勇者パーティーを追放された薬草師

高坂ナツキ

文字の大きさ
5 / 12

05 治療

しおりを挟む
 辺境で見つけた奇跡のような薬草たち……それを確保するために森に家を建ててもらおうと思ったら、ウィルとかいう領主が出てきて、ひと悶着起きた。
 家を建ててもいいけど、領主の弟を治せですって。領主だからって偉そうに……まあ、偉いんだけどね。
 で、その弟とやらを治すために、今まさに領主の住んでいる館に着いたってわけ。

「はぁー、豪華な家に住んでいるのね」

「そうか? 確かに大きいが古いし、住み心地はそこまで良くないぞ?」

 そりゃ領主といったら貴族だし、貴族からすれば大したことないのかもしれないけど、あたしみたいな平民からしたら十分、豪華な家よ。

「で、弟を治してって言ってたけど、何の病気なの?」

「見ればわかる」

 さっきからコレよ。こっちが質問をしても見ればわかるの一言。いくら薬草師っていっても、治せる病気には限りがあるし、先に教えてほしいんだけどさ。
 まあ、実際に会わせようとしているから、伝染病とかではなさそうだけど……手持ちの薬草で治せるかなぁ?
 森の希少薬草はひと通り採ってきたから、よっぽどのことでもなければ治療薬は作れるだろうけどさ。

「ここだ。……パトリック、俺だ。中に入るぞ」

 ウィルはこんな話し方だけど、やっぱり貴族なんだなぁ。入る前にノックをしてから、一声かけて、それから扉を開く。
 平民だったら……というか、あたしの実家だったらお兄ちゃんも弟もノックもせずに勝手に入ってくるわよ。

「弟のパトリックだ」

「兄さん、お客さんかい?」

 ウィルが指し示した先には、兄弟であることが確信できるほどに容姿の似通った男性がいた。
 ただし、パトリックと紹介されたその男性は右ひじより先がなく、片腕だった。

「パトリック、こちらは旅の薬草師のサラだ」

「へえ~、小さいのに偉いんだねぇ」

「驚くなよ。これでも、お前と同い年らしい」

「えっ!?」

 おい、驚くなよ。失礼だろ、パトリック。

「で、領主様? 領主様の依頼は弟の右腕を治すことで良いんですか?」

「兄さん!?」

「ああ、出来るか?」

「一応聞きますが、右腕を失くされたのは、いつですか?」

「二か月前だな。森に現れた凶悪な野生生物の対処をしていた際に、ソイツに喰われた」

 まあ、そうよね。これが数日前に切り落とされた、とかなら上級ポーションがあれば、簡単に治るんだけど、欠損となるとそうはいかない。
 いくら貴族とはいえ、特級と言われる部位欠損回復薬は簡単に手に入るものではないからね。
 貴族なら上級ポーションは比較的簡単に手に入るから、二か月経って治っていないということは、失くした部位は存在せず、上級ポーションでは治らないことの証左でしかない。

「はあ。領主様。台所を借りますね」

「台所?」

「ポーションを作ってほしいのでしょう? 火元が必要なので、台所です」

「!? 治せるのかっ!?」

「森で採ってきた希少薬草が必要だけど、作れますよ」

 あたしをここに連れてきたウィルはもちろん、右腕を失っているパトリックも驚きで声を失くしているけど、作れるわよ。
 勇者パーティーにいた時に、どれだけのポーションや薬を作り続けていたことか……もちろん、部位欠損回復薬だって、何本も作ってきたわよ。

 驚く領主兄弟は放置して、一緒にいたメイドに台所へと案内してもらう。家の外観から、わかっていたことだけれど、台所も広いわね。
 まずは希少薬草を使用できるように魔力を流して加工していかないと……手持ちの薬草は加工済みだから、そっちは心配ないけどね。
 とはいえ、希少薬草の名前は伊達じゃなく、幾度も作ってきたあたしでも、何本かは失敗して無駄にしてしまった……うーん、旅の間に腕が落ちてきてるかな?

