背徳の恋のあとで

ひかり芽衣

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3:大好きな図書館

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友人との会話で心にもやがかかった気分になってしまったアリーナは、一番のお気に入りの場所へ寄ってから帰ることにした。

王都の図書館だ。
アリーナの親がおさめている領地は、王都の隣にある農業中心の地域だ。
先祖代々、王都への食糧供給という大切な役割を担っている。
洒落た店もなければ、図書館もない。
幼い頃からいつも、王都へ出掛けた際には図書館へ寄るのが習慣だ。
アリーナは幼い頃から本が好きだったが、ここ数年は特に恋愛小説を好んで読んでいる。
友人に借りたのをきっかけに、はまってしまったのだ。

(今日は新しいのが入っているかしら?)

アリーナはワクワクする気持ちを隠せない。
最近は母のおつかいで王都へ来ることも増え、図書館へはほぼ2週間に1回は通っている。
この大きな図書館は、とにかく品ぞろえが良い。
堅苦しい話や勉学の蔵書も勿論たくさんあるが、アリーナの好む小説も豊富なのだ。
恐らく、令嬢たちの間で流行っているような近代的な小説を、厳かな昔ながらの図書館にこれほどたくさん置いている所は珍しいだろう。
アリーナはこの図書館の厳かな雰囲気も気に入っているが、柔軟さも気に入っている。

「こんにちは」

今日も、いつも出迎えてくれる図書館管理者に挨拶をしてから入り口を通過した。 
この重厚な図書館に似合わない、若い管理者だ。
年は恐らく20代半ばだろう。
この若い管理者のおかげで、厳かだけではない、素敵な図書館が出来上がっているとアリーナは思っている。
常連アリーナのことを覚えてくれている管理者は、シーンと静まり返る図書館で、いつも微笑みを浮かべて小声で挨拶してくれる。
この笑顔もまた、アリーナの心を落ち着け暖かい気持ちにしてくれるのだ。
最近は他の利用者が居ない時には、世間話を少しすることもある。

(図書館も管理者さんも、相変わらず落ち着くわ。やっぱり来てよかったわ)

アリーナは先程の重たい心が軽くなるのを感じながら、小説コーナーへ行く。

「あっ!」

思わず声が出てしまい、咄嗟に手で口を塞いだ。
入り口を伺うと、管理者がアリーナの方を見ている。

『仕入れておきましたよ』

と言わんばかりに"ニコッ"と笑顔を作った。

『ありがとうございます』

という気持ちを込めて、アリーナは照れながら軽くお辞儀をした。

管理者にはアリーナの小説の好みを知られている。
少し恥ずかしがりながらも、ずっと読みたかった物語の続話が入荷されていて、アリーナは嬉しい気持ちで一杯になったのだった。
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