背徳の恋のあとで

ひかり芽衣

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35:約束の木を目指して

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アリーナが畑の中にうつぶせとなり身を潜めていると、どんどん馬の足音が近くなる。
降りてから100mほど進んだ所で、ダイスは馬に乗った男に追いつかれた。

「アリーナという男爵の娘は見なかったか?」

(!? ……この声はライアンね!!!)

「え? 知りませんけど……」

「荷物がないが、何をしている?」

「今から荷物を取りに行くところです」

ダイスが上手くかわしてくれたおかげで、ライアンは何も疑わずにあっさりと先に行ってしまった。

(けれど牛では身を隠しにくいし、だいぶ休めたからあとは自力で行くとしましょう)

スカイとの待ち合わせ時間まではあと一時間程だ。
まだまだ歩くには遠い距離だ。
アリーナの足では間に合わないかもしれない。
けれどやるしかないのだ。

アリーナは出来る限り走った。
一度止まったら足が更に重くなることはわかっていたため、速度が落ちようと、走り続けた。
しかしアリーナには20分走り続けることが限界だった。

(無事に国王陛下にお会い出来て、男爵は断罪されて私とお母様は見逃していただけたら……体力をつけましょう)

そんなことを考えながら気を紛らわせた。

(お母様は頑張るから、あなたも頑張ってね)

最近少しずつ目立ち始めている、お腹の子のことも心配だった。

(今日は体を締め付けないドレスを着ていたことだけが、不幸中の幸いね)

アリーナは”ぜえぜえ”と息をしながら、前を目指した。

スカイとの待ち合わせ場所は、大きな木の下だった。
そこは最近、若者たちがデートの待ち合わせ場所に使うそうだ。
偶然にもその木は、画家が駆け落ちする際の待ち合わせ場所に指定して来た、屋敷の外にある大きな木と全く同じ種類の木だった。
樹齢も近いのだろう、大きさもとても似ている。

画家は待ち合わせ場所には来なかったが、スカイはきっといるだろう。
今まで一度もスカイに裏切られたことはない。

しかし、アリーナは遂に足が止まってしまった。
両膝に手を置き、前かがみになって荒い呼吸をする。
息が切れ過ぎて、上手く呼吸が出来ない。

ここは、スカイとの目的の場所まではあと数キロという場所だった。

(スカイ様……会いたいです)

アリーナはスカイに会うことを目標に、最後の力を振り絞ることにした。

「走りにくいわ!」

そう言い、ヒールを取った靴を脱ぎ捨てた。
足に纏わりついて邪魔なドレスの長いスカートの裾を、両手で持ち上げると膝下が露わになったが、そんなことを気にする余裕はなかった。

間に合わなければ、ならないのだ。
皆の為に。


するとアリーナの目に、待ち合わせの大きな木が小さく見え始めた。
ゴールが近くなると、少し力が出て来る気がする。

「もう少しよ!!!」



その時、アリーナの目の前に"スッ"と人影が現れた。


ライアンだった……———
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