【完結】真実の愛とやらに目覚めてしまった王太子のその後

綾森れん

文字の大きさ
7 / 7

7,元王太子は人生を悔いているようです

しおりを挟む
 真実の愛を見つけてから一年経ったころ――

 元王太子は王都から遠く離れた別荘で、いつ終わるとも知れない療養生活を送っていた。

(こんなはずじゃなかった――)

 窓から見えるのどかな風景に反して彼の表情は暗い。

(どこで間違ったんだろう?)

 湖面を流れる雲と、遠くに見えるなだらかな稜線を見つめながら、ベネディクトは思い出す。

<真実の愛を見つけたんだ。レオノーラ嬢との婚約は白紙に戻そうと思う。そしてパミーナ嬢を妃とする!>

 友人に打ち明けたときも、弟たちに相談したときも、身近な侍従でさえ皆反対したことを。周りの者の忠告に、一切耳を傾けなかった一年前の自分を。

 不幸にもベネディクトの頭には「現状把握」「自省」「思考」という機能が備わっていたのだ! それらを産道に落っことして生まれてきた無敵のパミーナと違って。

「殿下ぁ、調子はいかがですか?」

 寝室にパミーナが入ってきて、ベネディクトの血圧はストレスで一気に跳ね上がった。

「殿下、ここの生活は退屈ですわね。早く元気になって王都に帰りましょうね。パミーナは来週また三日間王都に滞在できることになりましたの。必要なものがありましたら言って下さいまし。侍女に買わせますわ。国王陛下や王妃殿下への言付けはありません? それとも殿下から王太子の位を奪った憎きアルヴィン様へとか―― そうそう、昨日もお話ししましたけど本当にひどいと思いません? アルヴィン様とご結婚されたレオノーラ様のことですよ。このあいだ王宮で会ったらパミーナを一目見た途端、『あなたには田舎の暮らしがお辛いでしょう』ですって! 何よあの見下した目! パミーナのことを馬鹿にしてるのよ。自分は王都で王太子妃に収まってるからって! でもその地位、パミーナから奪ったものよね!? だけど心の広いパミーナは、かわいそうな方には何も言わないで差し上げたの」

 いつ終わるとも知れない妻のおしゃべり――もとい悪口を、ベネディクトは聞き続ける羽目になった。ちなみにレオノーラがたった一言かけた言葉「あなたには田舎の暮らしがお辛いでしょう」に図星を突かれてよほど腹に据えかねたのだろう。ベネディクトはすでに十回以上、同じ話を聞かされていた。

 「昨日も聞いたよ」なんて言葉が役に立たないことを、すでにベネディクトは学習している。「何度も繰り返してごめんなさいね。でもパミーナは思うんですけどレオノーラ様は――」とまた終わることないループに陥るだけ。



 さすがに喋り通して空腹に襲われたパミーナは、ベネディクトの部屋を退出した。

 パミーナが、王位継承順位からはずれた王子を捨てる計算高い女だったなら、ベネディクトはまだ救われたのだが、彼女はすっかり悲劇のヒロイン気分になって酔いしれていた。

「ああ、なんと憐れなパミーナ!」

 一人になってもおしゃべりは止まらない。

「毎日を弱った夫の世話に費やす人生!」

 ベネディクトの世話はパミーナが勝手にやっていること。王都からは当然、医者やメイドが派遣されている。もちろんコックも洗濯婦もいる。パミーナに彼らを取りまとめる能力がないことも判明しているから、ちゃんと執事もいる。

「ああ、かわいそうなパミーナ! 王都を歩けば薄汚い庶民から石を投げられ、王宮では王族方の苦笑と使用人たちの冷笑を浴び、若く美しい時間をこんな田舎に閉じ込められて、華やかな舞踏会に出ることもできず、新しいドレスを新調することもなく、宝石さえも見せる相手は病気の夫か使用人だけという日々に耐え忍んでいるの!」

 パミーナは自分の不幸さえ蜜の味という珍しい性癖の持ち主だった。

「おぉ、パミーナったらなんて献身的なのでしょう! 人のために生きることが喜びなのよっ! こんなふうに尽くすだけの人生、きっとパミーナにしかできないでしょうね!! でもそれもこれも全て愛のためなのっ!!」

 嗚呼ああ、素晴らしきかな、真実の愛!!
しおりを挟む
感想 12

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(12件)

mnm
2025.11.28 mnm

流石に、元王太子が可哀想。
つか、なんでこのお馬鹿さんだけ、ざまぁ無しで終わってるの?
サイコパスの脳みそお花畑ちゃんだから、何にも堪えてない。

自業自得とはいえ、脳みそお花畑ちゃんはノーダメージなんだから、別れさせてせめて、静かに療養させてやれし。

てか、コイツバケモンやん。
授業中寝てるからってなんでそんな健康体なん?元王太子とほとんど睡眠時間変わらんはずなのに、ありえんやろ。
人の生気吸って生きてるだろ。

解除
さごはちジュレ

サイコホラー?

