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翌日、夕食後にスカイはアリーナの屋敷を訪ねて来た。
よりによって、偶然父であるスライトス男爵が金を取りに屋敷に来ているタイミングで……。
勿論アリーナは父にはすぐに帰って欲しかったし、スカイには会って欲しくなかった。
何ならアリーナも父に会いたくはなかった。
妊娠してからというもの、父親に対する嫌悪感がとんでもないのだ。
父親に大切にされた記憶のないアリーナは、”我が子なのに”と父親のことが更に信じられない”異物”のような存在になっていた。
「これはこれはスカイ様、いらっしゃいませ」
「スライトス男爵夫人、遅い時間に大変申し訳ありません」
「初めまして。父のグラダス・スライトスです」
まさかスライトス男爵がいるとは思っていなかったであろうに、スカイは動じる様子は全く見せない。
「こちらこそ、ご挨拶が遅くなってしまい申し訳ございません。スカイ・ドゥ・クラークと申します。お会いできて嬉しいです」
丁寧に頭を下げるスカイに、スライトス男爵は満足気な表情をしている。
「アリーナも隅におけませんな。まさかクラーク公爵家との縁を持つなんて……」
スライトス男爵のニヤけた表情に、アリーナは虫唾が走った。
「スカイ様、応接間へ案内いたします」
アリーナがそう口にして足速にその場を立ち去ろうとした時、スライトス男爵がとんでもないことを口にした。
「我がスライトス男爵家も、私の息子を正式に養子入れして継がせようと思っているのです。これからも、末永くよろしくお願いいたします」
アリーナは初めて聞く内容に驚き、父を見る。
父の隣にいる母ティーナの驚きと怒りの混ざった顔からして、母も初耳なのだろう。
スカイは軽く会釈すると無表情でその場を去ろうとしてくれ、アリーナもすぐに前を向いた。
「先程はお見苦しいところをお見せして、申し訳ありませんでした」
応接間で他人払いをしてスカイと二人きりになってから、アリーナは言った。
家族の恥を晒したも同然だ。
(スカイ様も、このような家と結婚して繋がりを持たずに良かったと安心されるかもしれないわね……)
そのようなことを考え、自嘲しながらアリーナはお茶を一口啜った。
「いいえ。失礼ですが、スライトス男爵に婚外子が居たことはご存じなかったのですか?」
スカイは真面目な顔で言う。
少し怒っているようにも見える。
「……恥ずかしながら……。どうりで家に全然帰って来ない訳ですね。愛人宅で家族を作っていたとは……。十分に考えられることなのに、考えたことがありませんでした」
アリーナは苦笑いで答える。
「……」
スカイは、黙ってアリーナを見ながら拳を強く握っていた。
「スカイ様? どうかなさいましたか?」
珍しく怒りを露わにした表情をしているスカイに。アリーナは驚いた。
「……腹が立ちもしますよ。大切な人を傷つけられているのですから……」
スカイのその言葉に、アリーナは瞳に熱いものが込み上げて来るのを感じる。
天井を見て必死に涙が零れないようにしながら、アリーナは言う。
「やめて下さい!」
アリーナの様子にスカイは苦笑いをし、冷静になろうとお茶を一口啜った。
その洗練された仕草が似合い過ぎて、アリーナは胸が高鳴ってしまう。
かつては画家の素朴さや純粋さに心惹かれていたアリーナにとって、スカイは画家と似ているところは何も見当たらなかった。
画家とは全然違う品の良さを痛感し、またスカイにはそれがとてもよく似合っているのだ。
(私にはときめく資格はないのよ!!!)
そう自分を律っしながら、努めて渋い顔を取り繕い目の前のスカイを見る。
そんなアリーナを、スカイは何故だか微笑ましく眺めている。
「体調はいかがですか?」
「大丈夫です。……スカイ様、ご用件をお願いいたします」
スカイに”無駄話をする気はない”と意思表示を込めて、アリーナは無表情に努めてジッとスカイを見る。
「先に言っておきます。私が今から言うことは、ただの紹介です。"このような方法もある"という。なのでその気にならなければ、まともに取り合っていただかなくて結構です」
「……わかりました」
穏やかないつもの様子のスカイに内心ホッとしながら、今から話される内容に全く予想かつかず、アリーナなゴクリと大きく唾を飲み込む。
今日はスカイの質問に全て答え、スカイの話もすべて聞くと決めていた。
そうして、スカイに誠意を見せようと思っている……
「昨日は、これからも現スライトス男爵の後継者の手伝いしていくと仰っていましたが、先程の言葉を聞いてもそのつもりですか?」
スカイの言葉は、アリーナをドキリとさせる。
今一番痛い所をつかれたからだ。
「……」
アリーナが答えられずにいると、スカイは続ける。
「自分の息子を養子入れすると仰っていましたが、愛人もこの屋敷に住まわせる可能性もありますね?」
「……私とお母様が追い出される可能性もありますね……」
アリーナの発言に、スカイは頷く。
「冷静で安心しました」
愛人との子の手伝いをするなんてまっぴらだし、今まで頑張って来た母を馬鹿にするのも許せない。
「……どうすれば……」
「私は昨日アリーナ様の話を聞き、一つ思いついたことがありました。それが実際に可能かを調べるため、一日時間をいただいたのです」
「……はい……」
