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第四章 いなくなった死神さん
第42話 お久しぶりね
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死神さんがいなくなって一週間。僕は、これまでと変わらない平凡な生活を送っていました。朝起きる。朝食を作って食べる。身支度をする。学校に行く。帰宅する。晩御飯を作って食べる。シャワーを浴びる。寝る。そんな、平凡な生活を。
死神さんのことを忘れたわけではありません。いや、むしろ、毎日のように死神さんのことが脳裏をよぎるのです。死神さんは今何をしているのか。死神さんと会うにはどうすればいいのか。もう、死神さんには会うことができないのか。そんなことを思うたび、僕の心の中を黒いものが埋め尽くすのでした。
そして、今日も。
「おかず、作りすぎちゃったなあ」
僕は、満腹になったお腹をさすりながら呟きました。
目の前のこたつテーブルには、食べきることのできなかった野菜炒めが置かれています。もし死神さんがいたなら、「残すなんてもったいない!」と言って食べてくれたのでしょうけれど。
「死神さん」
僕が無意識に彼女の名を呼んだ時でした。
「お久しぶりね」
急に背後から聞こえた女性の声。僕は驚いて振り返ります。
そこにいたのは一人の女性。真っ黒なローブ。真っ黒な三角帽子。綺麗な赤い瞳。胸のあたりまである長い白銀色の髪。死神さんそっくりの顔。
「お母さん!?」
「あら、食事中だったのね。来るタイミング間違えちゃったわ。ごめんなさい」
そう言って小さく首を傾ける女性の正体。そう。死神さんのお母さんです。
「ど、どうしてお母さんがここに?」
「あなたの様子を見に来たのよ。元気にやってるかしら?」
あっけらかんとした調子で尋ねるお母さん。
おそらく傍から見れば、それはただの社交辞令。それでも、今の僕にとっては、とてつもなく答えに困る質問でした。
「…………元気……ですよ……はい」
無理矢理言葉をひねり出す僕。自然と両手に力が入るのが分かります。
否定したい気持ちはやまやまでした。死神さんがいなくなって、大切な人がいなくなって、元気でいられるわけがないのですから。それでも、嘘をつかなければならないと思いました。だって、ここで僕が「元気じゃない」と言ってしまえば、それがお母さんを通して死神さんに伝わってしまう可能性があるのですから。もしそうなったら、死神さんを悲しませるだけ。
「あらあら」
お母さんは、僕を見て苦笑いを浮かべます。
「何ですか?」
「顔に出てるわよ。『元気じゃない』って」
「……見間違いです」
僕は、急いで顔を横にそらしました。
「ふふ。あの子に心配をかけたくないってことかしら。あの子も愛されてるわねー」
どうやら、僕の考えはお母さんに筒抜けのようです。まあ予想はしてましたけどね。僕が嘘をつくのが下手というのもありますが、何より彼女はいろいろと鋭そうな人ですから。
「僕のことは別にいいんです。それよりも、死神さんは元気ですか?」
蘇るあの日の光景。死神さんの涙。死神さんとのキス。そして、『大好き』という最後の言葉。
あんな別れ方をした彼女は、今、元気に過ごしているのでしょうか。それとも……。
お母さんは、数秒黙った後、苦しそうに笑いながらこう言いました。
「元気だと思う?」
ああ。やっぱり。
気まずい空気が、僕たちの間を漂っています。お母さんの言葉、そして、表情。それは、死神さんが元気ではないということをありありと表していました。
会いたい。
死神さんに、会いたい。
今すぐにでも、会いに行きたい。
「お母さん。お願いがあります」
「…………」
「僕を、死神世界に連れて行ってください!」
僕の叫び声が、部屋中にこだましました。
「……死神世界に行って、どうするのかしら?」
突然の申し出に驚いた様子もなく、お母さんは尋ねます。
「死神さんに会うんです!」
「それで?」
「会って、それから……それから……」
「…………」
「僕に何ができるのかはわかりませんけど。とにかく、会いたいんです。死神さんに」
死神さんの元気がない。それを知って、何もしないなんて選択肢を僕は持ち合わせていないのです。
「お願いします! 死神さんに会うためなら、僕はどんなことでもします!」
僕は、お母さんに向かって深々と頭を下げました。
しんと静まり返る室内。頭を下げ続けている僕の目に、お母さんの顔は映っていません。今、彼女は、どんな表情をしているのでしょうか。何を考えているのでしょうか。僕は、体を小さく震わせながら彼女の言葉を待ちました。
「…………今、死神世界にあなたを連れていくことはできないわ。死神世界の決まりで、生きた人間を許可なしに連れてきちゃいけないってことになってるの。ちゃんと手続きをすれば大丈夫だけど、許可が下りるのはいつになるか分からない。最悪の場合、何十年後なんてことも考えられるわね」
「そんな」
「でも、一つだけ、今すぐ死神世界に行ける方法があるわ」
