背徳の恋のあとで

ひかり芽衣

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8:初めての想い

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それからアリーナは週に一度はその部屋を訪れるようになった。
農業が主な生活源のため、画家はいないことも多かったが、会えた時の喜びはひとしおだった。

暑い季節に差し掛かる頃には、いつの間にか二人の間に甘い空気が流れるようになった。
お互いの気持ちがわかるようでわからず、確信が持てず、お互いに距離を測るようになっていた。
アリーナは初恋のむず痒さを思う存分に堪能し、所謂”両片想い”と思われる状況を楽しんだ。

(恋ってなんて素敵なの! 今まで何でもなかった景色が輝いて見えて、今までイライラしていたことがイライラしなくなって……。スカイ様の言っていた通り、恋の力は凄いわね!)



そして真夏の太陽が激しく照り付けている日、2人は口づけをした。
自然な流れだった。
会話がなくなり、どちらからともなく顔が近づき、唇が重なったのだ……


人生初めての口づけに、アリーナはその日は眠ることが出来なかった。
そして、色々なことを考えた。

(身分的に婚姻は許されないだろうから、駆け落ちをするしかないかしら……)

今も変わらず母親の仕事を手伝っているアリーナは、母のことを考えて浮かれた気持ちが静まる。

(私がいなくなったら、お母様は悲しむでしょうね……。今までの苦労が無駄になったとお考えになるかしら……)

今度は母を思って胸を痛めながら、眠れぬ夜を過ごしたのだった……




夏も終わりに差しかかった頃。
その日は、アトリエに画家はいなかった。
なので本を借りようと、久しぶりに図書館へ行ったのだ。

「お久しぶりですね」

いつも図書館へ入るふりをして庭の裏口から抜け出している為、図書館へ入ること自体が久しぶりで、スカイと会うのも約3か月ぶりだった。

「スカイ様、お久しぶりです。お元気でしたか?」

「元気でしたよ。アリーナ様はいかがお過ごしでしたか?」

「えっ……ふふっ」

スカイの問いかけに、アリーナは思わず画家を思い出しにやけてしまう。
そんなアリーナを怪訝に思うと同時に、スカイの勘に働きかけるものもあった。

「……アリーナ様、もしかして慕う方ができたのですか?」

「えっ……はい、実はそうなんです……。内緒ですよ?」

アリーナは初めて人に話したことで、恥ずかしい様な嬉しい様な、心が痒い気分だ。
頬を赤らめて言うアリーナに、スカイは顔を曇らせる。

「……まさか、そこの路地で絵を描いている画家ではありませんよね?」

「えっ!?」

いきなり核心をつかれたアリーナは、驚きに声をあげてしまう。

「まさか……」

スカイは頭に手をやり項垂れる。

「どうしてご存じなのですか!?」

「前にアリーナ様が窓の外を見て慌てて出て行かれて、その画家と話しているのをその窓から見たからです」

スカイは、以前アリーナが画家を覗き見していた窓を指さした。

「あっ……」

照れて苦笑いをするアリーナに、スカイは更に表情を曇らせる。

「彼はやめておいた方がいいですよ」

「えっ……」

「妻子がいます」





アリーナは目の前が頭は真っ白になった……ーーー








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