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21:纏わりつく男
しおりを挟む画家とのことはこれで終わったと思ったのは、甘かった。
図書館へ行けばふと現れ、話しかけて来ようとする。
図書館の開館日には、アリーナを見張っているようだった。
厄介なのが、以前ほど人目を気にしていないことだ。
アリーナの侍女がいても気にせず話しかけて来る。
まるで、アリーナが去っていくのを恐れているような様子で、アリーナは時折恐怖を感じるようにさえなっていた……
そのため、アリーナは図書館へは行かなくなった。
……いや、行けなくなった。
スカイとは"忙しくて図書館へ行けない"と伝え、手紙でやりとりをした。
それから2週間後、スカイと約束の食事の日を迎えたのだった……
10日ほど前に一度、屋敷の門の前に画家がいたことがある。
幸い護衛が取り合わずに追い返してくれたため良かったが、アリーナは動悸を覚えたのだった。
アリーナは母親や父親に知られたくはなかった。
自分も同じことをしていたということを……
もし2人に、娘に対するなけなしの罪悪感が残っているのだとしたら、それは持ち続けて欲しいと思ったからだ。
外出する気にならなかったアリーナは、以前医者を呼んでくれたことで母親がスカイにとても良い印象を持っていることもあり、スカイを屋敷での食事に招待することにした。
「本日はお招きいただきまして、誠にありがとうございます」
「ようこそお越し下さいました。以前は娘を助けていただき、本当にありがとうございました」
「いいえ、十分なお礼をいただきましたので。こちらこそ、その節はありがとうございました」
アリーナと一緒に出迎えた母ティーナは、丁寧にお辞儀をしながら言う。
ティーナが図書館へ直接お礼に行った後、戻ってから一言「素敵な方ね」と言ったのを、アリーナはふと思い出した。
お礼の内容までは聞いてはいなかったが、どうやら母は中々のお礼をしたようだ。
穏やかに挨拶を済ませた後、アリーナは森へ案内した。
「へぇ、屋敷の敷地内に森があるんですね」
「そうなんですよ! お金には困っていないと仰っていたので、必要なのは豪華な食事よりも自然とのふれあいかと思いまして……」
「おお、有り難き心遣いです。最近ちょっと疲れていたのですよ」
そう言って笑うスカイに、アリーナは不覚にも胸がひとつ跳ねたのを、すぐに自制した。
画家とのことがあり、今のアリーナは男女の色恋沙汰には懲り懲りなのだ。
スカイとの関係もスカイの普段の言動も、アリーナは深く考えないようにしている。
「ここです! 寒ければ温室の中で、大丈夫そうなら外でと思っているのですが、いかがでしょうか?」
「アリーナ様は寒いのは苦手ですか?」
「いいえ、冬生まれなので寒さには強いのですよ」
アリーナの笑顔に目を細めたあと、スカイは言う。
「では、外でいただきましょうか」
少し風が肌寒かったが、日当たりの良い場所のためにさほど寒くはなかった。
「あまり食欲がないのですか?」
「あっ、せっかくなのに申し訳ありません……。食べられる物を美味しくいただいておりますので……」
「大丈夫ですか?」
最近アリーナは食欲が落ちており、身体が受け付けないものも多かった。
(あの人が悩ませるから……)
最近のアリーナは画家の影に怯えて屋敷に引きこもっており、ストレスフルな日々を送っている。
「少し忙しかっただけですから、大丈夫ですよ?」
苦笑いでそう言うアリーナに、スカイはそれ以上何も言わなかった。
「少しの間、人払いをしていただくことは可能ですか?」
食後のお茶を楽しんでいると、ふとスカイが言った。
「え、はい……」
人払いをした後、アリーナは身構えた。
わざわざ人払いをしてまで話す話題と言えば、アリーナには画家のことしか思いつかなかい。
スカイは、アリーナと画家のことを知る唯一の人物だ。あ、侍女を除いて。
覚悟を決めてスカイを見ると、スカイはとても真面目な顔で真っ直ぐにアリーナを見ていた。
「私と結婚しませんか?」
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