背徳の恋のあとで

ひかり芽衣

文字の大きさ
29 / 46

29:希望①

しおりを挟む
アリーナは驚きに目を見開き、固まっている。

(な……何を言っているの!?)

「……こっ……この国は、男性が領地を継ぐことになっております」

「はい、その通りです。しかし、例外はあります」

「……例外?」

「国王に認められれば良いのです」

淡々と顔色ひとつ変えずに言うスカイに、アリーナは開いた口が塞がらない。

(どうやって国王に認められるのよ……)

アリーナの心の中を見透かし、スカイは苦笑いをして続ける。

「もちろん、ただ申し出るだけでは駄目です」

スカイの表情が変わり、真面目な顔になった。
アリーナも姿勢を更に正し、両膝の上で両手の拳を握る。

「……というと?」

「成果をあげるのです。そしてその褒美として、希望を申し出るのです」

「……成果?」

やっとスカイの発言の意図が見えて来て、アリーナは少し緊張を解く。
スカイの言っている意味はよくわかるし、魅力的だったからだ。
しかし"成果"など、そう簡単に挙げられる訳がない。

「……私なんかに、一体何ができるというのです……」

今まで貴族の娘として生きて来たアリーナだ。
他の貴族の令嬢と何も変わらない。

「何か、国に不利益な不正などをご存じだったりはしませんか?」

「不正……?」

アリーナはすぐに一つのことが思い浮かんだ。

「……父が……違法取引を行っていると思います……恐らく」

実はアリーナと母ティーナは、父の悪事を疑っている。
しかし証拠もなく、口頭で本人へ言ってもしらばっくれるだけだったのだ。

アリーナはスカイを信じて口にした。
アリーナの頼りはスカイだけだ。

しかし、自分に好意を寄せてくれている相手に、自分の家の情けない部分を続けて晒すことに、アリーナは大きな羞恥心を抱く。

(幻滅されるようなことばかりね……)

スカイを見ると、スカイは何故だか微笑んでいる。

「……やはり、ご存じだったのですね。聡明な男爵夫人が気付いていない訳がないと思っていました」

「……ご存じだったのですね……」

スカイは申し訳なさそうに頷く。

「私が何年も前からアリーナ様を慕っていた話は、以前にさせていただきました。真剣に婚姻を望んでいたので、申し訳ありませんがスライトス男爵家のことは調べさせて貰っていました。その際にスライトス男爵が怪しいことも何となく気付いてはいたのですが、あなたのお父上でもあり、調査を後回しにしてしまっていました……」

少し自嘲気味に言うスカイに、思わずアリーナは声が漏れた。

「調査……」

「あ、言っていませんでしたね。図書館の管理者をしているのは週に2回だけで、あとは様々なことを陰で調査する仕事をしております。国に仕えておりますが、そんな事情で顔が知れ渡っていない方が都合が良いので、社交の場には出ておりません」

ああ、これが国王側近の公爵家三男の真実だったのかと思いつつ、それをアリーナに教えたということに、スカイの本気を感じる。

「資料はある程度手元にあったので、確証を得るために本日スライトス男爵の調査を行ったところ、やはり黒でした。もう少し時間をかけて調べれば完全に破滅に追い込むことが出来るでしょう」

「破滅……」

アリーナは一点を見つめて固まる。
自分の父親を破滅させる……

固まって動かないアリーナを、スカイは心配そうに見ている。

「……ひとつ確認をさせていただきたいのですが、男爵のことをどう思っていますか?」

いきなりの質問に驚いたアリーナだが、すぐに微笑む。

「……正直、幼い頃からずっと、父のことは考えない様にしていました。しかし、自分が不倫と言う不道徳な行いを行ってしまった時、はっきりと父のことは嫌悪する対象に変わりました。この子を身籠った今、この子にあのような祖父は必要ないと思っています。この子に関わって欲しくないと……」

アリーナはまだ膨らんでいない下腹部に手をやり、恨めしい形相をした。
不倫はただの自分勝手な行為でしかないということを、身をもって実感したアリーナは、今はもう父に嫌悪感しか抱いていない。
自分の妻子を平気で傷付ける行為……
妻子をないがしろにする行為……
将来自分の子に自分が嫌われるかもしれない、自分の行動が子供の将来に影を及ぼすかもしれない……
いくらでも案じる材料はあるのに、それに蓋をする行為。
見たくないこと、考えたくないことには蓋をして、自分のことしか考えていない行為。
不倫はどんなに仕方がなかろうが、自分勝手な行為に他ならないということを、アリーナは確信している。

鬼の形相になっているアリーナを見て、スカイは苦笑いをして口を開く。

「調査して証拠を揃え、国王に謁見してそれを国王へ伝えるのです。アリーナ様一人だと説得力が乏しいので、私と一緒に行きましょう。そこで国王に、アリーナ様が領地を継ぐ許可を得るのです」 






                                                     

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

私を裏切った夫が、後悔しているようですが知りません

藤原遊
恋愛
政略結婚として、公爵家に嫁いだ私は 愛のない夫婦関係を「仕事」だと思い、正妻の役目を果たしてきた。 夫が愛人を持つことも、 その子を屋敷に迎え入れることも、黙って受け入れてきた。 けれど―― 跡取りを、正妻の子ではなく愛人の子にする。 その言葉を、人前で軽く口にした瞬間。 私は悟ったのだ。 この家では、息子を守れないと。 元々、実家との間には 「嫡子以外の子は実家の跡取りにする」という取り決めがあった。 ならば話は簡単だ。 役目を終えた私は、離縁を選ぶ。 息子と共に、この家を去るだけ。 後悔しているようですが―― もう、私の知るところではありません。

