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25:バトル②
しおりを挟む「あの時は、前日に浮気が知られて、朝までずっと問い詰められていて行けなかったんだ!」
アリーナは冷静な冷たい視線で、目の前の情けない姿の画家を見ている。
何も言わないアリーナに、画家は”ハッ”と嬉しそうな表情をした。
「待っていてくれたんだね?」
画家の楽観的な嬉しそうな表情に、アリーナは呆れて言葉を失う。
「待ってくれていたのに、行けなくてごめん。待たせてごめん。今度こそ、一緒に駆け落ちしよう」
画家が立ち上がりアリーナの側へ行こうとした瞬間、アリーナは恐怖に体を強張らせた。
その瞬間、間にスカイが立ちはだかってくれる。
「インジャー画伯、座って下さい」
ニッコリと笑顔だが、全然目は笑っていない顔でスカイが言う。
圧を感じた画家は、せっかく得たやっと話し合える機会だということを思い出し、再び大人しく席に戻った。
「……画家様……今は家で辛い立場なのですね」
無表情で言うアリーナだが、画家はアリーナが自分の状況をわかってくれたことが嬉しかった。
「ああ、そうなんだ!」
「だから、こうして私に縋っているのですね」
「えっ? 違う! 君を愛しているから!」
アリーナには今、目の前の男が惨めな姿にしかうつらない。
愛の言葉もまったく心に響かない。
「愛しているとは便利な言葉ですね。まるでそれですべてが相殺されるとでも思っているのですか?」
「違う! 約束の日時に駆け落ちの場所へいけなかったこと、辛い想いをたくさんさせたこと、本当に申し訳ないと思っている! けれど最近は、いかに君のことが大切だったのか、愛しているのか、身に染みているんだ!!!」
「ただの執着です」
「違う! 本当に愛しているんだ! これからの人生を君と一緒に生きて行きたいんだ!!!」
連なる愛の言葉に、アリーナは寒気しかしなかった。
(気持ち悪い……)
体調がまだ戻っていないアリーナは、どんどん気分が悪くなるのを感じる。
「アリーナ様、大丈夫ですか?」
アリーナの体調不良に気づいて声をかけるスカイに、アリーナは微笑んで頷く。
「妻子をこんなに簡単に捨てると言う人を、私は信じることができません」
「なっ……」
「自分のとった行動の責任を取れない人と、これから先一緒に生きていきたいとは思いません」
スカイがいてくれるため、はっきりと言うことができる。
「……今は俺の妻や子に申し訳ないと思って罪悪感が強いかもしれないけれど、いづれ二人で幸せになれるさ!!!」
「あなたと一緒になった場合、私は一生”私も捨てられるかもしれない”という不安も、持ち続けることになります」
「そんなことはない! 君が最後だ!」
「最初は奥様のことも愛していたのでしょう? 人の気持ちは変わるのです。だからと言って、家族を捨てて他の女にいく無責任な男に興味はありません」
アリーナは言いながら、父親のことが浮かんでいた。
ずっと考えない様にしていたが、アリーナは父親のことを憎んでいたのだと、今実感した。
妻への恋愛感情がなくなっても、子供への愛情があれば、家族愛として家族を裏切ることなく幸せに生活する未来を選べたはずだ。
父親も、目の前の画家も、ただの無責任な男だ。
「私はあなたのことを愛していません。もう二度と、顔も見たくありません。うっ……」
アリーナは吐き気をもよおし、部屋を退室した。
後を追おうとした画家を、スカイは制した。
「二度と彼女に付き纏うな。そうでなければ、この国で暮らせないようにする」
「あなたにそんなことを言われる筋合いはない!」
激高する画家に、スカイは冷静に言う。
「この図書館を購入できるくらい裕福で結婚しておらず養う家族のいない俺と、自分の家族すら幸せに出来ずに無責任に放棄しようとしているお前、どちらの方が彼女幸せにできる?」
スカイの睨みに、画家は何の返事もしなかった。
……いや、できなかった。
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