氷雨と猫と君〖完結〗

カシューナッツ

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〖第51話〗

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 最初に戻っただけ。直樹に振られて雪見酒を飲んだあのときに戻った。約二ヶ月の記憶を消したい。

 あの雪が降る夜遭難しなければ。
 ホットケーキを食べずに帰ったら。
 名刺を渡さなければ。
 一緒にマンションに住まなければ。


拙い初恋みたいな気持ちになることもなかった。みっともない泣き顔を見られることもなかった。
悲しくて悲しくて私はあっという間に空にした チューハイ片手に電信柱の脇に蹲り、声をあげて泣いた。

─────────

 肩を掴まれ、目を擦る癖が出て、きっとまたパンダみたいになった顔で振り向く。真波が追いかけてきてくれた、やっぱり嘘だった。悪い夢のような時間だった。あの綺麗な女の子じゃなくて、私を選んでくれた。そう期待した。そう思い、振り返った自分が、真波にどれだけ夢中だったかを表していた。

「大丈夫ですか?」

 優しい面持ちの警察官だった。

「家まで帰れますか?」

 帰り道は解りますか?と訊かれているようだった。もう、何処に行くのが正解か解らない。私は泣きながら首を振る。

「家、解りますか?」

 あなたのいるべき場所は?と訊かれているようだった。誰のところ?私はおはぎとだいふくを思い出した。そして、『解ります』と言おうとしたとき、目を細めて二匹を撫でる真波の姿を思い出した。掠れ声で呟いた。

「帰れないです」

 多分マンションには真波がいる。もう、とっくに裏道を通って私の家の荷物を片付けているんだと思う。恵理子と、自分の家で暮らすために。私の家の合鍵は彼も持っている。

「ご家族は?」

 頼りない涙腺はまた緩む。穏やかな声の警察官を前にして子供のように泣いた。

「──誰も、いないんです。いたのに。出来たのに。皆、居なくなっちゃった!独りは嫌なんです!嫌なんです!」

 お父さん、お母さん!独りは嫌よ!そう私が泣き叫ぶ私の肩を抱く手があった。

「婚約者です。喧嘩して、誤解を解かないと。ありがとうございました」

 私は人の良さそうな警察官が会釈をして通り過ぎる。私は見えなくなるまで彼を見ていた。何処か、笑った顔が昔見た父に似ていた。真波の肩を抱く手を振り払った。

「恵理子さんが好きなんでしょ?彼女のところへ行けばいい!」

 そう言いながら、私の顔は醜く歪む。視界は滲んで真波の顔が見えない。

「ねぇ、どうして、私じゃだめなの?結局おばさんだから?仕事しか能がないから?何で、どうしてよ!好きだったのに。あなたが好きだったのに!」
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