ドクンと大きく跳ねる僕の心臓。頭を勢いよく上げると、そこには、ほんの少しだけ口角を上げて僕を見つめるお母さん。
「何ですか!? 教えてください!?」
「あなたが死ぬことよ」
死神さんのことを忘れたわけではありません。いや、むしろ、毎日のように死神さんのことが脳裏をよぎるのです。死神さんは今何をしているのか。死神さんと会うにはどうすればいいのか。もう、死神さんには会うことができないのか。そんなことを思うたび、僕の心の中を黒いものが埋め尽くすのでした。
そして、今日も。
「おかず、作りすぎちゃったなあ」
僕は、満腹になったお腹をさすりながら呟きました。
目の前のこたつテーブルには、食べきることのできなかった野菜炒めが置かれています。もし死神さんがいたなら、「残すなんてもったいない!」と言って食べてくれたのでしょうけれど。
「死神さん」
僕が無意識に彼女の名を呼んだ時でした。
「お久しぶりね」
急に背後から聞こえた女性の声。僕は驚いて振り返ります。
そこにいたのは一人の女性。真っ黒なローブ。真っ黒な三角帽子。綺麗な赤い瞳。胸のあたりまである長い白銀色の髪。死神さんそっくりの顔。
「お母さん!?」
「あら、食事中だったのね。来るタイミング間違えちゃったわ。ごめんなさい」
そう言って小さく首を傾ける女性の正体。そう。死神さんのお母さんです。
「ど、どうしてお母さんがここに?」
「あなたの様子を見に来たのよ。元気にやってるかしら?」
あっけらかんとした調子で尋ねるお母さん。
おそらく傍から見れば、それはただの社交辞令。それでも、今の僕にとっては、とてつもなく答えに困る質問でした。
「…………元気……ですよ……はい」
無理矢理言葉をひねり出す僕。自然と両手に力が入るのが分かります。
否定したい気持ちはやまやまでした。死神さんがいなくなって、大切な人がいなくなって、元気でいられるわけがないのですから。それでも、嘘をつかなければならないと思いました。だって、ここで僕が「元気じゃない」と言ってしまえば、それがお母さんを通して死神さんに伝わってしまう可能性があるのですから。もしそうなったら、死神さんを悲しませるだけ。
「あらあら」
お母さんは、僕を見て苦笑いを浮かべます。
「何ですか?」
「顔に出てるわよ。『元気じゃない』って」
「……見間違いです」
僕は、急いで顔を横にそらしました。
「ふふ。あの子に心配をかけたくないってことかしら。あの子も愛されてるわねー」
どうやら、僕の考えはお母さんに筒抜けのようです。まあ予想はしてましたけどね。僕が嘘をつくのが下手というのもありますが、何より彼女はいろいろと鋭そうな人ですから。
「僕のことは別にいいんです。それよりも、死神さんは元気ですか?」
蘇るあの日の光景。死神さんの涙。死神さんとのキス。そして、『大好き』という最後の言葉。
あんな別れ方をした彼女は、今、元気に過ごしているのでしょうか。それとも……。
お母さんは、数秒黙った後、苦しそうに笑いながらこう言いました。
「元気だと思う?」
ああ。やっぱり。
気まずい空気が、僕たちの間を漂っています。お母さんの言葉、そして、表情。それは、死神さんが元気ではないということをありありと表していました。
会いたい。
死神さんに、会いたい。
今すぐにでも、会いに行きたい。
「お母さん。お願いがあります」
「…………」
「僕を、死神世界に連れて行ってください!」
僕の叫び声が、部屋中にこだましました。
「……死神世界に行って、どうするのかしら?」
突然の申し出に驚いた様子もなく、お母さんは尋ねます。
「死神さんに会うんです!」
「それで?」
「会って、それから……それから……」
「…………」
「僕に何ができるのかはわかりませんけど。とにかく、会いたいんです。死神さんに」
死神さんの元気がない。それを知って、何もしないなんて選択肢を僕は持ち合わせていないのです。
「お願いします! 死神さんに会うためなら、僕はどんなことでもします!」
僕は、お母さんに向かって深々と頭を下げました。
しんと静まり返る室内。頭を下げ続けている僕の目に、お母さんの顔は映っていません。今、彼女は、どんな表情をしているのでしょうか。何を考えているのでしょうか。僕は、体を小さく震わせながら彼女の言葉を待ちました。
「…………今、死神世界にあなたを連れていくことはできないわ。死神世界の決まりで、生きた人間を許可なしに連れてきちゃいけないってことになってるの。ちゃんと手続きをすれば大丈夫だけど、許可が下りるのはいつになるか分からない。最悪の場合、何十年後なんてことも考えられるわね」
「そんな」
「でも、一つだけ、今すぐ死神世界に行ける方法があるわ」
ドクンと大きく跳ねる僕の心臓。頭を勢いよく上げると、そこには、ほんの少しだけ口角を上げて僕を見つめるお母さん。
「何ですか!? 教えてください!?」
「あなたが死ぬことよ」
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