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17.正妻は有り得ない
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わたくしの解説にメアリーは呆然としております。信じられないというか信じたくないのでしょう。ハッピーエンド後のことはゲームにもノベライズにも何も触れられていませんでしたし、続編も出てはおりませんから。わたくしの予測を否定する材料をメアリーは持たないのです。
「仮に結ばれることが認められたと致しましょう。ですが、あなたが殿下やお兄様、エドワードの正妻となることはありませんわ。まぁ、トマスとヘンリーなら可能性はございますけれど。彼ら2人は卒業後は平民となることが元々決まっておりましたからね」
「えっ、なんで!?」
あらあらやはりこれもご存じなかったのですね。
「彼らは三男ですもの。下位貴族でしかも法服貴族。跡継ぎである長男と万一のスペアである次男以外は早々に家を出されますのよ。学院卒業まで家を出されなかったことのほうがむしろ幸運です」
我が家などの5大公爵家であれば複数の爵位を持ちますし分家を起こすことで広大な領地を管理しますから、余程のことがなければ平民となることはございません。けれどそれ以外の貴族は大抵三男以下は平民になります。だから貴族の中には男子は2人までしか作らないという家も少なくございませんの。
因みに令嬢であれば結婚によって家を出るので平民になるケースは少ないですわね。それでも子爵家や男爵家だと全くないわけではございませんけれど。
「そんな……」
メアリーはショックを受けているようです。ですが、ブツブツと『平民になるなら意味ないわ。だったら初めから金持ちの商人狙うわよ…。あの2人はなしね。じゃあ、エドか』などと呟いておりますから、意外と冷静かもしれません。そして強かですわね。
「メアリーさん、身分制度を軽く見ないほうがよろしいわ。あなた男爵家の庶子でしょう。あなたが正妻として嫁ぐことが出来る相手は貴族ならば同位の男爵家くらいですわよ」
ですが、きっちりと夢を壊して差し上げましょう。
メアリーは現状庶子のままです。庶子は正確には貴族として認められておりません。正式な婚姻前に生まれた庶子は法律上実子であっても貴族とは認められないのです。ですから貴族となるには父親(貴族)との養子縁組が必要となるのです。実の親子であるのにおかしなことと思われるかもしれませんが、相続問題を起こさないためにそのような法律がございますの。
ですから、メアリーは男爵令嬢扱いされてはいるけれど実際には平民のままです。そして現状の行いから養子縁組されない可能性が非常に高いのです。であれば、正妻となれるのは男爵家か下位の騎士爵、上位であれば零落気味の子爵家ですわね。羽振りのいい、或いは歴史ある子爵家では受け入れられないでしょう。
そのように正妻にはなれない理由を説明すると、メアリーは言葉を失っていました。ここまで露骨に爵位が関わってくるとは思っていなかったのでしょう。
「愛人であれば爵位の制限はないでしょうけれど、所詮は愛人ですわ。当然本宅には住めません。適当な市井の住まいを与えられて平民として暮らすことになる可能性が高うございますわね」
メアリーは母親のことがあるからか、愛人となることには忌避感があるようです。どんなに贅沢が出来たとしても、所詮は愛人。離婚の難しい夫婦と違ってその結びつきは不安定ですし、周囲からは侮られることの多い立場ですもの。自己評価とプライドが高いメアリーにそれは受け入れられないことなのでしょう。
「あなたが今狙っているのはエドワードでしょうけれど、彼の場合でも精々愛人でしょうね。エドワードだと侯爵家の体面もございますから郊外に小さな家を与えられて、そこでお目付け役の使用人2~3人と暮らすことになるでしょう。実質はほぼ軟禁ですわね。それから愛人を正妻よりも先に迎えるわけにも参りませんから、正妻に跡継ぎが出来るまでは会うことも出来ないと思いますわ」
先ほどエドワード一本に絞るようなことを呟いておりましたから、彼の場合で説明いたしましょう。
正妻は無理で愛人一択。しかも正妻が後嗣を生むまでは会うことも出来ないでしょう。しかもハッピーエンド後であればヒロインのせいで婚約破棄に至っておりますから、社交界での彼の評判は大暴落しており、新たな妻となる女性も簡単には見つからないと思いますの。ほとぼりが冷めて結婚できるまで最低でも3年はかかりますわね。
「ああ、エドワードとヒロインは真実の愛で結ばれるのでしたわね。でしたら、エドワードが侯爵家を出て貴族位を捨て平民になればすぐにでも結婚は可能ですわね。そもそも彼は跡継ぎではございませんし、婚約破棄した時点で卒業後は家を出ることになるでしょう。侯爵家が持つ子爵位か男爵位をもらえれば幸運ですわね。子爵か男爵であれば正妻になれる可能性もゼロではございませんわね」
どのようなルートであろうとも、攻略対象が平民とならない限りは正妻はほぼ不可能でしょう。エドワードが子爵位以下をもらった場合は可能性は残りますけれど、恐らく父君のグレイ侯爵は勝手な婚約破棄をしたエドワードに爵位を与えることはないでしょうから、恐らく彼も平民になるしかないでしょうね。
