背徳の恋のあとで

ひかり芽衣

文字の大きさ
46 / 46

46:最終話:想いよ届け!

しおりを挟む
一年後……ーーー




「おぎゃーおぎゃー」

「ママのおっぱい飲んだんだから、次は寝る時間だぞー」

赤ん坊をあやしているのはスカイだ。

「スカイ様、本当に良いのですか?」

「ああ、あとは任せて仕事に戻って下さい。くれぐれも無理はしないように!!!」

アリーナとティーナは、最近も相変わらず二人三脚で頑張っている。

「赤ん坊が3歳になるまでは、俺ではならない仕事の依頼以外は受けないこととしました」

スカイの身辺整理が済んでやっと一緒に暮らせるようになったのは、アリーナが臨月を迎えた頃だった。
簡単な結婚式をティーナと三人で小さな教会で済ませた後、領地を馬車でパレードして回った。
アリーナの父のことで士気が下がっていた領民たちも、公爵家の息子が婿入りに来たと聞きとても喜んだ。


今は、母乳をやる以外の子供の世話を、スカイが率先してやってくれている。
勿論使用人の手も借りているが、この屋敷で一番赤ん坊を可愛がっているのは、スカイかもしれない。
スカイは自分から赤ん坊の名づけも名乗り出たのだ。

”アフリス”と名付けたその子を、スカイは目の中に入れても痛くない程に可愛がっている。

一生懸命に父親になろうとしてくれている姿に、アリーナは感謝しかないし、本当にスカイの子供のように思えて仕方がなかった。
しかし、産まれた子は、アリーナの父や画家と同じ、金髪に緑の瞳だった。

訝しがる周囲に聞こえうように、スカイは大声でおどけて言って回った。

「隔世遺伝したのですね! 見た目はおじいちゃんに似ちゃったけど、おじいちゃんみたいになったら駄目ですよ!」

次第に周りも、変なことを言うも者はいなくなった。
スカイは、結婚してからアリーナのことを呼び捨てで呼ぶようになり、一人称が”私”から”俺”にはなったが、慣れているからと会話は敬語のままだった。
たまにふと混ざるタメ口に、アリーナはこっそりキュンキュンしているのは、スカイには秘密だ。







ある夜、アリーナが仕事を終えて赤ん坊の様子を見に行くと、赤ん坊の側でスカイが一緒に寝ていた。

その様子に一気に愛おしさが込み上げて来たアリーナは、赤ん坊の額にキスをした後、自然にスカイの頬にキスをした。
アリーナからキスをしたのは、あの、結婚を決意した日以来だった。
スカイからも、頬へのキスがたまにある程度だ。

最初は妊娠しているアリーナを気遣ってなのかと思っていたが、やはり画家の影を感じて嫌な想いをしているのではないかとの危惧も、アリーナは捨てきれていない。
そのため、スカイから触れて来ない限りは、アリーナもその距離を保つことにしているのだ。



「アリーナ? 今、キスしてくれた?」

アリーナの手を取りそっと目を開けてそう言うスカイに、アリーナは頬を真っ赤にした。

「お……起きていたのですか!?」

恥ずかしさに顔を背けそうになったが、スカイが手を握る力を強めたためアリーナは再びスカイを見る。
嬉しそうなスカイの表情を見て、アリーナは確信した。

(ああ、スカイ様は私の心の準備が整うのを、ずっと待っていて下さったのね)

そう思うと一気にスカイへの愛しさが溢れ出す。

アリーナは勢いよく抱き付き、スカイをベッドに押し倒した。
そして”ギューッ”と、力の限り抱きしめる。

”想いよ届け!”

