氷雨と猫と君〖完結〗

カシューナッツ

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〖第77話〗

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 お金を投げつけて母さんを追い払ったこと。事故で死んだニュースを新聞の小さな記事で知って、母の死を安堵した私を、もし神様と呼ばれる存在がいたらは許すのだろうかと考えた。

 結局、私は許されたいんだと思う。最後に見た母は、正気だった。お金も、封筒は置いていった。力なく万札を拾うために膝を濡らし、手にはクシャクシャの一万円しかなかった。私は、あの瞬間、私は母さんを捨てた。私は母さんに許されたい。
 
 病院にかからせて入院さてでも治療を受けさせる選択肢を無視した。本当は正気に戻って欲しかったのに、面倒を嫌って、逃げた。見ないふりをした。

 もう叶わない、違っていた未来を描けていたかもしれない、もう許してくれない相手に『ごめんね』も届かない相手を、私はあの家族写真を見る度繰り返す。だけど、蓋を開ければ、私は、自分勝手だ。

 母に許されたいんじゃない。自分自身で『許された』と納得したいだけだ。楽になりたいだけだ。私が触れられるのを嫌がる領域だと解ったのか、私が怒ったと思ったのか、

「ごめんね、俺、無神経だった」

 そう言い真波はしょんぼりし、何も言わなくなった。元気のないアラスカンマラミュート。折角のクリスマス、国民の冬の祭典なのに少し残念な雰囲気だ。私は、

「ごめん。真波。私だめね。折角の真波とのクリスマスデートなのに。あ、私、クリスマスは好きよ。これは、はっきり言えば、日本国民のイベントじゃない。楽しく美味しいものを食べるお祭りよ。『私の誕生日には皆幸せであればそれで良い』なんて、この俗っぽさを許して、尚且つ微笑んでしまうような神様なら本物かなって思うわ」

「そうだね。そんな人なら、本物って感じするね」

「高尚なことは、そういう職業の人に任せちゃえば良いのよ。なんて、そうね………ありがとう。ごめんね、真波」

 私は下を向く。私は真波に甘えてる。こんなことで、たかがクリスマスで母さんを思い出して、真波に当たるなんて。大人げない。するりと、真波は私の指に、自分の指を絡ませる。上を見あげると、

「大丈夫? ごめん、俺余計なこと言ったから」

「真波は悪くないの。私は私が許せないだけよ………ごめん、楽しいショッピングなのに、うん。買い物しよう。贅沢しちゃう?」

 これから今日の料理の材料を買いに行く。
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