背徳の恋のあとで

ひかり芽衣

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22:プロポーズ

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時間が止まった。


……と感じるほど、一瞬全ての時が止まったようにアリーナは感じた。
それほどスカイの発言は、アリーナにとって突拍子もないものだった。

「……今、有りえないことが聞こえました」

「何と聞こえましたか?」

「有り得ないこと過ぎて、とてもではありませんが口に出来ません」

目を真ん丸に見開いたまま、アリーナを軽く首を横に振った。

(有り得ないわ!!!)

スカイは苦笑いをする。

「驚かせてしまいましたね。では、もう一度言いますので、今度はしっかりと聞いていて下さいね」

アリーナは再び固まり、目を更に見開く。
スカイは身構えたアリーナの右手をとり、跪く。
そしてその手の甲へ唇をそっとつけ、アリーナを見上げた。

「結婚して下さい」



つい最近まで不倫をしていたアリーナに、まさかこんな小説の中のような完璧なシーンが訪れるなんて、一体だれが誰が想像しただろうか?
この完璧なプロポーズが本物だと理解したアリーナは、顔を真っ赤にして固まった。

「良い返事なら今聞きます。悪い返事なら今は聞きません。少しでも良いので考えて下さい」

「……私は、強い女性になりたいのです。他人に依存するのではなく、自分の足で自分の幸せを掴むことが出来る……」

戸惑いの表情で言うアリーナに、スカイは顔を顰める。

「……いい返事しか今は受け付けていないのですが?」

「……ごめんなさい。でも、今あなたと結婚したら私は成長できません」

真っ直ぐにスカイを見て、アリーナははっきりと言った。

「……」

スカイも真っ直ぐにアリーナの瞳を見つめる。


”ビュッ”

ひとつ大きく風が吹いて、アリーナの髪がバサッと顔にかかった。
髪で一瞬視界が遮られ、その髪を手でよけると再びスカイの顔が目の前にある。

先程とは違う、少し寂しそうな表情で……


「返事は保留ということにしておいて下さい。いつまででも待ちますから。アリーナ様が幸せな結婚をするまでは……」

「何故、そんな……」

「”今はそのタイミングではない”という、その理由だけで諦めるつもりはありません」

「……そうではなく、私に拘る理由はありませんよね?」

「あります。ずっと慕っていました。あなたと初めて会った3年前からずっと。あなたが大人になるのを待っていたら、こんなことに……。とても後悔しました。さっさと婚約にもっていっていれば良かったと。……しかし、あなたと過ごす図書館での穏やかな時間が好きだったのです……。そしてあなたにも、自分から私を想って欲しかった……」

いっきに捲し立てられたスカイの言葉に、アリーナは驚きを隠せない。

「私は後悔しました。なので、もう後悔をしないように外堀を埋めようと思いました。スライトス男爵夫人には許可をいただいております」

「えっ?……あ……」

アリーナはハッとした。
これが、”十分すぎる報酬”か。

スカイは”外堀を埋める”という言い方をしたが、アリーナは嫌な感情は抱かなかった。
スカイには感謝の気持ちの方が大きい。
アリーナにとってスカイは”きちんとした大人”だった。
信頼していた。
そんな人に想いを寄せられて嫌な訳がない。

「以前私が”恋のパワーは凄い”と言ったのを覚えていますか?」

「……はい」

「私はあなたを想う気持ちで、あの図書館を購入しました。あなたとの大切な場所ですから。……あの図書館は書庫を城の図書館へ移して閉館する予定だったのです」

初めて知る事実に、アリーナは驚く。

(私のために、週2日しか開園できないのに買い取ったのね……)

妙に納得しながら、真面目で緊張の色を浮かべているスカイの瞳をジッと見る。
画家の瞳には常に家族を感じていた。
アリーナのことを見ていても、瞳の奥に家族を感じずにはいられなかった。
しかし今、目の前のスカイには自分しか映っていない。
アリーナには、それがとても嬉しかった。

「……わかりました。スカイ様自信をみて、判断させていただきます。そのために本日は一旦保留とさせていただきます」

真剣な表情でそう言うアリーナを見て、スカイはホッとした表情をした。

「ありがとうございます」

それと同時にアリーナは思う、(どうかスカイも冷静な判断をしますように)と。
スカイの気持ちを疑っている訳ではないが、執着しているだけの可能性はある。

”恋は盲目”

叶わない恋ほど、執着してしまう……

そのことを、アリーナはよく知っているのだ。





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