背徳の恋のあとで

ひかり芽衣

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29:希望①

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アリーナは驚きに目を見開き、固まっている。

(な……何を言っているの!?)

「……こっ……この国は、男性が領地を継ぐことになっております」

「はい、その通りです。しかし、例外はあります」

「……例外?」

「国王に認められれば良いのです」

淡々と顔色ひとつ変えずに言うスカイに、アリーナは開いた口が塞がらない。

(どうやって国王に認められるのよ……)

アリーナの心の中を見透かし、スカイは苦笑いをして続ける。

「もちろん、ただ申し出るだけでは駄目です」

スカイの表情が変わり、真面目な顔になった。
アリーナも姿勢を更に正し、両膝の上で両手の拳を握る。

「……というと?」

「成果をあげるのです。そしてその褒美として、希望を申し出るのです」

「……成果?」

やっとスカイの発言の意図が見えて来て、アリーナは少し緊張を解く。
スカイの言っている意味はよくわかるし、魅力的だったからだ。
しかし"成果"など、そう簡単に挙げられる訳がない。

「……私なんかに、一体何ができるというのです……」

今まで貴族の娘として生きて来たアリーナだ。
他の貴族の令嬢と何も変わらない。

「何か、国に不利益な不正などをご存じだったりはしませんか?」

「不正……?」

アリーナはすぐに一つのことが思い浮かんだ。

「……父が……違法取引を行っていると思います……恐らく」

実はアリーナと母ティーナは、父の悪事を疑っている。
しかし証拠もなく、口頭で本人へ言ってもしらばっくれるだけだったのだ。

アリーナはスカイを信じて口にした。
アリーナの頼りはスカイだけだ。

しかし、自分に好意を寄せてくれている相手に、自分の家の情けない部分を続けて晒すことに、アリーナは大きな羞恥心を抱く。

(幻滅されるようなことばかりね……)

スカイを見ると、スカイは何故だか微笑んでいる。

「……やはり、ご存じだったのですね。聡明な男爵夫人が気付いていない訳がないと思っていました」

「……ご存じだったのですね……」

スカイは申し訳なさそうに頷く。

「私が何年も前からアリーナ様を慕っていた話は、以前にさせていただきました。真剣に婚姻を望んでいたので、申し訳ありませんがスライトス男爵家のことは調べさせて貰っていました。その際にスライトス男爵が怪しいことも何となく気付いてはいたのですが、あなたのお父上でもあり、調査を後回しにしてしまっていました……」

少し自嘲気味に言うスカイに、思わずアリーナは声が漏れた。

「調査……」

「あ、言っていませんでしたね。図書館の管理者をしているのは週に2回だけで、あとは様々なことを陰で調査する仕事をしております。国に仕えておりますが、そんな事情で顔が知れ渡っていない方が都合が良いので、社交の場には出ておりません」

ああ、これが国王側近の公爵家三男の真実だったのかと思いつつ、それをアリーナに教えたということに、スカイの本気を感じる。

「資料はある程度手元にあったので、確証を得るために本日スライトス男爵の調査を行ったところ、やはり黒でした。もう少し時間をかけて調べれば完全に破滅に追い込むことが出来るでしょう」

「破滅……」

アリーナは一点を見つめて固まる。
自分の父親を破滅させる……

固まって動かないアリーナを、スカイは心配そうに見ている。

「……ひとつ確認をさせていただきたいのですが、男爵のことをどう思っていますか?」

いきなりの質問に驚いたアリーナだが、すぐに微笑む。

「……正直、幼い頃からずっと、父のことは考えない様にしていました。しかし、自分が不倫と言う不道徳な行いを行ってしまった時、はっきりと父のことは嫌悪する対象に変わりました。この子を身籠った今、この子にあのような祖父は必要ないと思っています。この子に関わって欲しくないと……」

アリーナはまだ膨らんでいない下腹部に手をやり、恨めしい形相をした。
不倫はただの自分勝手な行為でしかないということを、身をもって実感したアリーナは、今はもう父に嫌悪感しか抱いていない。
自分の妻子を平気で傷付ける行為……
妻子をないがしろにする行為……
将来自分の子に自分が嫌われるかもしれない、自分の行動が子供の将来に影を及ぼすかもしれない……
いくらでも案じる材料はあるのに、それに蓋をする行為。
見たくないこと、考えたくないことには蓋をして、自分のことしか考えていない行為。
不倫はどんなに仕方がなかろうが、自分勝手な行為に他ならないということを、アリーナは確信している。

鬼の形相になっているアリーナを見て、スカイは苦笑いをして口を開く。

「調査して証拠を揃え、国王に謁見してそれを国王へ伝えるのです。アリーナ様一人だと説得力が乏しいので、私と一緒に行きましょう。そこで国王に、アリーナ様が領地を継ぐ許可を得るのです」 






                                                     

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