なんかこのパミーナに較べたら貞◯や伽◯子や◯ユリってぶっ潰すのいけんじゃね?

て思いました。だって戸籍上故人ですからサ◯リみたいに物理で(関係者から)ボコれば退治できそう。
後はお口チャックして❌️

解除
きらさび
2025.06.22 きらさび

パミーナ怖え~(涙)飛んでもないオンナに捕まったのが運の尽きでしたなぁ

解除

あなたにおすすめの小説

【完結】婚約破棄の代償は

かずきりり
恋愛
学園の卒業パーティにて王太子に婚約破棄を告げられる侯爵令嬢のマーガレット。 王太子殿下が大事にしている男爵令嬢をいじめたという冤罪にて追放されようとするが、それだけは断固としてお断りいたします。 だって私、別の目的があって、それを餌に王太子の婚約者になっただけですから。 ーーーーーー 初投稿です。 よろしくお願いします! ※こちらの作品はカクヨムにも掲載しています

なぜ、虐げてはいけないのですか?

碧井 汐桜香
恋愛
男爵令嬢を虐げた罪で、婚約者である第一王子に投獄された公爵令嬢。 処刑前日の彼女の獄中記。 そして、それぞれ関係者目線のお話

真実の愛かどうかの問題じゃない

ひおむし
恋愛
ある日、ソフィア・ウィルソン伯爵令嬢の元へ一組の男女が押しかけた。それは元婚約者と、その『真実の愛』の相手だった。婚約破棄も済んでもう縁が切れたはずの二人が押しかけてきた理由は「お前のせいで我々の婚約が認められないんだっ」……いや、何で? よくある『真実の愛』からの『婚約破棄』の、その後のお話です。ざまぁと言えばざまぁなんですが、やったことの責任を果たせ、という話。「それはそれ。これはこれ」

元婚約者が愛おしい

碧井 汐桜香
恋愛
いつも笑顔で支えてくれた婚約者アマリルがいるのに、相談もなく海外留学を決めたフラン王子。 留学先の隣国で、平民リーシャに惹かれていく。 フラン王子の親友であり、大国の王子であるステファン王子が止めるも、アマリルを捨て、リーシャと婚約する。 リーシャの本性や様々な者の策略を知ったフラン王子。アマリルのことを思い出して後悔するが、もう遅かったのだった。 フラン王子目線の物語です。

婚約破棄と言われても、どうせ好き合っていないからどうでもいいですね

うさこ
恋愛
男爵令嬢の私には婚約者がいた。 伯爵子息の彼は帝都一の美麗と言われていた。そんな彼と私は平穏な学園生活を送るために、「契約婚約」を結んだ。 お互い好きにならない。三年間の契約。 それなのに、彼は私の前からいなくなった。婚約破棄を言い渡されて……。 でも私たちは好きあっていない。だから、別にどうでもいいはずなのに……。

だって悪女ですもの。

とうこ
恋愛
初恋を諦め、十六歳の若さで侯爵の後妻となったルイーズ。 幼馴染にはきつい言葉を投げつけられ、かれを好きな少女たちからは悪女と噂される。 だが四年後、ルイーズの里帰りと共に訪れる大きな転機。 彼女の選択は。 小説家になろう様にも掲載予定です。

お前を愛することはないと言われたので、愛人を作りましょうか

碧井 汐桜香
恋愛
結婚初夜に“お前を愛することはない”と言われたシャーリー。 いや、おたくの子爵家の負債事業を買い取る契約に基づく結婚なのですが、と言うこともなく、結婚生活についての契約条項を詰めていく。 どんな契約よりも強いという誓約魔法を使って、全てを取り決めた5年後……。

【完結】その約束は果たされる事はなく

かずきりり
恋愛
貴方を愛していました。 森の中で倒れていた青年を献身的に看病をした。 私は貴方を愛してしまいました。 貴方は迎えに来ると言っていたのに…叶わないだろうと思いながらも期待してしまって… 貴方を諦めることは出来そうもありません。 …さようなら… ------- ※ハッピーエンドではありません ※3話完結となります ※こちらの作品はカクヨムにも掲載しています

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。