背徳の恋のあとで

ひかり芽衣

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37:まるで王子様

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「アリーナ様!!!!!」

その声は、間違いなくスカイの声だった。
その声を聞いた瞬間、アリーナは意識が遠のくのを感じる。
顔面を強く殴られ、どうやら脳震盪を起こしていたようだ。

「早くこちらへ!!! こいつを捕えろ!!!」

(スカイ様の声がする……)

「アリーナ様!!!!!!」

(また私を助けてくれるのね……)

「アリーナ!!!!!!」

(まるで小説の中の王子様みたい……)

意識を手放す瞬間、アリーナは温かい何かに包まれた気がした……









アリーナが目を覚ますと、見覚えのない天井が広がっていた。

「アリーナ様! 気が付きましたか……」

声の方を見ると、そこには心配そうな表情のスカイがいる。

「……」

「気が付いて良かった……。私がわかりますか?」

「……スカイ様……」

「はい、そうです……」

アリーナはスカイの瞳に涙が滲んでいるのを”ジッ”と見ていた。

「本当に心配したのですよ……。顔も腫れあがって、額には傷があるし、足の裏は傷だらけだし……。着替えをした侍女によると身体中に痣があると……」

「……」

「やはり屋敷まで迎えに行くべきでした」

「……スカイ様のせいではありません」

「せめてもっと早く、アリーナ様があそこに居ることに気付くことが出来ていれば……」

「……スカイ様のせいではありませんから……」

「大切な女性……アリーナ様が、このような目にあうことから救えなかったのです。私のせいです……」

項垂れるスカイを見ながら、アリーナはどんどん頭が冴えて来る。
アリーナの寝ているベッドの横に座っているスカイが、アリーナのことを心から心配し、悔やんでくれていることが伝わって来る。
それも、痛いほどに……

アリーナは胸が苦しくて仕方がなかった。

(スカイ様のせいではないのに!)

アリーナは、そっとスカイの手の上に自分の手を伸ばした。

それに驚いたスカイは、顔を上げてアリーナを見る。

「助けて下さったではありませんか。本当にありがとうございます。私の声に気付いて下さって」

冷静なアリーナの様子に、スカイも少しずつ冷静になってくる。
過去を悔やんでもどうしようもないと気持ちを切り替え、アリーナを安心させようと薄っすらと微笑んだ。

「……体調はどうですか? 医者によると、頭をぶつけているので今夜は絶対安静だそうです。そして、赤ん坊は無事とのことです」

アリーナにとって一番大切なことを伝えてくれる、アリーナのお腹の子の存在を認知してくれているスカイに、アリーナは胸が締め付けられる。

(どうしてこの人は、これほど優しいの……?)

今度はアリーナが泣きそうになったが、感傷に浸っている場合ではないこともわかっていた。

「スカイ様、お願いがあります。屋敷に母が残っているのです」

「それなら大丈夫です、遣いの者を早馬で向かわせましたから。スライトス男爵は国王陛下の従者が男爵邸へ迎えに行ったので、牢に入れられるでしょう。アリーナ様を襲った男は、既に牢にいれてくれています」

アリーナがホッとした顔を見せると、スカイの手の上に載せたままだったアリーナの手を、今度はスカイが挟み込むように両手で握った。

「大体のことは予測がついているのですが、話を聞かせて貰えますか?」

「はい……」

アリーナはあったことを全て話した。
スカイの顔があまりにも怖かったので、スカイの顔を見ることが出来ずに、布団を見つめながら話したのだった……
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