背徳の恋のあとで

ひかり芽衣

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27:決意と手紙

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翌朝、眠れぬ夜を過ごしたアリーナは、決意を決めた顔で朝日が昇るのを眺めていた。
まだ出ていない下腹部をさすりながら、今日もある胃部不快感が赤ん坊の存在を認識させてくれる。

「私はこの子と強く生きる」

それが、一晩かけてアリーナの決めたことだった。

そうと決めたアリーナはスカイに手紙を書き、使いの者に急ぎで届けて貰った。
返事も受け取ってくるように指示して。



"スカイ様
本日閉館後に伺ってもよろしいでしょうか?
使いの者に返事を預けて下さいますと幸いです。
アリーナ"



仕事が一息つき、母ティーナと午後のティータイムをしようとしていた時、返事の手紙は届いた。

「お嬢様、図書館管理者様より返事を預かって参りました」

「ありがとう」

中を読むと、"お待ちしております"とある。
アリーナはゴクリと唾を飲み、緊張した表情をしている。

「……お母様、出掛けるので夕食はご一緒できません」

「まあ、スカイ様と会うの?」

どうやら、母は随分とスカイを気に入っているようだ。
瞳が嬉々としている。

「お母様が思っているような関係ではありません」

「そうなの? ……なら、他の相手を探さないと……」

心から残念そうな表情のティーナに気付かないふりをして、アリーナは席を立つ。

「……それも結構です。では、先に作業に戻ってキリの良いところまで済ませてしまいますね」

そう言って部屋を後にするアリーナの後ろ姿を、ティーナは心配そうに見送っていた……








「やあ、いらっしゃい」

嬉しそうな表情で出迎えてくれたスカイだが、アリーナの顔を見た途端に表情を曇らせた。

「……良い話ではなさそうだな……」





応接間に通されたアリーナは、スカイが席に着くのを確認してすぐに、本題を切り出した。

「申し訳ありません。やはり、プロポーズはお受け出来ません」

「……何故ですか?」

真面目な顔で"ジッ"とスカイを見ているアリーナを、スカイも真顔で"ジッ"と見つめる。

「……私は、一生結婚はいたしません。お母様と共に、領地を支えながら生きていきます」

「……何故ですか?」

不服そうなスカイの表情にアリーナは少し胸がいたんだ。

「母を助けた……」

アリーナはそこでふと、止まった。
目の前のスカイを見ると、本当にショックそうな顔をしている。

(これほど良くしてくれた人を、大切にしてくれた人を、心から信用できる人を、私は傷つけるのね)

そう実感したアリーナは、勝手に口からスラスラと言葉が出て来た。

「妊娠しています。例の方との子です」

スカイは信用できる。
誰にも言わないだろう。
アリーナはスカイに嘘をつきたくはなかった。
スカイにだけは……

スカイは目を見開いたあと、口元を手で覆った。
衝撃を受けているその様子に、アリーナの胸も激しく痛む。

「……そうですか。それで、これからどするつもりなのですか?」

「産まれて来たこの子が男の子なら、この子に領地を継がせます。女の子なら、養子を迎え入れて継いでもらうしかありませんが。それでも、実家でこの子を育てます」

「……男爵夫妻には許して貰えそうですか?」

「……わかりません。けれど、きっとわかってくれると信じています」

迷いなく言うアリーナに、スカイは黙ってしまう。

「ずっと母が守って来た領地を、これからも父の好きにされるのが嫌なのです。父の言いなりになる男性を養子にして継がせるなんて……。可能なら私が爵位を継ぎたいくらいです」

スカイは何か考え込んでいるようだ。

「……スカイ様自身を見て判断すると言っていたのにも関わらず、申し訳ありません」

アリーナのその言葉に、スカイは"ハッ"とした顔をする。

「……私自身だけを見ての判断なら、可能性はありましたか?」

その言葉にアリーナは驚く。

「な……そんな、今更言っても仕方のないことを……」

アリーナの狼狽に、スカイは決意の籠った瞳をする。

「眼は口ほどにものを言う……」

その言葉を聞いたアリーナは、目を見開きスカイを見つめる。

(馬鹿な私。断固として断らないといけないのに……)

アリーナが悔やみながら焦っている中、スカイは冷静だ。

「アリーナ様、一日考える時間を下さい」

「一体何を考えると言うのですか……」

不安な瞳のアリーナに、スカイはニッコリ笑って言った。

「お願いします、一日後に再び私に会って話を聞いて下さい」

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