氷雨と猫と君〖完結〗

カシューナッツ

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〖第59話〗

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『だから、体重が落ちるんだよ』

 そう言うように真波は私のやつれた顔を一瞥し、トイレにスマートフォンを持って行き中で不機嫌そうに話している。

『これで満足かよ』

そう言う声と共に真波はトイレのドアを開けた。け加え、まるで私が悪いことをしているように真波は続ける。

「もう、解ってるんだろうけど、美雨さん。あの人は俺の憧れだった。綺麗な人だった。拾った猫もあの人にはすぐ懐いた。蟹蔵、海老衛門。本当は母さんのために名前を俺がつけた。母さん甲殻類アレルギーだったから。さわれないから、名前だけでもさわらせてあげたかった。夜、眠るあの人の手をそっと握るのが好きだった。いつも寝たふりをしながらも手を握り返してくれて、思い出は少なくて、思い出す度に消えていくみたいで。切ない。でも、もう終わったことだよ。それだけだよ」

 生きてる人は死んだ人に勝てない。あの絵に描かれた私とはまるで顔が違う絵の人は、やはり真波のお母さんだった。美しさは進化し続け、楽しかった思い出だけ思い出し、悲しい思い出は美しい結晶に変わる。

 簡単に言えば至高の状態で時を止める。そして、そのまま真波のお母さんは真波だけを愛して生き続ける。一生、真波は心にお母さんと住み続ける。私には入る余地もないし、真波が私を『本当』に好きになることはない。
 
──────────

 朝、いつもの一日のふりをして、寝室の絵を見る。微笑みをたたえる私じゃない人。リモートも終わると、直樹は私に回線を切らないで欲しいと沈んだ面持ちで言った。他の人が回線を切っていたから話を聞くとエリちゃんと別れたと言い、号泣し始めた。

 肩をくんだ写メを見せられ、ハッとした。『あの子』だと、言おうか言わないか迷ったが、直樹が未練をたちきれるように言った。

「今、解ったんだけどね、その子、真波の、私の彼の………言いづらいけど、セフレだったの。彼は彼女を『暇潰しにパパ活やってた』って。今は変わったかもしれないけど」

 直樹は黙り込み、沈黙が流れた。
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