と想いを込めて。

伝えた想いはスカイにしっかりと届き、”ギューッ”とお返しのハグを受ける。

「……スカイ様、愛しています」

アリーナの初めての愛の告白を受けたスカイの表情は、スカイからの口づけによって見ることは出来なかった。








5年後———

今では領地経営も主にアリーナが行うようになっている。
少し余裕の出来たティーナは、アリーナの勧めで執事と再婚した。
密かにずっと想い合っていた二人は、とても初々しくて素敵な夫婦で、見ていて癒される。

スカイはちょこちょこ屋敷を留守にすることもあり、仕事はしているようだ。
しかし家ではその姿を見せないため、ただの子煩悩な父親となっている。
一つ残念なこととしては、あの二人の思い出の図書館が老朽化のため取り壊されたことだ……





「お母様、これ何ー?」

物置の整理を5歳になった娘と3歳になる息子としていると、娘アフリスが言う。

それは、ずっと奥深く閉まって忘れ去られていた、初めて画家と会った日にアリーナが一目惚れして買った絵だった。

「綺麗な青」

娘のその言葉に、アリーナは心の中で言った。

(この娘を授けてくれてありがとう。どうかあなたも今幸せに暮らしていますように……)

画家はここ数年で絵が評価され始めており、アリーナは勝手に耳に入って来る情報で元気なことと妻子とまだ一緒にいることを知っていた。

「この絵、欲しい?」

「んーん、いらない!」

気に入ったようなのでいるならあげようと思ったのだが、娘の意外な返事にアリーナは驚いた。

「どうして?」

「んー、なんとなく。いらない!」

その言葉にアリーナは笑顔になる。

「そうね、あなたはスカイ様の娘だものね!」

「えっ? お母様、どうゆうこと?」

不思議な顔の娘にアリーナは笑って言う。

「この絵、売っちゃおう! で、売ったお金は全部施設に寄付しよう! パパがもうすぐお出掛けするって言っていたから、一緒に連れて行ってって言いに行こう!」

「わーい、お出掛けだー! パパーーー!!!」

アリーナはお出掛けに喜ぶ子供二人と一緒に、スカイの元へ駆けだしたのだった……ーーー





【完】
最期まで読んで下さりありがとうございました。
少し休憩してから、短編集『あなたが本当に知りたいことは何ですか?』に、この物語の登場人物たちをまた登場させたいなと思っています。
その際にはぜひ読んで下さったら嬉しいです ^^
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

行動あるのみです!

恋愛
※一部タイトル修正しました。 シェリ・オーンジュ公爵令嬢は、長年の婚約者レーヴが想いを寄せる名高い【聖女】と結ばれる為に身を引く決意をする。 自身の我儘のせいで好きでもない相手と婚約させられていたレーヴの為と思った行動。 これが実は勘違いだと、シェリは知らない。

あなたを愛する心は珠の中

れもんぴーる
恋愛
侯爵令嬢のアリエルは仲の良い婚約者セドリックと、両親と幸せに暮らしていたが、父の事故死をきっかけに次々と不幸に見舞われる。 母は行方不明、侯爵家は叔父が継承し、セドリックまで留学生と仲良くし、学院の中でも四面楚歌。 アリエルの味方は侍従兼護衛のクロウだけになってしまった。 傷ついた心を癒すために、神秘の国ドラゴナ神国に行くが、そこでアリエルはシャルルという王族に出会い、衝撃の事実を知る。 ドラゴナ神国王家の一族と判明したアリエルだったが、ある事件がきっかけでアリエルのセドリックを想う気持ちは、珠の中に封じ込められた。 記憶を失ったアリエルに縋りつくセドリックだが、アリエルは婚約解消を望む。 アリエルを襲った様々な不幸は偶然なのか?アリエルを大切に思うシャルルとクロウが動き出す。 アリエルは珠に封じられた恋心を忘れたまま新しい恋に向かうのか。それとも恋心を取り戻すのか。 *なろう様、カクヨム様にも投稿を予定しております

