83 / 140
幼少期
83 犠牲になった領民
しおりを挟む
「ゲルハルディ伯爵令息様、こちらが犠牲者の安置所です」
「ああ、ありがとう」
バルディ家に仕える執事に案内され、俺たちは安置所までやってきた。
詳しく聞くと、大型船に近づきすぎた漁船は大型船からの攻撃にさらされ、航行不能状態に。
乗っていた船員は漁船もろとも大型船に引きつぶされたが、遺体は大型船が離れたすきに他の漁師が回収したとのことだ。
「レナ、この先は見たくないものもあると思う。無理に一緒に来なくてもいいんだよ?」
「マックス様、大丈夫です。私も貴族として、領主一族として、きちんと向き合わなければならないですから」
俺もクルトも……騎士団に所属する人間は野盗の討伐や、モンスターに襲われた民間人の遺体回収などで人の死というものに立ち会った経験がある。
だからこそ、犠牲となった領民の姿を見ても、そこまでの嫌悪感はないが、レナはそうではないだろう。
レナは俺の影としての教育は受けていたものの、5歳からは次期領主夫人としての教育が始まり、実戦での経験が圧倒的に不足している。
だから、安置所には俺とクルトだけが中に入ろうと思っていたのだが、レナはバルディ領の領主一族として一緒についてくるらしい。
「わかった。……クルトは念のためついてきてくれ。他の者は入口で警戒するように」
「「「「「はっ!」」」」」
安置所の中には石造りのベッドが用意され、そこには3人の男性の遺体が安置されていた。
近々葬儀が行われるのか、遺体の傷は完全に修復され、簡素ではあるものの粗末ではない衣服も着せられていた。
「……っ」
思わず絶句してしまう。
これまでにも遺体には立ち会ってきたが、それは領民ではなく他領からやってきた野盗だったり、領間を移動している自由民……冒険者だったり、旅商人だった。
だから知らなかった。
自分の守るべき……いわば子供とでも呼ぶべき存在が亡くなった時、人はこんなにも深い悲しみに襲われるということに。
「……俺の……せいだ」
「マックス様……決してマックス様のせいではありません。私たちは全速でこちらへとやってきたではありませんか」
レナが俺を励ましてくれる。
そう、わかっている。俺たちは全速力でここへとやってきた。
「レナ……3人のことがわかるか? マリオとフィル、それにジャックだ」
「マックス様、わかりますよ。マックス様とバルディ領へやってきたときにお話しした人たちですよね」
「そうだ。マリオは気風のいい男で、俺とレナを漁船に乗せてくれたな」
「……はい」
「フィルはマリオの息子で、いつかマリオのような漁師になると頑張っていた」
「……はい」
「ジャックは3年前の嵐で漁船が壊れたから友人のマリオの船に乗せてもらっていると言っていたな。息子に漁船を引き継がせるために金を稼いで、漁船を直すんだって」
「……はい」
俺もレナもゲルハルディ領にいることが多く、バルディ領にいた時間は短い。
3人とも1、2度出会っただけで、それほど深い交流していたというわけではない。
それでも、次から次へとポロポロと涙が溢れてくるのを、俺もレナも抑えることは出来なかった。
領主として大を救うために小を切り捨てる覚悟はある。
それでも! 人としてこの気持ちは忘れてはダメだ!
犠牲となったものを悲しむこの気持ちを捨ててしまったら、俺は貴族にはなれても人ではなくなってしまう。
この世界はゲームを模してはいても、現実だ。
リセットしてロードすれば、どんな悲しいことでもなくなるわけではない。
死んだ人間は何をしても生き返ることはない。
「レナ、クルト、やるぞ」
「……やる?」
「3人の弔い合戦というわけじゃない。俺はゲルハルディ領の次期領主として、ヴァイセンベルク王国に降りかかる災難を避けるためにバルディ領の領民を不当に殺した大型船を駆逐する」
「戦……というわけですね」
「ああ、クルトの言うとおりだ。アントンには戦力を集めるように言ったが、撃退するだけで十分だと思っていた。……だが、気が変わった」
「徹底的にやるのですね?」
「そうだ! 少なくともバルディ領の領民が受けた恐怖分は奴らに返さなければ割に合わん! ……2人とも、ついてきてくれるか?」
「もちろんです! マックス様を守るのは私の役目ですから!」
「護衛として派遣されているのですから、マックス様とレナ様の傍にいるのは当然でしょう」
陸戦ならともかく、海戦となれば、俺もそうだが、2人にとっても未知の領域。
だからこそ、2人の覚悟を問うように言ったが、そんな配慮は必要なかったようだ。
次期領主としては失格かもしれないが、これから始まるのは弔い合戦だ!
