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〖第70話〗
しおりを挟む「今、夜九時、夕ご飯のお買い物に行きませんか、お兄さん。アプリに夢中になってて、ご飯食べてないわ」
「おでん買ってこよう?おつゆ多めにもらってこよう?秘密の食べ方があるんだ。梱包の方は近くのホームセンターで必要なもの買ってくるよ。明日は休んで。綺麗に包んで明日前のコンビニで送ってくるから」
──────────
「肉まん2つと、唐揚げの棒1つ、低脂肪ヨーグルトと無調整豆乳、玉子1パック。ハーゲンダッツの抹茶2つ、フランスパン、ピーナッツバター、蒙古タンメン南極2つです」
店員さんが締め括ろうとしたところで、真波が、
「おでんもいいですか」
長身のがっちりした体躯に黒のダウンジャケット、デニムのパンツ、ゴツい黒のブーツの真波がほれぼれするほど格好いい。今の彼は鋭い目をした、狩りをするアラスカンマラミュートだ。見た目は大型の狼。でも確かこの犬種、怖いのは見た目だけで、性格は穏やかで愛情深いんじゃなかったかしら。
真波は何でも着こなす。クラシックな格好もいいけど、こういうのもいい。カシミヤのコートにアヤにもらったブランドのブーツの私は、店員に横から口を出す。
「おでん、全種類一個づつ。蒟蒻は二個。つゆだくお願いします」
若い女性の店員が、丁寧に用意してくれた。本当はもうダメになったと言うつゆだく。
「お得意様なので」
そう秘密の共有のように、小さくそう言いニコッと笑うこの子もこんな夜遅く、働いている。眠いはずなのに、疲れているはずなのに。
きっと残業で会社から疲れて帰る私と同じ時間、よろよろの私と鉢合わせているのだろう。『お得意様』だから。この子も疲れながら働いている。
私だけじゃない。皆一生懸命で、本当に疲れている。そのうち、パソコンをタイプする意味すら解らないまま指だけが動く。仕事をする意味が解らないまま仕事をするなんてないように。この子がそんな思いをしないといい。そう思い、
「ありがとう」
私は思わず軽く振り向いて笑った。彼女は頭を深々と下げた。
──────────
さて、おでんだ!と喜び勇んで食べる感じではなく、しっとりとなってしまった。でも、こういうのも悪くない。ほんわか、ジャンクに冷蔵庫からビール。窓の外は、透明な空気だ。ソファの下、短毛のラグに座りこみ、ローテーブルで、だらだらしながら、おつまみを食べ、ビールをいくつも空にしながらおでんを食べる。
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