壊れた心はそのままで ~騙したのは貴方?それとも私?~

志波 連
恋愛
バージル王国の公爵令嬢として、優しい両親と兄に慈しまれ美しい淑女に育ったリリア・サザーランドは、貴族女子学園を卒業してすぐに、ジェラルド・パーシモン侯爵令息と結婚した。 政略結婚ではあったものの、二人はお互いを信頼し愛を深めていった。 社交界でも仲睦まじい夫婦として有名だった二人は、マーガレットという娘も授かり、順風満帆な生活を送っていた。 ある日、学生時代の友人と旅行に行った先でリリアは夫が自分でない女性と、夫にそっくりな男の子、そして娘のマーガレットと仲よく食事をしている場面に遭遇する。 ショックを受けて立ち去るリリアと、追いすがるジェラルド。 一緒にいた子供は確かにジェラルドの子供だったが、これには深い事情があるようで……。 リリアの心をなんとか取り戻そうと友人に相談していた時、リリアがバルコニーから転落したという知らせが飛び込んだ。 ジェラルドとマーガレットは、リリアの心を取り戻す決心をする。 そして関係者が頭を寄せ合って、ある破天荒な計画を遂行するのだった。 王家までも巻き込んだその作戦とは……。 他サイトでも掲載中です。 コメントありがとうございます。 タグのコメディに反対意見が多かったので修正しました。 必ず完結させますので、よろしくお願いします。

忘れられたら苦労しない

菅井群青
恋愛
結婚を考えていた彼氏に突然振られ、二年間引きずる女と同じく過去の恋に囚われている男が出会う。 似ている、私たち…… でもそれは全然違った……私なんかより彼の方が心を囚われたままだ。 別れた恋人を忘れられない女と、運命によって引き裂かれ突然亡くなった彼女の思い出の中で生きる男の物語 「……まだいいよ──会えたら……」 「え?」 あなたには忘れらない人が、いますか?──

【完結済】平凡令嬢はぼんやり令息の世話をしたくない

天知 カナイ
恋愛
【完結済 全24話】ヘイデン侯爵の嫡男ロレアントは容姿端麗、頭脳明晰、魔法力に満ちた超優良物件だ。周りの貴族子女はこぞって彼に近づきたがる。だが、ロレアントの傍でいつも世話を焼いているのは、見た目も地味でとりたてて特長もないリオ―チェだ。ロレアントは全てにおいて秀でているが、少し生活能力が薄く、いつもぼんやりとしている。国都にあるタウンハウスが隣だった縁で幼馴染として育ったのだが、ロレアントの母が亡くなる時「ロレンはぼんやりしているから、リオが面倒見てあげてね」と頼んだので、律義にリオ―チェはそれを守り何くれとなくロレアントの世話をしていた。 だが、それが気にくわない人々はたくさんいて様々にリオ―チェに対し嫌がらせをしてくる。だんだんそれに疲れてきたリオーチェは‥。

私との婚約は、選択ミスだったらしい

柚木ゆず
恋愛
 ※5月23日、ケヴィン編が完結いたしました。明日よりリナス編(第2のざまぁ)が始まり、そちらが完結後、エマとルシアンのお話を投稿させていただきます。  幼馴染のリナスが誰よりも愛しくなった――。リナスと結婚したいから別れてくれ――。  ランドル侯爵家のケヴィン様と婚約をしてから、僅か1週間後の事。彼が突然やってきてそう言い出し、私は呆れ果てて即婚約を解消した。  この人は私との婚約は『選択ミス』だと言っていたし、真の愛を見つけたと言っているから黙っていたけど――。  貴方の幼馴染のリナスは、ものすごく猫を被ってるの。  だから結婚後にとても苦労することになると思うけど、頑張って。

不機嫌な侯爵様に、その献身は届かない

翠月るるな
恋愛
サルコベリア侯爵夫人は、夫の言動に違和感を覚え始める。 始めは夜会での振る舞いからだった。 それがさらに明らかになっていく。 機嫌が悪ければ、それを周りに隠さず察して動いてもらおうとし、愚痴を言ったら同調してもらおうとするのは、まるで子どものよう。 おまけに自分より格下だと思えば強気に出る。 そんな夫から、とある仕事を押し付けられたところ──?

【完】真実の愛

酒酔拳
恋愛
シャーロットは、3歳のときに、父親を亡くす。父親は優秀な騎士団長。父親を亡くしたシャーロットは、母と家を守るために、自ら騎士団へと入隊する。彼女は強い意志と人並外れた反射神経と素早さを持っている。 シャーロットは、幼き時からの婚約者がいた。昔からのシャーロットの幼馴染。しかし、婚約者のアルフレッドは、シャーロットのような強い女性を好まなかった。王宮にやってきた歌劇団のアーニャの虜になってしまい、シャーロットは婚約を破棄される。

処理中です...