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7:初恋
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その想いから、アリーナは次の開館日にも図書館へ行った。
前回と同じ場所に画家の姿を見つけた時、心の底からホッとした。
暫く図書館の窓から絵を描いている画家を覗き見ていると、ふと後ろから声を掛けられる。
「アリーナ様、続けていらっしゃるのは珍しいですね」
他に利用者のいなくなったタイミングで、管理者スカイは話しかけてきたのだ。
「あっ、スカイ様! 昨日はバタバタと帰らないとならなくなってしまい、本を借りられなかったので……」
咄嗟の言い訳に少し気恥ずかしいアリーナは、窓に背を向けて答える。
チラッと窓の外の画家を見ると、片付けを始めていてアリーナは慌てる。
「あっ、急用が出来たので失礼します!」
アリーナは前回と同じようにそっと扉を出ると、馬車が待機してある道まで出ずに、こっそり庭を回って裏口から道へ出た。
「画家さん!」
思わず声を掛け、アリーナは帰ろうとしている画家を呼び止めた。
振り返った画家の驚いた顔を見て、アリーナは一気に恥ずかしくなり内心慌てた。
(呼び止めてどうするのよ!?)
何か用事がある訳でなければ、話の内容も全く考えていなかった。
頭の中がパニックになって口をパクパクさせているアリーナを見て、画家も狼狽する。
「ひょっとして、昨日の絵がやはり気に入りませんでしたか!? 返金いたしますよ!」
その言葉にアリーナは”カッ”となる。
「またそんな、自己評価の低いことを言って!!!」
しゃがんで荷物を纏めていた画家の前に仁王立ちに立ちはだかり、アリーナは続ける。
「あなたの絵は素晴らしいです! 昨日の絵を私はとても気に入りました!……そう、今日は他の絵を見せて貰いに来たのです!」
咄嗟に出た理由に、我ながら(良い理由だ)と感心した。
「あ……すみません……。ありがとうございます。……えっと、今手元に絵はないんです……」
アリーナの勢いに圧倒されながら、画家は答える。
前回とは違い今日のアリーナは、画家の金髪とグリーンの瞳を見ても父親を連想することはなかった。
もう既にアリーナにとってその色は、画家の色となっていた。
(私は何で仁王立ちでこんな……)
自分の態度に自分で驚き、収拾がつかなくなっているアリーナに、画家は控えめに言った。
「あの……今からアトリエ……と言っても小さい部屋なのですが、そこに戻るのです。そこに今までの絵を保管してあるので、よかったらいらっしゃいますか?」
「……はい!!!」
画家の申し出に、アリーナは即答した。
図書館に入ってから時間もさほど経っていないため、まだ図書館にいないことがバレることはないだろう。
「あの、近くですか?」
「はい、歩いて5分くらいです」
その返事に更にほっとする。
(すぐに戻れば大丈夫ね)
「あっ、でも、女性一人では不安ですよね……」
「大丈夫です。連れて行って下さい」
画家の声を遮り、アリーナは大きな声で言う。
その迫力に圧倒され、画家は静かに歩き出した。
そこは、今までアリーナが足を踏み入れたことのないような、古いアパートだった。
古いアパートだが、大家がネズミの捕獲に力を入れているためここにしたそう。
今のところ、作品は被害にあっていないとのこと。
「ここです」
通されたアパートの三階の部屋は、4×3m程度の広さだった。
前面の壁に絵が所狭しと立てかけられている。
重ねて置いてあるため、画家の気に入っている物をいくつか選んで見せて貰うことにする。
「……この場所を、私に教えても良かったのですか?」
あまりの無防備さに、アリーナは少し心配になってしまった。
作品を盗む事だって簡単に出来そうなアパートだ。
「本当ですよね。この場所は今まで誰にも教えたことがない、僕の秘密基地なんです。家族も知りません。……なんで教えたんだろう? 僕のことを評価して下さって嬉しいからですかね?」
”?”マークで答えられて、アリーナは何とも言えない気持ちになる。
本当は今日も購入したい衝動に駆られたが、アリーナは堂々と会いに来る口実を残しておきたくなった。
それ程、画家に言われた「誰にも教えたことがない」という”アリーナが特別だ”というキーワードが、アリーナの胸をときめかせる。
「……どれも素敵です。少し考えさせて下さい。また来させて貰っても良いですか?」
「あ、はい。農業が忙しいと来られない時もあるのですが、大体午後にいるので……。よかったら、またいらして下さい」
画家は少しはにかみながら、満面の笑みで答えた。
その笑顔がまた、アリーナの心に突き刺ささるのだった……
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