太子ルートなら内乱罪で絞首刑。お兄様とエドワードルートならば婚約者の実家を貶めた罪でお家お取り潰しの上貧民街で野垂れ死に。トマスなら逆上したトマスに刺殺されて、ヘンリーの場合は最下層の娼館落ちの上性病で病死。ここが現実であるからこそその結末もなくなりますわ」
中々にヒロインのバッドエンドは鬼畜なものばかりでございます。全て死亡エンドですもの。トマスルートが苦しまない分マシかもしれませんわねと言ってしまうほど過酷でございます。
「そう……なの? 現実なら、そんなことにならないの?」
「なりませんわ」
まぁ、このままであれば有り得ない未来ではございませんけれど。少なくとも殿下とお兄様のルートはバッドエンドになるほど関係性が築けておりませんし、エドワードも彼と婚約者が割り切っていますからないでしょう。
トマスとヘンリーは微妙ですけれど、これ以上関係を進めなければ問題ないと思いますわ。まぁ、トマスとヘンリーは別に攻略なさっても問題ありませんけれど。既にお2人とも婚約解消されておりますから断罪劇はおこりませんし。彼らの実家程度であれば国政には全く影響ございませんからご自由になさればよろしいわ。
「ただね、これから先のあなたの人生はこのままではお先真っ暗ですわよ。あなたの評判、かなり悪いのですもの。学院と関係ないところで恋人を見つけて結婚なさるのなら問題ないでしょうけれど、貴族として生きていきたいなら、このままでは将来には不安しかございませんわね」
ゲームのバッドエンドのような生命の危機はないにしても、貴族令嬢としての社会的生命は危機に瀕しておりますわね。
どこまでも現実と認めず、メアリーは責任転嫁いたします。
「バグだとおっしゃるならあなたの行動もそうではなくて? ゲームであれば今の時期はまだ誰とも名前で呼び合ったりはしていないでしょう? ゲームのヒロインは注意されれば名前の呼び方を改めていたわ。そして攻略対象に愛称呼びを求められてからリック様やマット様、エド様と呼んでいたはずよ」
でもメアリーは初めから愛称で呼んでおりました。何度窘められても諫められてもそれが改まることはございませんでした。
「貴族は礼節を重んじますの。それを無視して近づいてくる者を受け入れるほど寛容ではなくてよ。だから殿下もお兄様もあなたを嫌うのです」
「でもトマスもヘンリーも何も言わなかったわ」
ええ、そうでしょうね。彼らは長兄が家を継げば平民となりますもの。ですから、そこまで彼らは貴族としての礼節を重んじてはおりません。むしろ早めに平民の常識に慣れておこうとしておりましたから、『これが平民の常識』とのたまうメアリーを『そういうものか』と受け入れてしまっていたのです。なお、エドワードに関しては『毛色が変わっていて面白い』と放置しているようですわ。
それを伝えればメアリーは愕然としています。
「あなたの行動によってあなたは孤立しているんです。ゲームのヒロインであれば、どんな行動を取ってもモブである友人たちはヒロインの側におりましたけれど、ここは現実です。だからいつまでも貴族の最低限の常識を弁えないあなたから離れたのです。あなたと共にいれば巻き込まれて自分まで非常識扱いされてしまいますもの」
入学当初はメアリーにも同級の女性の友人はおりました。それこそゲームのお役立ちキャラですとか、スピーカー役だった令嬢とか。
ですが、メアリーは彼女たちを一個人の人間としては見ず、ゲームの役割だけを求めました。その結果、彼女たちに距離を置かれております。当然ですわね。完全に道具扱いされ親愛と善意からの忠告は馬鹿にされて無視されるのです。どちらか一方だけの要求を聞き続けるなんてことまともな友人関係ではありえませんもの。
「あなたにとって有り得ないことばかりが起きているのでしょう? けれど、現実の世界では至極当然のことではなくて?」
そう告げればメアリーは顔を俯かせる。様々なことが今彼女の頭の中を巡っているのでしょう。
様々なこと──上手くいかない攻略のことやこれまでの人生を思い返しているのかもしれません。
メアリーは攻略が上手く行かないと言っていますが、それは殿下やお兄様に限ったことではありません。着実に親密になっていっているエドワード、トマス、ヘンリーであってもゲームのような行動は取っていないのです。
ゲームではこれくらい親密になれば攻略対象は様々な贈り物をヒロインへプレゼントします。男爵家では買えないような格式ある商会の品々を上位貴族であるエドワードは貢ぎますし、裕福な伯爵家と子爵家の子息であるトマスとヘンリーもことあるごとに高額なアクセサリーや小物をプレゼントするのです。
けれど現実の彼らはそうではありません。エドワードは学生時代の一時の遊び相手に婚約者にプレゼントするような高級な品を贈ることはなく、精々庶民向けの小物程度。トマスやヘンリーに至っては自由になる金銭は殆どなく、プレゼントどころか下手をすればデートの飲食代をメアリーが出さねばならないほどです。
また、ゲームであれば学院内の学生寮で過ごし、それゆえの夜のイベントなどもございますし、ヒロインは親の目のないところでのびのびと過ごします。けれどメアリーはあまりの常識のなさに王都の別邸に軟禁状態です。堅物の老執事が学院の登下校に同行しますから自由はございません。
学院から戻ればマナーや礼儀作法を教える家庭教師が待ち構え、寝るまでの間ずっと監視されているようです。それでも全く改善しないあたり、いっそ天晴でございますね。
「ゲームじゃない……? 本当に? だって、私、名前も、髪の色も、顔も全部ヒロインだよ」
良い感じに混乱しておりますわね。
「けれどよかったではございませんか。ゲームならバッドエンドがございましてよ。王太子ルートなら内乱罪で絞首刑。お兄様とエドワードルートならば婚約者の実家を貶めた罪でお家お取り潰しの上貧民街で野垂れ死に。トマスなら逆上したトマスに刺殺されて、ヘンリーの場合は最下層の娼館落ちの上性病で病死。ここが現実であるからこそその結末もなくなりますわ」
中々にヒロインのバッドエンドは鬼畜なものばかりでございます。全て死亡エンドですもの。トマスルートが苦しまない分マシかもしれませんわねと言ってしまうほど過酷でございます。
「そう……なの? 現実なら、そんなことにならないの?」
「なりませんわ」
まぁ、このままであれば有り得ない未来ではございませんけれど。少なくとも殿下とお兄様のルートはバッドエンドになるほど関係性が築けておりませんし、エドワードも彼と婚約者が割り切っていますからないでしょう。
トマスとヘンリーは微妙ですけれど、これ以上関係を進めなければ問題ないと思いますわ。まぁ、トマスとヘンリーは別に攻略なさっても問題ありませんけれど。既にお2人とも婚約解消されておりますから断罪劇はおこりませんし。彼らの実家程度であれば国政には全く影響ございませんからご自由になさればよろしいわ。
「ただね、これから先のあなたの人生はこのままではお先真っ暗ですわよ。あなたの評判、かなり悪いのですもの。学院と関係ないところで恋人を見つけて結婚なさるのなら問題ないでしょうけれど、貴族として生きていきたいなら、このままでは将来には不安しかございませんわね」
ゲームのバッドエンドのような生命の危機はないにしても、貴族令嬢としての社会的生命は危機に瀕しておりますわね。
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