絶対にヴァイセンベルク王国に攻め入ってきたことを後悔させてやる!
「ああ、ありがとう」
バルディ家に仕える執事に案内され、俺たちは安置所までやってきた。
詳しく聞くと、大型船に近づきすぎた漁船は大型船からの攻撃にさらされ、航行不能状態に。
乗っていた船員は漁船もろとも大型船に引きつぶされたが、遺体は大型船が離れたすきに他の漁師が回収したとのことだ。
「レナ、この先は見たくないものもあると思う。無理に一緒に来なくてもいいんだよ?」
「マックス様、大丈夫です。私も貴族として、領主一族として、きちんと向き合わなければならないですから」
俺もクルトも……騎士団に所属する人間は野盗の討伐や、モンスターに襲われた民間人の遺体回収などで人の死というものに立ち会った経験がある。
だからこそ、犠牲となった領民の姿を見ても、そこまでの嫌悪感はないが、レナはそうではないだろう。
レナは俺の影としての教育は受けていたものの、5歳からは次期領主夫人としての教育が始まり、実戦での経験が圧倒的に不足している。
だから、安置所には俺とクルトだけが中に入ろうと思っていたのだが、レナはバルディ領の領主一族として一緒についてくるらしい。
「わかった。……クルトは念のためついてきてくれ。他の者は入口で警戒するように」
「「「「「はっ!」」」」」
安置所の中には石造りのベッドが用意され、そこには3人の男性の遺体が安置されていた。
近々葬儀が行われるのか、遺体の傷は完全に修復され、簡素ではあるものの粗末ではない衣服も着せられていた。
「……っ」
思わず絶句してしまう。
これまでにも遺体には立ち会ってきたが、それは領民ではなく他領からやってきた野盗だったり、領間を移動している自由民……冒険者だったり、旅商人だった。
だから知らなかった。
自分の守るべき……いわば子供とでも呼ぶべき存在が亡くなった時、人はこんなにも深い悲しみに襲われるということに。
「……俺の……せいだ」
「マックス様……決してマックス様のせいではありません。私たちは全速でこちらへとやってきたではありませんか」
レナが俺を励ましてくれる。
そう、わかっている。俺たちは全速力でここへとやってきた。
「レナ……3人のことがわかるか? マリオとフィル、それにジャックだ」
「マックス様、わかりますよ。マックス様とバルディ領へやってきたときにお話しした人たちですよね」
「そうだ。マリオは気風のいい男で、俺とレナを漁船に乗せてくれたな」
「……はい」
「フィルはマリオの息子で、いつかマリオのような漁師になると頑張っていた」
「……はい」
「ジャックは3年前の嵐で漁船が壊れたから友人のマリオの船に乗せてもらっていると言っていたな。息子に漁船を引き継がせるために金を稼いで、漁船を直すんだって」
「……はい」
俺もレナもゲルハルディ領にいることが多く、バルディ領にいた時間は短い。
3人とも1、2度出会っただけで、それほど深い交流していたというわけではない。
それでも、次から次へとポロポロと涙が溢れてくるのを、俺もレナも抑えることは出来なかった。
領主として大を救うために小を切り捨てる覚悟はある。
それでも! 人としてこの気持ちは忘れてはダメだ!
犠牲となったものを悲しむこの気持ちを捨ててしまったら、俺は貴族にはなれても人ではなくなってしまう。
この世界はゲームを模してはいても、現実だ。
リセットしてロードすれば、どんな悲しいことでもなくなるわけではない。
死んだ人間は何をしても生き返ることはない。
「レナ、クルト、やるぞ」
「……やる?」
「3人の弔い合戦というわけじゃない。俺はゲルハルディ領の次期領主として、ヴァイセンベルク王国に降りかかる災難を避けるためにバルディ領の領民を不当に殺した大型船を駆逐する」
「戦……というわけですね」
「ああ、クルトの言うとおりだ。アントンには戦力を集めるように言ったが、撃退するだけで十分だと思っていた。……だが、気が変わった」
「徹底的にやるのですね?」
「そうだ! 少なくともバルディ領の領民が受けた恐怖分は奴らに返さなければ割に合わん! ……2人とも、ついてきてくれるか?」
「もちろんです! マックス様を守るのは私の役目ですから!」
「護衛として派遣されているのですから、マックス様とレナ様の傍にいるのは当然でしょう」
陸戦ならともかく、海戦となれば、俺もそうだが、2人にとっても未知の領域。
だからこそ、2人の覚悟を問うように言ったが、そんな配慮は必要なかったようだ。
次期領主としては失格かもしれないが、これから始まるのは弔い合戦だ!