【完結】時計台の約束

とっくり
恋愛
あの日、彼は約束の場所に現れなかった。 それは裏切りではなく、永遠の別れの始まりだった――。 孤児院で出会い、時を経て再び交わった二人の絆は、すれ違いと痛みの中で静かに崩れていく。 偽りの事故が奪ったのは、未来への希望さえも。 それでも、彼を想い続ける少女の胸には、小さな命と共に新しい未来が灯る。 中世異世界を舞台に紡がれる、愛と喪失の切ない物語。 ※短編から長編に変更いたしました。

【完結】恋が終わる、その隙に

七瀬菜々
恋愛
 秋。黄褐色に光るススキの花穂が畦道を彩る頃。  伯爵令嬢クロエ・ロレーヌは5年の婚約期間を経て、名門シルヴェスター公爵家に嫁いだ。  愛しい彼の、弟の妻としてーーー。  

【完結】冷徹公爵、婚約者の思い描く未来に自分がいないことに気づく

22時完結
恋愛
冷徹な公爵アルトゥールは、婚約者セシリアを深く愛していた。しかし、ある日、セシリアが描く未来に自分がいないことに気づき、彼女の心が別の人物に向かっていることを知る。動揺したアルトゥールは、彼女の愛を取り戻すために全力を尽くす決意を固める。

白い結婚にさよならを。死に戻った私はすべてを手に入れる。

美杉日和。(旧美杉。)
恋愛
商人であった父が、お金で貴族の身分を手に入れた。私というコマを、貴族と結婚させることによって。 でもそれは酷い結婚生活の始まりでしかなかった。悪態をつく姑。私を妻と扱わない夫。夫には離れに囲った愛人がおり、その愛人を溺愛していたため、私たちは白い結婚だった。 結婚して三年。私は流行り病である『バラ病』にかかってしまう。治療費は金貨たった一枚。しかし夫も父も私のためにお金を出すことはなかった。その価値すら、もう私にはないというように。分かっていたはずの現実が、雨と共に冷たく突き刺さる。すべてを悲観した私は橋から身を投げたが、気づくと結婚する前に戻っていた。 健康な体。そして同じ病で死んでしまった仲間もいる。一度死んだ私は、すべてを彼らから取り戻すために動き出すことを決めた。もう二度と、私の人生を他の人間になど奪われないために。 父の元を離れ計画を実行するために再び仮初の結婚を行うと、なぜか彼の愛人に接近されたり、前の人生で関わってこなかった人たちが私の周りに集まり出す。 白い結婚も毒でしかない父も、全て切り捨てた先にあるものは――

【完結】優しいあなたに、さようなら。二人目の婚約者は、私を殺そうとしている冷血公爵様でした

ゆきのひ
恋愛
伯爵令嬢であるディアの婚約者は、整った容姿と優しい性格で評判だった。だが、いつからか彼は、婚約者であるディアを差し置き、最近知り合った男爵令嬢を優先するようになっていく。 彼と男爵令嬢の一線を越えた振る舞いに耐え切れなくなったディアは、婚約破棄を申し出る。 そして婚約破棄が成った後、新たな婚約者として紹介されたのは、魔物を残酷に狩ることで知られる冷血公爵。その名に恐れをなして何人もの令嬢が婚約を断ったと聞いたディアだが、ある理由からその婚約を承諾する。 しかし、公爵にもディアにも秘密があった。 その秘密のせいで、ディアは命の危機を感じることになったのだ……。 ※本作は「小説家になろう」さん、カクヨムさんにも投稿しています ※表紙画像はAIで作成したものです

これ以上私の心をかき乱さないで下さい

Karamimi
恋愛
伯爵令嬢のユーリは、幼馴染のアレックスの事が、子供の頃から大好きだった。アレックスに振り向いてもらえるよう、日々努力を重ねているが、中々うまく行かない。 そんな中、アレックスが伯爵令嬢のセレナと、楽しそうにお茶をしている姿を目撃したユーリ。既に5度も婚約の申し込みを断られているユーリは、もう一度真剣にアレックスに気持ちを伝え、断られたら諦めよう。 そう決意し、アレックスに気持ちを伝えるが、いつも通りはぐらかされてしまった。それでも諦めきれないユーリは、アレックスに詰め寄るが “君を令嬢として受け入れられない、この気持ちは一生変わらない” そうはっきりと言われてしまう。アレックスの本心を聞き、酷く傷ついたユーリは、半期休みを利用し、兄夫婦が暮らす領地に向かう事にしたのだが。 そこでユーリを待っていたのは…

好きでした、婚約破棄を受け入れます

たぬきち25番
恋愛
シャルロッテ子爵令嬢には、幼い頃から愛し合っている婚約者がいた。優しくて自分を大切にしてくれる婚約者のハンス。彼と結婚できる幸せな未来を、心待ちにして努力していた。ところがそんな未来に暗雲が立ち込める。永遠の愛を信じて、傷つき、涙するシャルロッテの運命はいかに……? ※十章を改稿しました。エンディングが変わりました。

処理中です...