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24.突然の別れ
しおりを挟むあの人がここから去った日、ウラン様は不在だったので、私は執事さんにその事を報告した。
執事さんはそれを聞いて軽く目を瞠った後、
「報告ありがとうございます。後はわたくしの方で対処いたしますので、リシィさんは何も気にする事はないですよ。今まで食糧配達、本当にお疲れ様でした」
と優しく微笑み、私を労ってくれた。
その後、王が怒ってエレスチャル公爵邸に乗り込んでくる――事もなく、私達は平和な日々を過ごしていた。
そんなある日、メイド長に買い物を頼まれた私とユークは町へとやって来た。
すると、町の人達が何やら騒がしい事に気付く。
その中に城の兵士が何人かいて、興奮気味の町人達と話をしていた。
「どうして国の兵士がここにいるの? 何かあったのかしら……」
「さぁな。気になるんなら町のヤツらに話聞いてみりゃいいじゃねぇか」
「うん、そうね。そうするわ」
野次馬精神がムクムクと湧き上がってきた私は頷くと、馴染みのお店に向かい、椅子に座って寛いでいる年配の店主さんに話し掛けた。
「こんにちは、店主さん」
「おや、リシィちゃんいらっしゃい。新しい商品を入荷したから見ていっておくれよ」
「はい、勿論! ところで店主さん、町の人達が何やらザワザワしているようだけど、何かあったんですか? 城の兵士も何人か見掛けたけど……」
「あぁ、それね! 何でも、この国の王様の“番”がついに見つかったらしいよ。しかもこの町でさ!」
店主さんが高揚気味にそう言った瞬間、私の頭上にいるユークの体がピクリと動いた気がした。
「え……。この町に“番”が……?」
「そうさ! ずっと捜していた王様の“番”がようやく見つかったんだ。その子に夢中になって、戦争なんていう愚かな考えを捨ててくれたらいいんだけどねぇ」
「……はい、本当に……。良い方向に向かってくれるといいですね」
“番”と聞いてツキリと胸の奥が痛んだけれど、私は笑顔を作って店主さんに頷く。
頼まれていた商品をいくつか買って店を出ると、ユークが私を呼んだ。
「……おい」
「ん? どうしたのユーク」
「アンタとはここでお別れだ。オレはオレのやるべき事をやりにいく。きっともう会う事はねぇだろうな」
突然の別離発言に、私は大きく目を見開かせる。
「えっ、何で!? どうしていきなりそんな――」
「アンタと過ごした時間、結構楽しかったぜ。飯もまぁ……美味かったよ。――じゃーな、いつまでも元気でいろよ」
ユークはそう言うと、私の頭からピョンと跳んでポフンと地面に降り、まさに脱兎の如く走っていってしまった。
町人達はものすごい速さで地面を駆けていくユークに誰も気付いていない。
きっと動く前、自分に『隠蔽の術』を掛けたのだろう。
止める暇もなかった私は、間抜けにポカンと口を開けながら佇んでいた。
やがてハッと気が付くと、ユークの走っていった方向を見る。
……胸の奥から嫌な予感が湧き上がってきて止まらなかった。
本当に、ユークにはもう二度と会えない気がしてならない――
「……そんなの……そんなの嫌よ。絶対に嫌」
だって全然、今までの感謝の気持ちを伝えていない。
ユークがいたから頑張れた――乗り越えられた部分も沢山あるのだ。
それに、向こうから一方的に別れを告げられ、私からお別れの言葉も何も言えていない。
いつかは別れる時が来ると思っていたけれど、こんな急にだなんて……そんなのはあまりにも酷過ぎる。
「……こんな別れ方、絶対に嫌。ユークを捜さなきゃ。ちゃんと顔を見てお礼とお別れを言いたいもの」
けれど、どうやって?
こんな広い土地の中で、どうやってユークを見つける?
「…………あっ」
うんうん唸りながら頭を捻っていると、ユークと再会した時に彼が言った言葉を思い出した。
『アンタの【魂】にオレの魔力が残っちまって、その影響でオレの魔術がアンタには効かなくなっちまったんだろ』
(ユークの魔力が私の中に残ってるって事は、その魔力と同じ気配を辿ればいいって事よね?)
私が王妃だった頃、教育係の先生に魔力について教えてもらったのだ。
そこで私にほんの少しだけ魔力がある事が判明した。
それならこれが出来るだろうと、先生が魔力の気配を感じ取るやり方を教えてくれたのだ。
あの時は何度やっても上手く出来ず、先生も諦めてしまったけれど、やり方は覚えている。今回も失敗に終わるかもしれない。
けれど、何事もやってみなければ成果は生まれない。
リシィは魔力を持っていないけれど、リシーファはあるから、成功すればユークの魔力の気配が感じ取れるだろう。
「……よし」
買った物を店主さんに預け、人気のない場所に移動すると、私は神経を集中させ、心を研ぎ澄ました。
(……私の中で、自分のものとは違う気配が微かにする……。これがユークの魔力……? 相変わらず不思議な気配……)
「よし、ここまでは上手く出来たわ。後はこの魔力と同じ気配を探れば……。まだ遠くには行っていないと思うのだけど……」
私は更に注力し、神経を研ぎ澄ませる。
額から次々と大粒の汗が吹き出し、地面にポタポタと染みを作っていったけれど構わなかった。
(お願い……ほんの少しでもいいから感じ取って……っ!)
強く願ったその時、町の外れからユークの魔力の気配を微かに感じた。
「っ! やった、見つけた……っ!」
私は流れる汗もそのままに駆け出し、その気配に向かって一直線に走り続ける。
息を切らしながら町の外れに到着すると、辺りをグルリと見回した。
古い家や木がポツポツと建ったそこには、誰もいないように見える――が。
再びユークの気配を辿ると、確かにこの近くにいるようだ。
深呼吸をして息を整え、彼に気付かれないようにそっと忍び足で歩く。
私を見たらすぐに逃げていきそうな気がしたのだ。
そしてとうとう、誰も住んでいなさそうな古びた家の前でユークを見つけた。人間の姿の彼はこちらに背を向けている。
ユークに近付こうと足を踏み出そうとしたけれど、慌てて動きを止める。
そして、音を出さないようソロソロと後退し、家の陰に身を隠した。
ここは彼らの死角になっていて見えないはずだ。
“彼ら”と言った訳は、ユークの前に、もう一人男性がいたのだ。
腰辺りまで伸ばした紫色の真っ直ぐな長い髪で、毛先が水色をしている。
そして、右目が紅、左が蒼色のオッドアイをしており、ユークと色が逆だ。
その上、顔はユークにそっくりで――
(もしかしなくても、この二人――)
「……会いたかったぜ、兄貴」
ユークが私の思っていた通りの事を、目の前の男性に向けて発したのだった――
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