尤も現実の彼は婚約破棄するつもりはなく、メアリーは学生時代の遊びと割り切っていますから、そもそもメアリーとハッピーエンドを迎えるということ自体が有り得ないのですけれど。
「仮に結ばれることが認められたと致しましょう。ですが、あなたが殿下やお兄様、エドワードの正妻となることはありませんわ。まぁ、トマスとヘンリーなら可能性はございますけれど。彼ら2人は卒業後は平民となることが元々決まっておりましたからね」
「えっ、なんで!?」
あらあらやはりこれもご存じなかったのですね。
「彼らは三男ですもの。下位貴族でしかも法服貴族。跡継ぎである長男と万一のスペアである次男以外は早々に家を出されますのよ。学院卒業まで家を出されなかったことのほうがむしろ幸運です」
我が家などの5大公爵家であれば複数の爵位を持ちますし分家を起こすことで広大な領地を管理しますから、余程のことがなければ平民となることはございません。けれどそれ以外の貴族は大抵三男以下は平民になります。だから貴族の中には男子は2人までしか作らないという家も少なくございませんの。
因みに令嬢であれば結婚によって家を出るので平民になるケースは少ないですわね。それでも子爵家や男爵家だと全くないわけではございませんけれど。
「そんな……」
メアリーはショックを受けているようです。ですが、ブツブツと『平民になるなら意味ないわ。だったら初めから金持ちの商人狙うわよ…。あの2人はなしね。じゃあ、エドか』などと呟いておりますから、意外と冷静かもしれません。そして強かですわね。
「メアリーさん、身分制度を軽く見ないほうがよろしいわ。あなた男爵家の庶子でしょう。あなたが正妻として嫁ぐことが出来る相手は貴族ならば同位の男爵家くらいですわよ」
ですが、きっちりと夢を壊して差し上げましょう。
メアリーは現状庶子のままです。庶子は正確には貴族として認められておりません。正式な婚姻前に生まれた庶子は法律上実子であっても貴族とは認められないのです。ですから貴族となるには父親(貴族)との養子縁組が必要となるのです。実の親子であるのにおかしなことと思われるかもしれませんが、相続問題を起こさないためにそのような法律がございますの。
ですから、メアリーは男爵令嬢扱いされてはいるけれど実際には平民のままです。そして現状の行いから養子縁組されない可能性が非常に高いのです。であれば、正妻となれるのは男爵家か下位の騎士爵、上位であれば零落気味の子爵家ですわね。羽振りのいい、或いは歴史ある子爵家では受け入れられないでしょう。
そのように正妻にはなれない理由を説明すると、メアリーは言葉を失っていました。ここまで露骨に爵位が関わってくるとは思っていなかったのでしょう。
「愛人であれば爵位の制限はないでしょうけれど、所詮は愛人ですわ。当然本宅には住めません。適当な市井の住まいを与えられて平民として暮らすことになる可能性が高うございますわね」
メアリーは母親のことがあるからか、愛人となることには忌避感があるようです。どんなに贅沢が出来たとしても、所詮は愛人。離婚の難しい夫婦と違ってその結びつきは不安定ですし、周囲からは侮られることの多い立場ですもの。自己評価とプライドが高いメアリーにそれは受け入れられないことなのでしょう。
「あなたが今狙っているのはエドワードでしょうけれど、彼の場合でも精々愛人でしょうね。エドワードだと侯爵家の体面もございますから郊外に小さな家を与えられて、そこでお目付け役の使用人2~3人と暮らすことになるでしょう。実質はほぼ軟禁ですわね。それから愛人を正妻よりも先に迎えるわけにも参りませんから、正妻に跡継ぎが出来るまでは会うことも出来ないと思いますわ」
先ほどエドワード一本に絞るようなことを呟いておりましたから、彼の場合で説明いたしましょう。
正妻は無理で愛人一択。しかも正妻が後嗣を生むまでは会うことも出来ないでしょう。しかもハッピーエンド後であればヒロインのせいで婚約破棄に至っておりますから、社交界での彼の評判は大暴落しており、新たな妻となる女性も簡単には見つからないと思いますの。ほとぼりが冷めて結婚できるまで最低でも3年はかかりますわね。
「ああ、エドワードとヒロインは真実の愛で結ばれるのでしたわね。でしたら、エドワードが侯爵家を出て貴族位を捨て平民になればすぐにでも結婚は可能ですわね。そもそも彼は跡継ぎではございませんし、婚約破棄した時点で卒業後は家を出ることになるでしょう。侯爵家が持つ子爵位か男爵位をもらえれば幸運ですわね。子爵か男爵であれば正妻になれる可能性もゼロではございませんわね」
どのようなルートであろうとも、攻略対象が平民とならない限りは正妻はほぼ不可能でしょう。エドワードが子爵位以下をもらった場合は可能性は残りますけれど、恐らく父君のグレイ侯爵は勝手な婚約破棄をしたエドワードに爵位を与えることはないでしょうから、恐らく彼も平民になるしかないでしょうね。
尤も現実の彼は婚約破棄するつもりはなく、メアリーは学生時代の遊びと割り切っていますから、そもそもメアリーとハッピーエンドを迎えるということ自体が有り得ないのですけれど。
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