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〖第53話〗
しおりを挟む私は力なく左右に首を振った。暫く、もうすぐでクリスマスが来るねとか、年明けはいつも何処に初詣でに行くのかとか、つまらない話をした。真波が、私の逃げるような視線を捉えると、
「さっきまでのことを話すよ。一回、美雨さんの家に帰って出来上がった絵とまだの物は置いてきた。これからはあの家には──自分の家は戻らない。だからまた、俺を置いて。美雨さん」
真摯な声で真波は私を呼ぶ。
「じゃあ、証拠を見せてよ。私を描いた絵を見せて。私を好きだって証拠は? ほら何も言えない。お弁当馬鹿にしてたんでしょ? 昨日のお弁当、一昨日のお弁当言える?」
震える早口で捲し立て、会話に真波を置いていく。膝に置いた手を握りしめる。こんな素敵なお店で泣きたくなかった。自分で言えないだろうと、解っておいて仕向けた真波の『ごめん』の一言が怖い。
だから私は真波より先に口を開いた。否定されたくない。最後くらい、私が真波を振って終わりにしたかった。私にも見栄も、プライドがある。真波に振られるならいい。
短い旅のようなものとして記憶の一部にしまっておくことができた。けれど、どうしても、全部嘘で出来ていた若者の娯楽に負けるのだけは嫌だった。ミルクティーが、冷えていく。
「あなたのこと好きだった。愛してた。だけどもっと嘘は上手につくべきよ。今日みたいなヘマもして欲しくなかった。関係を切りたいならそう言えばよかったじゃない。全部嘘だったとしても、わざわざ私をここまでボロボロにすることはなかったじゃない。母さんのバレッタまで、売ろうとしてたなんて許さないから。絶対に!」
真波は悲しそうな顔をしていた。暫く黙り込んだあと、
「俺、つらいんだ、美雨さん。何でか解る?」
真波は私にそう訊き、黙った。私は真波の言葉が無神経に聞こえ、テーブルに置いた握りしめた手が震えた。
「解らないわよ。年甲斐もなく夢中になったあなたに相手にもされなくなった私はどうするのよ、私の方がつらいわよ。………好きだったから。あなたを愛していたから」
「男冥利につきるなあ。『好きで、愛してた』か。このシチュエーションじゃなかったら、即ベッド行きの言葉なのに」
茶化すように真波に、『これ、見て』と言われて見せられたものは、小さな分厚いスケッチブック。紙質はあまりよくない。描かれていたのは、母のバレッタがつけられた私の色んなアングルの何十枚と言うスケッチだった。
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