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27.幸せの終わり ※弟視点
しおりを挟む「貴様は俺様の“番”だ。高貴で偉大な俺様の“番”に選ばれた事を大変ありがたく光栄に思えよ。じゃあさっさと城に行くぞ。グズグズするなっ!」
突然オレ達の前に現れたソイツ――コバルテリナ王国のバルター王子は、偉そうにふんぞり返りながらそう言い放った。
噂には聞いていたが、ホントに態度も図体もムダにデカいヤツだったよ。けど頭に生えてる耳と尻から出てる尻尾はすっげぇちっせぇの。
獣人だっていうから、元はイノシシか何かだろうな。
ソイツのセリフを聞いて、勿論オレ達はポカン状態さ。「何言ってんだコイツ」ってな。
それで、先に我に返ったのはティールだった。
「い、偉大なる王子殿下に御挨拶申し上げます……。あの、わたしが殿下の“番”……でしょうか?」
「あぁ、そうだ。この匂いと感情が昂る感覚は間違いない。貴様は俺様の“運命の番”だ!」
ティールは驚き固まっているクローザムを見ると、王子に向かって深く頭を下げたんだ。
「大変申し訳ございません、殿下。わたしには婚約者がおります。彼以外の人を愛する事は決してございません。“番”に囚われず、殿下はご自分の愛する御方を見つけて下さい」
王子相手にキッパリとそう断った彼女を、クローザムは泣きそうになりながら見つめてたよ。
けど、そのバカ王子は引き下がらなかった。強硬手段に出やがったんだ。
「うるさいうるさいうるさいっ!! 高貴な王子である俺様に指図するのか!? 断ると言うなら、不敬罪で捕まってもいいんだな!? あぁもう面倒だ! ――おい貴様ら! 俺様の“番”を城に連れて行け! グズグズするなっ!!」
クズ王子は後ろに立っていた近衛兵達にそう命令して、ドカドカと足を踏み鳴らしてさっさと馬車に向かいやがった。
近衛兵達は顔を見合わせ戸惑っていたが、
「……申し訳ございません。王子殿下の命令なので……。一緒に来て下さいますか?」
って、すまなそうにティールに謝ってさ。
きっと常日頃から、バカ王子の尻拭いをしてんだろうな。
ティールはどう返答したかと言うと、疲労困憊の近衛兵達の様子を見て、小さく頷いたんだ。
クローザムは驚いて、全力で彼女を止めた。
けど、彼女は譲らなかった。
「ごめんね、クロム。わたしが行かないと、この人達が罰を受けると思うの。わたしの所為でこの人達が痛い目に遭ってしまうのが嫌だから……。大丈夫、何とか王子を説得してあなたのもとへ帰ってくるから。だから待っていてくれる?」
「駄目だ、ティール! あの王子が素直に言う事を聞くはずがない! 君の御両親に相談して、国王も交えて話をした方がいい!」
「国王が王子にとことん甘い事は、国民全員が知ってるよ。あの王子に直接会って、それが本当だったって分かったでしょ? ワガママ言いたい放題じゃない。王はアテにならないよ。だから直接王子に言った方がいいと思う。わたしを信じて待っていて、クロム」
クローザムは随分と悩んだけど、ティールの熱意に負けて渋々引き下がったんだ。
そして彼女は城に行っちまった。
クローザムは彼女がいない間、ずっと塞ぎ込んでたよ。何度も城に乗り込もうとして、その度に彼女の親に止められてた。
「私達も何とかしたい気持ちは同じなんだ。けど余計な行動を起こしたら、城にいるティールに迷惑が掛かってしまう。娘を信じて、連絡が来るまで大人しく待っていてくれないか」
って言われて、クローザムは悔しそうに唇を噛んでたな。
気を紛らわす為に、オレ達の親父の仕事場で日夜【呪術具】の開発に没頭してたんだ。
ティールが城に行っちまってから半年が過ぎ、クローザムはとうとう痺れを切らしちまった。