「そんなにすぐに作れるのか?」

 あら? 加工している間にウィルが台所にやってきたみたい。パトリックは流石にいないわね。

「すぐに……というか、今日中にですね。部位欠損回復薬の入手が難しいのは、材料である希少薬草の入手が難しいからだからね」

 手持ちに希少薬草があるのなら、まともな薬草師なら部位欠損回復薬を作るのは難しい話じゃない。
 故郷なら両親やお兄ちゃんは作れるし、あたしだって勇者パーティーとして旅に出る前から作れた。

「何を言っているんだ? 少なくとも辺境にやってきた医者は作れなかったぞ?」

「腕が悪かったんじゃない? まあ、基本的に医者は薬草師が作った薬を使うだけで、薬を作るのがうまいわけじゃないからね」

 王国では医者は病気の診断だったり、お金のない平民の外科手術をする人であって、薬やポーションを作るのは薬草師だからね。
 貴族御用達であっても、医者に部位欠損回復薬が作れなくても不思議じゃない。

「よし! できた……これが部位欠損回復薬よ。飲んだら安静にして、一日も経てば治るわよ」

 患者であるパトリックの意識があって良かった。意識がなかったら、飲み薬じゃなくて点滴に加工しなきゃいけないからね。
 旅の身の上だから、流石に点滴用の機材なんて持ち歩いてないからね。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

聖獣使い唯一の末裔である私は追放されたので、命の恩人の牧場に尽力します。~お願いですから帰ってきてください?はて?~

雪丸
恋愛
【あらすじ】 聖獣使い唯一の末裔としてキルベキア王国に従事していた主人公”アメリア・オルコット”は、聖獣に関する重大な事実を黙っていた裏切り者として国外追放と婚約破棄を言い渡された。 追放されたアメリアは、キルベキア王国と隣の大国ラルヴァクナ王国の間にある森を彷徨い、一度は死を覚悟した。 そんな中、ブランディという牧場経営者一家に拾われ、人の温かさに触れて、彼らのために尽力することを心の底から誓う。 「もう恋愛はいいや。私はブランディ牧場に骨を埋めるって決めたんだ。」 「羊もふもふ!猫吸いうはうは!楽しい!楽しい!」 「え?この国の王子なんて聞いてないです…。」 命の恩人の牧場に尽力すると決めた、アメリアの第二の人生の行く末はいかに? ◇◇◇ 小説家になろう、カクヨムでも連載しています。 カクヨムにて先行公開中(敬称略)

乙女ゲームの悪役令嬢の兄の婚約者に転生しましたが傷物になったので退場を希望します!

ユウ
恋愛
平凡な伯爵令嬢のリネットは優しい婚約者と妹と穏やかで幸福な日々を送っていた。 相手は公爵家の嫡男であり第一王子殿下の側近で覚えもめでたく社交界の憧れの漆黒の騎士と呼ばれる貴族令息だった。 結婚式前夜、婚約者の妹に会いに学園に向かったが、そこで事件が起きる。 現在学園で騒動を起こしている第二王子とその友人達に勘違いから暴行を受け階段から落ちてしまう… その時に前世の記憶を取り戻すのだった… 「悪役令嬢の兄の婚約者って…」 なんとも微妙なポジション。 しかも結婚前夜で傷物になる失態を犯してしまったリネットは婚約解消を望むのだが、悪役令嬢の義妹が王子に婚約破棄を突きつける事件に発展してしまう。

守護神の加護がもらえなかったので追放されたけど、実は寵愛持ちでした。神様が付いて来たけど、私にはどうにも出来ません。どうか皆様お幸せに!

