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〖第13話〗
しおりを挟む言わないで欲しかった。自分がパンダメイクだったことを、マスカラもアイライナーも落ちているんだろうことを。
少しの間、まだ把握できていない現実を忘れていたかった。彼は正直すぎるところがあるかもしれない。
そんな彼の正直さが嫌いではないが、彼の言葉に少しだけ、痛みを覚えた。
何もないふりをして、丁寧にメイクを落としていく。じっと愉しそうに、彼は私の落ちかけた、乱れた化粧を落としていく過程をじっと見ていた。少し居心地が悪い。
「うん。あ、ありがとう。すごいね料理するんだ」
私は、躊躇いはあったが、メイクを落とした。パンダよりはマシなのに、彼に素顔を見られることが何故か嫌だった。
私が人前で化粧を落とすのは、付き合った人か女友達の前だけだ。コンパクトの鏡を見る、アイメイクを完全に取り終わり、会社や外出先でのオンの顔から、完全に力の抜けたオフの家の顔になっている。
知らない人の前で服を脱ぐような恥ずかしさと言えばいいのか、妙な感じがすると言えばいいのだろうか。べたつく昨日の名残りのメイクは取れたのに、まっさらな素肌の今、心もとない感じがする。
すうっと、外気を感じ窓の外を見ると雪が少し積もっていた。昨日のことも、シートと一緒にするりと落としてしまえたらいいのに。
全部、無かったことになればいいのに。昨夜に戻ってぼんやり会社から駅まで歩いて、家に帰って、夕ご飯を作って食べて、おはぎと、だいふくと寝れば元通り。出社して直樹に、いつも通り『おはよう』と言えば、彼は笑って『おはよ』と言ってくれそうだ。そんな夢みたいなことを考えてしまう。
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