【完結】双子の伯爵令嬢とその許婚たちの物語

ひかり芽衣

文字の大きさ
52 / 63
第七章 すれ違い

3:キャサリンとスターリン(sideキャサリン)

しおりを挟む
リリカがウィリアムを訪ねているのと同じ頃、キャサリンはスターリンを訪ねていた。

オーグナー公爵邸の庭を二人で散歩しながら、キャサリンは隣を歩くスターリンを見る。

「スターリン様、お帰りなさいませ。ご無事で何よりでございます」

「ああ、ありがとう。キャサリンも元気そうでよかった。今日は訪ねて来てくれてありがとう。報告やらで中々訪ねて行く時間を取ることが出来ずにいたのだ」

スターリンは無表情ながら、少し申し訳なさを滲ませている。

「いいえ、お気になさらないで下さい。お忙しいことは重々承知しております」

「それで結婚についてだが……まずは父上へ改めて挨拶をしに行って、許しを貰わねばならないな。まあ、問題ないとは思うが」

以前通りのキャサリンに”ホッ”としながら、スターリンは少し微笑んでいる。
彼のその表情に、キャサリンは胸が締め付けられ、”ギュッ”と奥歯を噛み締めて立ち止まった。

「……スターリン様、本日は謝罪に参りました。訳あって結婚出来なくなりました。申し訳ありません」

いっきに言い終えると、キャサリンはスターリンに向けて深く頭を下げた。

キャサリンの頭頂部を見つめながら、一瞬の間の後、スターリンは冷静に言う。

「……理由を聞かせてくれ」

「全財産を身内に盗まれ、我が伯爵家と領地は困窮する事態となっております。嫁入りの支度金を準備出来ないのはもちろん、迷惑を掛けてしまう可能性があります。私は婚姻を結んでも、メリットどころかデメリットしかない女となってしまいました」

頭を下げたままで言うキャサリンを見ながら、スターリンは驚いた顔をしている。

「そのようなことになっていたのか……。父上は知っているのか? 父上に援助を求めたら良い!」

「……それは最後の手段です。返済のあてもないのに借金は極力したくないので、今は何とか自分たちで打開する方法を模索している状況です」

「そうか……。……キャサリンは何も気にせず、身一つで嫁いで来てくれたら良いのだが」

「そう言ってくださると思っていました。しかし、それでは私の気が済まないのです。今回のことは、私にも責任があるのです……。今のレッドフィールド伯爵家と領地領民を見捨てることは出来ません」

「……」

「微力ながら、姉と力を合わせて父を支えられたらと、考えております」

スターリンは食い気味に口を開けた。

「ウィリアム達を無事に連れ帰った今回の報酬が、もうすぐ手に入る。それに、父上にも頼んで援助してもらうおう。金は後でゆっくり返せば良いではないか」

頭を上げて"ジッ"とスターリンを見るキャサリンは、ずっと真顔だ。
スターリンが、取り敢えずの借金を提案することは予想通りであったため、キャサリンは驚かなかった。
真面目で責任感の強いスターリンなら、何か提案をしてくれるだろうと思っていた。
そのため、『何を言われても動じない』と心に決めて、今日は訪問して来たのだ。

「先程も申し上げましたが、借金は最後の手段です。まずは、自分達で頑張ってみます」

「……」

真顔を崩さないキャサリンに固い決意を感じ、スターリンは眉間に皺を寄せる。

「つい先日、私の醜い嫉妬からあの様なことがあったばかりにも関わらず、立て続けに申し訳ありません。……スターリン様の幸せを、心よりお祈りしております」

キャサリンは、油断したらすぐに涙腺が緩みそうなため、意識的に真顔を貫いていた。

「俺はキャサリンと共に幸せになると、幼い頃からずっと決めているのだが……」

スターリンのこの言葉は、キャサリンの胸に突き刺さった。

(その台詞は狡いわ。私が必死で我慢しているというのに……)

キャサリンはふと油断してしまう。
すると、キャサリンの大きくて綺麗な目にはあっという間に涙が溜まり、すぐに一杯になった涙がハラハラと溢れ出してしまう。

「……私は私で頑張ってみます。スターリン様は、私のことは気にせずに幸せになって下さい! 失礼いたします!!!」

これ以上はこの場にいられないと、キャサリンは走り出す。

……しかしすぐに、スターリンに捕まる。
スターリンの胸の中にスッポリとおさまったキャサリンは、初めての抱擁に頭の中が真っ白になった。

「……頼むから、そのような突き放すことを言わないでくれ。俺に出来ることは何かないのか?」

頭の上から降ってくるスターリンの言葉に、キャサリンは涙が止まらない。

(この温もりを失いたくないわ。でもいつ解決出来るかわからないのに、スターリン様を縛ることは出来ないわ。もちろん、私だけが幸せになることも……)