蒼衣翼
恋愛
千璃(センリ)は、古い巫女の家系の娘で、国の守護神と共に生きる運命を言い聞かされて育った。 しかし、本来なら加護を授かるはずの十四の誕生日に、千璃には加護の兆候が現れず、一族から追放されてしまう。 だがそれは、千璃が幼い頃、そうとは知らぬまま、神の寵愛を約束されていたからだった。 国から追放された千璃に、守護神フォスフォラスは求愛し、へスペラスと改名した後に、人化して共に旅立つことに。 一方、守護神の消えた故国は、全ての加護を失い。衰退の一途を辿ることになるのだった。 ※カクヨムさまにも投稿しています

【完結】義妹に全て奪われた私。だけど公爵様と幸せを掴みます!

朝日みらい
恋愛
リリアナは美貌の義妹イザベラにすべてを奪われて育ち、公爵アルノーとの婚約さえも破棄される。 役立たずとされて嫁がされたのは、冷徹と噂される公爵アルノー。 アルノーは没落した家を立て直し、成功を収めた強者。 新しい生活で孤立を感じたリリアナだが、アルノーの態度に振り回されつつも、少しずつ彼の支えを感じ始め――

「不吉な黒」と捨てられた令嬢、漆黒の竜を「痛いの飛んでいけー!」で完治させてしまう

ムラサメ
恋愛
​漆黒の髪と瞳。ただそれだけの理由で「不吉なゴミ」と虐げられてきた公爵令嬢ミア。 死の森に捨てられた彼女が出会ったのは、呪いに侵され、最期を待つ最強の黒竜と、その相棒である隣国の竜騎士ゼノだった。 しかし、ミアが無邪気に放った「おまじない」は、伝説の浄化魔法となって世界を塗り替える。 向こう見ずな天才騎士に拾われたミアは、隣国で「女神」として崇められ、徹底的に甘やかされることに。 一方、浄化の源を失った王国は、みるみるうちに泥沼へと沈んでいき……?

聖女の私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。

重田いの
ファンタジー
聖女である私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。 あのお、私はともかくお父さんがいなくなるのは国としてマズイと思うのですが……。 よくある聖女追放ものです。

婚約破棄された宮廷薬師、辺境を救い次期領主様に溺愛される

希羽
恋愛
宮廷薬師のアイリスは、あらゆる料理を薬学と栄養学に基づき、完璧な「薬膳」へと昇華させる類稀なる才能の持ち主。 しかし、その完璧すぎる「効率」は、婚約者である騎士団の副団長オスカーに「君の料理には心がない」と断じられ、公衆の面前で婚約を破棄される原因となってしまう。 全てを失ったアイリスが新たな道として選んだのは、王都から遠く離れた、貧しく厳しい北の辺境領フロスラントだった。そこで彼女を待っていたのは、謎の奇病に苦しむ領民たちと、無骨だが誰よりも民を想う代理領主のレオン。 王都で否定された彼女の知識と論理は、この切実な問題を解決する唯一の鍵となる。領民を救う中で、アイリスは自らの価値を正当に評価してくれるレオンと、固い絆を結んでいく。 だが、ようやく見つけた安住の地に、王都から一通の召喚状が届く。

【完結】没落令嬢、異世界で紅茶店を開くことにいたしました〜香りと静寂と癒しの一杯をあなたに〜

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
夜会で父が失脚し、家は没落。屋敷の裏階段で滑り落ち、気づけば異世界――。 王国貴族だったアナスタシアが転移先で授かったのは、“極上調合”という紅茶とハーブのスキルだった。 戦う気はございませんの。復讐もざまぁも、疲れますわ。 彼女が選んだのは、湖畔の古びた小屋で静かにお茶を淹れること。 奇跡の一杯は病を癒やし、呪いを祓い、魔力を整える力を持つが、 彼女は誰にも媚びず、ただ静けさの中で湯気を楽しむのみ。 「お代は結構ですわ。……代わりに花と静寂を置いていってくださる?」 騎士も王女も英雄も訪れるが、彼女は気まぐれに一杯を淹れるだけ。 これは、香草と紅茶に囲まれた元令嬢の、優雅で自由な異世界スローライフ。

処理中です...