「僕は無理矢理でもティールを連れ戻す。それで僕達は誰も追いかけて来ない、遥か遠くの国に逃げるよ。ユーク、止めないでくれよ」
オレはクローザムの決意を秘めた眼差しを見て、止める事なんて出来なかった。
「……分かった、オレも手伝うぜ。オレはお袋が好きだったこの町で魔物退治を続けるから一緒には行けねぇが、お前らは別の国で幸せになれよ。けど、オレにだけは居場所を教えてくれよ? 時々お前らを冷やかしに行くからさ」
「ユーク……! ありがとう」
ティール奪還の計画を立てて、決行を明日に控えた日の朝、とんでもない知らせがオレ達の町に届いたんだ。
『王子の“運命の番”である娘が、王子の前で自ら“毒”を飲み死亡した』
――って。
それを聞いたクローザムの表情が、スッとなくなったんだ。
無の顔……っていうの? ホント何の感情もねぇの。オレ、それを見て無意識に身体が震え上がったよ。
ティールの親に知らせを言いに来た噂好きのオバサンが色々と教えてくれてな。
「城で働いてる息子から聞いたけど、王子は癇癪を起こす度ティールちゃんに暴力を振るってたって」
「ティールちゃんは真摯に向き合おうとしてたけど、逆に罵声と暴力で返されてたって」
「王はそれに何も言わず、ティールちゃんに『息子の言う事を聞け』って命令するだけで庇いもしなかったって」
「“毒”を飲んだその日も、何か言い争ってたって」
オバサンの話を聞くにつれて、クローザムの怒りがパンパンに膨れ上がっていった。
顔は相変わらず無表情だったけど、双子であるオレには分かったんだ。
「……教えて下さってありがとうございます。少し……一人になりたいので、失礼します」
クローザムはそう言って頭を下げると、家から静かに出て行った。
オレはすぐにアイツを追い掛けたかったけど、泣いてるティールの母親とショックを受けて固まってる父親を放っておけなくてさ。
オバサンを帰らせ、彼女の両親を居間に連れて行ってあったかい飲みモン飲ませて落ち着かせた後、オレは「クローザムを探してくる」と言って家を飛び出したんだ。
行き先は分かってる。王城だ。
イヤな予感がして堪らなかった。
オレは昔からアイツの考えてる事が何となく分かった。そん時もだ。
オレの予想が間違ってなければ、アイツは――
――そして、当たって欲しくなかった予感が的中した。
城の前で血を流して絶命している門番達。
城の中もあちこちに人が倒れ、どれも息がない。壁や床に飛び散った血の鉄臭い匂いが酷く鼻についたよ。
オレは王の間に急いだ。
息が乱れて上手く呼吸が出来なかった。
辿り着くまでの間がすごく長く感じた。
王の間の扉を開けた時、オレは思わず立ち尽くしてしまった。
沢山の近衛兵や兵士達が心臓や首を突かれ息絶えている。恐らく一撃で仕留めたんだろう。
そこら中が血の海だったよ。
辺りを見回すと、王の間の中心――玉座の前に、クローザムはいた。
全身返り血で真っ赤に染まり、誰かを大事そうに腕の中に抱いている。
それは、青白い顔をして両目を瞑り、見るからに息をしていないティールだった。
クローザムの近くの床には、王と王子らしきモノが倒れていた。
二人の殺られ方は……特に王子は口に出来ねぇ。それほど惨くて、顔以外原型を留めてなかったんだ。
長時間、とんでもなく凄惨で地獄のような苦しみを味わった事は、ヤツらの苦悶と恐怖に満ちた、血と涙と鼻水と涎でグシャグシャになった顔を見たらすぐに分かった。
「――やぁ、ユーク。君も来たのかい?」
クローザムはオレに気付くと、血塗れの顔にニッコリと笑みを浮かべてそう言った――
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