絶対にヴァイセンベルク王国に攻め入ってきたことを後悔させてやる!
164
あなたにおすすめの小説
俺に王太子の側近なんて無理です!
クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。
そう、ここは剣と魔法の世界!
友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。
ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
【完結】魅了の魔法にかけられて全てを失った俺は、最強の魔法剣士になり時を巻き戻す
金峯蓮華
ファンタジー
戦に負け、国が滅び、俺ひとりだけ生き残った。愛する女を失い、俺は死に場所を求め、傭兵となり各地を漂っていた。そんな時、ある男に声をかけられた。
「よぉ、にいちゃん。お前、魅了魔法がかかってるぜ。それも強烈に強いヤツだ。解いてやろうか?」
魅了魔法? なんだそれは?
その男との出会いが俺の人生を変えた。俺は時間をもどし、未来を変える。
R15は死のシーンがあるための保険です。
独自の異世界の物語です。
兄がやらかしてくれました 何をやってくれてんの!?
志位斗 茂家波
ファンタジー
モッチ王国の第2王子であった僕は、将来の国王は兄になると思って、王弟となるための勉学に励んでいた。
そんなある日、兄の卒業式があり、祝うために家族の枠で出席したのだが‥‥‥婚約破棄?
え、なにをやってんの兄よ!?
…‥‥月に1度ぐらいでやりたくなる婚約破棄物。
今回は悪役令嬢でも、ヒロインでもない視点です。
※ご指摘により、少々追加ですが、名前の呼び方などの決まりはゆるめです。そのあたりは稚拙な部分もあるので、どうかご理解いただけるようにお願いしマス。
悪役令息の継母に転生したからには、息子を悪役になんてさせません!
水都(みなと)
ファンタジー
伯爵夫人であるロゼッタ・シルヴァリーは夫の死後、ここが前世で読んでいたラノベの世界だと気づく。
ロゼッタはラノベで悪役令息だったリゼルの継母だ。金と地位が目当てで結婚したロゼッタは、夫の連れ子であるリゼルに無関心だった。
しかし、前世ではリゼルは推しキャラ。リゼルが断罪されると思い出したロゼッタは、リゼルが悪役令息にならないよう母として奮闘していく。
★ファンタジー小説大賞エントリー中です。
※完結しました!
悪役令息に転生したけど、静かな老後を送りたい!
えながゆうき
ファンタジー
妹がやっていた乙女ゲームの世界に転生し、自分がゲームの中の悪役令息であり、魔王フラグ持ちであることに気がついたシリウス。しかし、乙女ゲームに興味がなかった事が仇となり、断片的にしかゲームの内容が分からない!わずかな記憶を頼りに魔王フラグをへし折って、静かな老後を送りたい!
剣と魔法のファンタジー世界で、精一杯、悪足搔きさせていただきます!
異世界に転生したので幸せに暮らします、多分
かのこkanoko
ファンタジー
物心ついたら、異世界に転生していた事を思い出した。
前世の分も幸せに暮らします!
平成30年3月26日完結しました。
番外編、書くかもです。
5月9日、番外編追加しました。
小説家になろう様でも公開してます。
エブリスタ様でも公開してます。
悪徳領主の息子に転生しました
アルト
ファンタジー
悪徳領主。その息子として現代っ子であった一人の青年が転生を果たす。
領民からは嫌われ、私腹を肥やす為にと過分過ぎる税を搾り取った結果、家の外に出た瞬間にその息子である『ナガレ』が領民にデカイ石を投げつけられ、意識不明の重体に。
そんな折に転生を果たすという不遇っぷり。
「ちょ、ま、死亡フラグ立ち過ぎだろおおおおお?!」
こんな状態ではいつ死ぬか分かったもんじゃない。
一刻も早い改善を……!と四苦八苦するも、転生前の人格からは末期過ぎる口調だけは受け継いでる始末。
これなんて無理ゲー??
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる