所(世界)変われば品(常識)変わる

章槻雅希

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21.エピローグ

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「妃殿下、お時間でございます」
「ええ、判ったわ。すぐに参ります」
 わたくし付きの女官が次の執務の時間が来たことを知らせに参りました。忙しい執務の合間の休憩時間。愛する夫と子供たちとのティーブレイクも終わりです。
「かあたま、おちごと?」
「かーたま」
 愛らしい舌ったらずな幼い声は第一王女と第一王子。夫によく似た姫とわたくしと似た王子は寂しそうにわたくしを見つめます。
「2人とも父様がいるだろう? 父様だけではダメかい?」
 そんな子供たちを夫──国王となったリチャード様が抱き上げ頬擦りなさいますと、子供たちはキャッキャと嬉しそうに笑いますの。
「では、行ってまいりますわね」
「ああ。──しかし、彼女は見事に化けたね」
 先に執務室へと戻っていった女官の背を見ながら陛下は仰います。ええ、本当に彼女は見事に変わりました。その働きは素晴らしく、あと5年ほど経験を積めば叙爵してもよいのではないかという話も出ております。
 本当に彼女は──メアリーは頑張りましたわ。
「ええ、本当に。けれどあれが彼女の本質だったのですわ、きっと」
「我が妻は慧眼だったんだね」
 相変わらずわたくしに甘いリチャード様は何でもわたくしの手柄にしてしまいます。もう、恥ずかしいですわ。
「わたくしは始まりに手を貸しただけですわ。それに彼女はここで終わるような人ではございませんわ」



 学院を卒業して5年が経っております。卒業後わたくしはすぐにリチャード様に嫁ぎ、翌年には第一王女が生まれました。その2年後第一王子が生まれたのを機に譲位があり、リチャード様は国王に、わたくしは王妃になりました。
 姫が生まれた年にメアリーは女官として王宮に出仕し、それからメキメキと頭角を現し、わずか4年でわたくしの片腕と認識されるまでに至りましたの。
 公爵邸に招いて話をした翌日にはメアリーは態度を改め、フィーバー夫人の課外授業を受けるようになりました。殿方とも適切な距離を置き、取り巻きたちにこれまでのような付き合いは出来ない旨を説明しました。簡単には納得しない者も当然ながらいたようですが、メアリーの態度が改まったことでやがて彼らも諦めたようです。
 そうして彼女は見違えるほどの淑女となり、学業も上位に入る優秀な成績で卒業いたしました。その結果無事に男爵との養子縁組が行われ正式に男爵家の令嬢として貴族の一員となったのです。
 今現在はわたくしの信頼する女官として宮廷の文官や貴族からも一目置かれるようになりました。どうやら文官の1人と穏やかながらも好意を寄せあう関係となっているようです。
 学院時代にメアリーと親密だった殿方もそれぞれに己の道を歩んでおります。
 エドワードは婚約者と無事結婚いたしました。メアリーとの関係がなくなった後は別の複数の女性と浮名を流しておりましたが、結婚後はピタリとそれがなくなり、奥様一筋に穏やかな家族の親愛を向けているようです。尻に敷かれているとも聞きますけれど。
 トマスは学院時代に婚約が解消されておりましたので、平民となり、一兵卒として国軍に入隊いたしました。騎士団に入れなかったのは、学院時代の行いのせいだと聞いています。婚約者を蔑ろにしていた行為が『騎士にあるまじき行為』であるとして彼の父君が騎士団入団を認めなかったそうです。わたくしが知るのはそこまでで、今どうしているのかは存じません。
 ヘンリーは卒業後王宮の文官試験を受けたものの合格できず、今は領地の下級役人をしているそうです。学院での婚約者に対する対応が不味く、婚約解消されておりましたから、身分は平民となっています。
 2人の婚約者だった令嬢は婚約解消後新たな婚約を結び、現在はその方とご結婚、それなりの家庭を築いておられます。
 メアリーとの関係の中でどう婚約者に対応したかで明暗が分かれた結果となりました。誠実(と言ってもいいかどうかは激しく悩ましいのですが)な対応を取ったエドワードは当初の予定通り、婿養子となり侯爵家の次期当主となりました。婚約者に不誠実で愚かな対応をした2人は平民となり、当初の予測よりも厳しい環境に置かれることとなりました。
 メアリーは『私が引っ掻き回したから』と責任を感じておりましたが、そこは当事者の1人であるエドワードから『自己責任だ。貴族として男として彼らが愚かだっただけだ』と説得され、必要以上に気に病むことはしなかったようです。それでも過去の自分の行いを悔い、己の行動を律するようになりました。なお、現在エドワードとメアリーはきちんと貴族としての適切な距離を保った交流をしております。
 それぞれの行く末に思うところはあるものの、貴族として人としてそれぞれの責任において行動した結果が現在です。責任を果たさず身勝手な振舞いをした者にはそれに相応しい処遇が与えれたにすぎませんわ。
 己の過ちを知り、反省し、改め、努力をしたメアリーはそれに見合う成果を得ただけのこと。
 そう、それだけなのですわ。

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感想 7

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みんなの感想(7件)

庵六
2021.03.02 庵六

乙女ゲーにハマったフワちゃんが転生したらこうなる感じ。
現状認識させたらバリキャリになりそうなのもイメージ通り。

現実の男性マネージャーの悪評のように、幼少の頃の周りにいた人が悪かったね。

2021.03.02 章槻雅希

コメントありがとうございます◉‿◉

解除
Sougetsu
2021.02.28 Sougetsu

大変読み応えがあり、一気に面白く拝読しました。

2021.02.28 章槻雅希

コメントありがとうございます(≧▽≦)

解除
【玻璃〜hari】

余計な質問かもしれませんが、設定がしっかりと構築されてらっしゃるため敢えてお伺い致します。

王太子の教育係という帝王学に至るまで全般を教えるという立ち位置で描かれたのであれば、尚更その保有する思想が問われた上での選定は必須だと思われます。

主人公が頑張って候補から外すまでもなく除外されたと思うのですが、いかがでしょうか。

未来の国王候補である王太子の教育係ともなれば、例えマナーや常識だけを教える立場の教師といえども、その思想などを問われ選定されることが前提と言える世界のようにお見受けしたのですが、その辺りに違和感を覚えてしまいました。

瑣末なことを申し訳ありません。

2021.02.27 章槻雅希

コメントありがとうございます。
教育係については
まずゲームと異なる環境を作ろうとしたということがひとつ。
調査によって除外される可能性があったとしても、
ゲームでは夫の政治力によって教育係となっています。
なので確実に排除するために動きました。

ゲームでは教育係とはいってますが、
乳母とマナー講師の間のような、子守のようなものでした。(傅役ですらない)
グラフィックもなく設定資料に数文字触れられる程度のモブ未満ですから
そこはゲームの設定が甘いというか適当だったという感じです。

解除

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