キャサリンは、スターリンの胸に置いた両腕を思いっきり突っ張り、抱擁から逃げ出した。
無理強いするつもりのないスターリンは、すぐに腕の力を緩める。
キャサリンの拒絶にショックを受けながら……

「……何もありません」

キャサリンはそれだけを言うと、走り去った。
今度は、走り去ることが出来た……




リリカもキャサリンも、待っていて欲しいことは伝えなかった。
それは相手を縛ることになるからと……





しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

これって政略結婚じゃないんですか? ー彼が指輪をしている理由ー

小田恒子
恋愛
この度、幼馴染とお見合いを経て政略結婚する事になりました。 でも、その彼の左手薬指には、指輪が輝いてます。 もしかして、これは本当に形だけの結婚でしょうか……? 表紙はぱくたそ様のフリー素材、フォントは簡単表紙メーカー様のものを使用しております。 全年齢作品です。 ベリーズカフェ公開日 2022/09/21 アルファポリス公開日 2025/06/19 作品の無断転載はご遠慮ください。

片想い婚〜今日、姉の婚約者と結婚します〜

橘しづき
恋愛
 姉には幼い頃から婚約者がいた。両家が決めた相手だった。お互いの家の繁栄のための結婚だという。    私はその彼に、幼い頃からずっと恋心を抱いていた。叶わぬ恋に辟易し、秘めた想いは誰に言わず、二人の結婚式にのぞんだ。    だが当日、姉は結婚式に来なかった。  パニックに陥る両親たち、悲しげな愛しい人。そこで自分の口から声が出た。 「私が……蒼一さんと結婚します」    姉の身代わりに結婚した咲良。好きな人と夫婦になれるも、心も体も通じ合えない片想い。

お姉様のお下がりはもう結構です。

ぽんぽこ@3/28新作発売!!
恋愛
侯爵令嬢であるシャーロットには、双子の姉がいた。 慎ましやかなシャーロットとは違い、姉のアンジェリカは気に入ったモノは手に入れないと気が済まない強欲な性格の持ち主。気に入った男は家に囲い込み、毎日のように遊び呆けていた。 「王子と婚約したし、飼っていた男たちはもう要らないわ。だからシャーロットに譲ってあげる」 ある日シャーロットは、姉が屋敷で囲っていた四人の男たちを預かることになってしまう。 幼い頃から姉のお下がりをばかり受け取っていたシャーロットも、今回ばかりは怒りをあらわにする。 「お姉様、これはあんまりです!」 「これからわたくしは殿下の妻になるのよ? お古相手に構ってなんかいられないわよ」 ただでさえ今の侯爵家は経営難で家計は火の車。当主である父は姉を溺愛していて話を聞かず、シャーロットの味方になってくれる人間はいない。 しかも譲られた男たちの中にはシャーロットが一目惚れした人物もいて……。 「お前には従うが、心まで許すつもりはない」 しかしその人物であるリオンは家族を人質に取られ、侯爵家の一員であるシャーロットに激しい嫌悪感を示す。 だが姉とは正反対に真面目な彼女の生き方を見て、リオンの態度は次第に軟化していき……? 表紙:ノーコピーライトガール様より

好きな男子と付き合えるなら罰ゲームの嘘告白だって嬉しいです。なのにネタばらしどころか、遠恋なんて嫌だ、結婚してくれと泣かれて困惑しています。

石河 翠
恋愛
ずっと好きだったクラスメイトに告白された、高校2年生の山本めぐみ。罰ゲームによる嘘告白だったが、それを承知の上で、彼女は告白にOKを出した。好きなひとと付き合えるなら、嘘告白でも幸せだと考えたからだ。 すぐにフラれて笑いものにされると思っていたが、失恋するどころか大切にされる毎日。ところがある日、めぐみが海外に引っ越すと勘違いした相手が、別れたくない、どうか結婚してくれと突然泣きついてきて……。 なんだかんだ今の関係を最大限楽しんでいる、意外と図太いヒロインと、くそ真面目なせいで盛大に空振りしてしまっている残念イケメンなヒーローの恋物語。ハッピーエンドです。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりhimawariinさまの作品をお借りしております。

私が、良いと言ってくれるので結婚します

あべ鈴峰
恋愛
幼馴染のクリスと比較されて悲しい思いをしていたロアンヌだったが、突然現れたレグール様のプロポーズに 初対面なのに結婚を決意する。 しかし、その事を良く思わないクリスが・・。

【完結】あなたの瞳に映るのは

今川みらい
恋愛
命を救える筈の友を、俺は無慈悲に見捨てた。 全てはあなたを手に入れるために。 長年の片想いが、ティアラの婚約破棄をきっかけに動き出す。 ★完結保証★ 全19話執筆済み。4万字程度です。 前半がティアラside、後半がアイラスsideになります。 表紙画像は作中で登場するサンブリテニアです。

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

処理中です...