「アリーナ様ご自身が、継がれてはいかがでしょうか?」
よりによって、偶然父であるスライトス男爵が金を取りに屋敷に来ているタイミングで……。
勿論アリーナは父にはすぐに帰って欲しかったし、スカイには会って欲しくなかった。
何ならアリーナも父に会いたくはなかった。
妊娠してからというもの、父親に対する嫌悪感がとんでもないのだ。
父親に大切にされた記憶のないアリーナは、”我が子なのに”と父親のことが更に信じられない”異物”のような存在になっていた。
「これはこれはスカイ様、いらっしゃいませ」
「スライトス男爵夫人、遅い時間に大変申し訳ありません」
「初めまして。父のグラダス・スライトスです」
まさかスライトス男爵がいるとは思っていなかったであろうに、スカイは動じる様子は全く見せない。
「こちらこそ、ご挨拶が遅くなってしまい申し訳ございません。スカイ・ドゥ・クラークと申します。お会いできて嬉しいです」
丁寧に頭を下げるスカイに、スライトス男爵は満足気な表情をしている。
「アリーナも隅におけませんな。まさかクラーク公爵家との縁を持つなんて……」
スライトス男爵のニヤけた表情に、アリーナは虫唾が走った。
「スカイ様、応接間へ案内いたします」
アリーナがそう口にして足速にその場を立ち去ろうとした時、スライトス男爵がとんでもないことを口にした。
「我がスライトス男爵家も、私の息子を正式に養子入れして継がせようと思っているのです。これからも、末永くよろしくお願いいたします」
アリーナは初めて聞く内容に驚き、父を見る。
父の隣にいる母ティーナの驚きと怒りの混ざった顔からして、母も初耳なのだろう。
スカイは軽く会釈すると無表情でその場を去ろうとしてくれ、アリーナもすぐに前を向いた。
「先程はお見苦しいところをお見せして、申し訳ありませんでした」
応接間で他人払いをしてスカイと二人きりになってから、アリーナは言った。
家族の恥を晒したも同然だ。
(スカイ様も、このような家と結婚して繋がりを持たずに良かったと安心されるかもしれないわね……)
そのようなことを考え、自嘲しながらアリーナはお茶を一口啜った。
「いいえ。失礼ですが、スライトス男爵に婚外子が居たことはご存じなかったのですか?」
スカイは真面目な顔で言う。
少し怒っているようにも見える。
「……恥ずかしながら……。どうりで家に全然帰って来ない訳ですね。愛人宅で家族を作っていたとは……。十分に考えられることなのに、考えたことがありませんでした」
アリーナは苦笑いで答える。
「……」
スカイは、黙ってアリーナを見ながら拳を強く握っていた。
「スカイ様? どうかなさいましたか?」
珍しく怒りを露わにした表情をしているスカイに。アリーナは驚いた。
「……腹が立ちもしますよ。大切な人を傷つけられているのですから……」
スカイのその言葉に、アリーナは瞳に熱いものが込み上げて来るのを感じる。
天井を見て必死に涙が零れないようにしながら、アリーナは言う。
「やめて下さい!」
アリーナの様子にスカイは苦笑いをし、冷静になろうとお茶を一口啜った。
その洗練された仕草が似合い過ぎて、アリーナは胸が高鳴ってしまう。
かつては画家の素朴さや純粋さに心惹かれていたアリーナにとって、スカイは画家と似ているところは何も見当たらなかった。
画家とは全然違う品の良さを痛感し、またスカイにはそれがとてもよく似合っているのだ。
(私にはときめく資格はないのよ!!!)
そう自分を律っしながら、努めて渋い顔を取り繕い目の前のスカイを見る。
そんなアリーナを、スカイは何故だか微笑ましく眺めている。
「体調はいかがですか?」
「大丈夫です。……スカイ様、ご用件をお願いいたします」
スカイに”無駄話をする気はない”と意思表示を込めて、アリーナは無表情に努めてジッとスカイを見る。
「先に言っておきます。私が今から言うことは、ただの紹介です。"このような方法もある"という。なのでその気にならなければ、まともに取り合っていただかなくて結構です」
「……わかりました」
穏やかないつもの様子のスカイに内心ホッとしながら、今から話される内容に全く予想かつかず、アリーナなゴクリと大きく唾を飲み込む。
今日はスカイの質問に全て答え、スカイの話もすべて聞くと決めていた。
そうして、スカイに誠意を見せようと思っている……
「昨日は、これからも現スライトス男爵の後継者の手伝いしていくと仰っていましたが、先程の言葉を聞いてもそのつもりですか?」
スカイの言葉は、アリーナをドキリとさせる。
今一番痛い所をつかれたからだ。
「……」
アリーナが答えられずにいると、スカイは続ける。
「自分の息子を養子入れすると仰っていましたが、愛人もこの屋敷に住まわせる可能性もありますね?」
「……私とお母様が追い出される可能性もありますね……」
アリーナの発言に、スカイは頷く。
「冷静で安心しました」
愛人との子の手伝いをするなんてまっぴらだし、今まで頑張って来た母を馬鹿にするのも許せない。
「……どうすれば……」
「私は昨日アリーナ様の話を聞き、一つ思いついたことがありました。それが実際に可能かを調べるため、一日時間をいただいたのです」
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