最愛の番に殺された獣王妃

望月 或

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4.幸せの最後

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 それからというもの、マライヤさんは何かにつけてラノウィンに話し掛けてきた。
 城から支給された艶やかなドレスと鮮やかな装飾品を身に纏い、強めの香水を振り撒きながら彼の側にいたがった。
 そんな彼女にラノウィンは無表情で対応し、すぐに離れて私のもとへとやってくる。

 その度に、私は彼女に「シャーッ!」と猫のように威嚇されそうなほど睨まれる。
 心の中で辟易しながら、私はラノウィンに肩を抱かれその場を離れるのだった……。



*・。*・。*・。*・。*・。*・。*・。



「すみません、リシー……。聖女の所為で嫌な思いをさせてしまって……。宰相や大臣に、私には必要ないから彼女を家に帰すよう再三言ってはいるのですが、この国で回復の術を使える者が彼女しかいないので、側に置いておけと聞かなくて……」


 ベッドの上で私を深く抱きしめながら、ラノウィンは申し訳なさそうに謝ってきた。いつもは勇ましくピンと立っている両耳をダランと下げて、フサフサの尻尾もダラリと垂れ下がって。


「いいのよ、レオ。気にしないで。もしもの時の為に回復の術はすぐに使えた方がいいし、それに、私は貴方の事を信じているから……」


 私はラノウィンにミドルネーム呼びを許されているのだ。
 王族にとってミドルネームは特別で、ラノウィンのその名を呼べるのは、この王国で私しかいない。
 
「勿論です。私は貴女しか愛さないし、貴女にしか触れない。貴女の全てが愛おしいから……」


 ラノウィンは私の耳元で低く囁くと、私の身体を広い胸の中に更に抱き込んだ。
 その瞬間、微かにマライヤさんの香水の香りが鼻腔をくすぐる。


「あ、香水の……」
「あぁ……すみません、近くに寄られた時に付いてしまったのでしょう。すぐに離れたのですが……。本当に、あのきつい匂いはどうにかして貰いたいものです。私の鼻がもげそうですよ」
「獣人は人間より鼻が効くものね。マライヤさんは何故平気なのかしら……」
「……リシー、貴女の香りで私を一杯にして下さいますか?」
「え? ――って、れ、レオ! 今はまだ昼間――」
「貴女を愛するのに昼も夜も朝も関係ありませんよ」
「あっ、ちょ――」
「心から愛しています、リシー……」


 ……こんな風に強引な所もあるけれど、私もラノウィンを心から愛している。
 例えマライヤさんが何度横やりを入れようとも、私達はこのまま問題なく仲良く過ごせると思っていた。


 思っていた……のに――



*・。*・。*・。*・。*・。*・。*・。



 “幸せの最後それ”は突然訪れた。

 自分の部屋で一人でいる時、突然マライヤさんが扉を乱暴に開けて入ってきたのだ。
 勢い良く扉が閉められ、間髪容れず不思議な模様のある鏡を目の前に出された瞬間、その鏡が強く光り輝き、パリンと澄んだ音を響かせ砕け散った。

 それは、本当にあっという間の出来事だった。


「……っ!?」


 眩しさに目が眩み、私は両手で目を覆って床に座り込む。
 段々と光が薄くなっていくのを感じ、私はそろそろと瞼を開き、手をどかした。


「えっ!?」


 目の前の信じられない光景に、私は思わず驚愕の声を上げる。
 何とそこには『私』が立っていたのだ。勝ち誇ったような顔つきで私を見下ろして。


「……ふ、ふふ……。あはははっ! 上手くいきましたわね!」


 声も『私』そのもので、私は呆然としながら彼女を見上げる。


「な、何で――」


 私は自分の出した声に、ヒュッと息を吞んで口を噤んだ。

 その声音は、まさしく『マライヤさん』の声だったのだ――


「……っ」


 私は咄嗟に自分の髪を掴み、横目でそれを見る。
 それは、焦げ茶色の跳ねた髪で――


「っ!?」
「ふふっ、そうですのよ。【呪術具】の力で、貴女がわたくしの姿に、わたくしが貴女の姿になったのですわ。【呪術具】はほら、見事に粉々に砕けてしまったので、もう元には戻りませんわよ?」


 床にあちこち散らばった鏡の破片を指差し、意地の悪い顔つきで私の姿になったマライヤさんが言う。


「じゅ、【呪術具】ですって……? どうしてそんな物を貴女が――」
「そんな事はどうだっていいですわ。これで、あの人の愛はわたくしだけのもの。人間で男爵家風情の小娘があの人の“番”だなんて有り得ませんのよ。同じ獣人で聖女のわたくしがあの人の“運命の相手”ですのに、あの人はわたくしを一切見ずに貴女ばかり見て……。そんなの絶対に許せませんでしたわ。それなら『貴女』になるしか方法がありませんでしたのよ。本当は下級の人間になるなんて嫌ですけど、あの人の愛を手に入れる為なら仕方ありませんわ」
「な……」
「それにわたくし、ずっと自分の顔が嫌でしたの。全然美人じゃないんですもの。髪も跳ねてるし、そばかすもあって酷い顔。今でさえ貴女の――『自分』の顔を見るのは吐き気がしますわ。さっさとわたくしの目の前から消えてもらいたいですわ!」
「…………」


 私は彼女の憎々しげに吐かれる言い分を、真っ白になり何も考えられない頭で聞いていた。
 その時、部屋の扉がノックされ、ガチャリと開かれる音がした。


「リシー、いますか?」


 ……ラノウィンだった。



 こんな……最悪のタイミングで――




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