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29.元凶は……
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ユークがそこで黙ってしまったので、私はそっと彼に問い掛ける。
「ユーク……?」
「……あ、あぁ。すまねぇ、ちょっとボーッとしちまった」
「大丈夫? 少し休む?」
「いや、大丈夫だ。――で、オレは未来に飛んで、アイツを見つけ出して妨害してたんだが、いつもアイツが一枚上手で阻止出来なくてさ。アイツは獣人の特性や性質を調べ上げ、まず国の王族に標的を定めた。そして、次々と“番”との仲を壊してきたんだ。恋人のいる“番”には駆け落ちを手伝いして。逆に恋人のいない“番”には、相手の獣人を嫌いになるよう仕向けたり、逃げるよう促したりしてな。それで怒り狂ったり泣き叫ぶ獣人を眺めては、それ見たことかとバカにして嗤うんだ。そしてまた次の“復讐”の為に標的を探す。その繰り返しだ。終わりのない、無意味な“復讐”だ」
「……えぇ、本当に……」
私はそこで、ユークの話を聞いてずっと気になっていた事を訊いてみた。
「ねぇ、ユーク。私が王妃だった時、聖女のマライヤさんに身体を入れ替える【呪術具】を渡したのは――」
「あぁ、クローザムだ。その聖女ってヤツを言葉巧みに誘導したんだろう。『これを使えば国王は君を必ず愛してくれる』とか何とか言ってな」
「獣人の鼻が利かなくなる香水を渡したのも……」
「クローザムだろうな。アイツの知能と技術なら、そんなの簡単に作れるだろうし」
「…………」
“元凶”はクローザムさんだった……。
だからといって、マライヤさんを赦せるわけじゃ決してないけれど。
(人の夫に手を出そうとした時点で駄目よ。絶対にしてはいけない事だわ)
「“復讐”を繰り返すうち、アイツは“番”との仲を壊す為なら人が死のうがどうなろうが構わなくなっちまった。寧ろそれを望むようになった。人が死ぬ事によって【魂】を吸収して、【呪術具】の力で未来に飛べるからな。“番”や“番”の恋人が相手の獣人を刺したり、逆もあった。その所為で国が危機に陥った事もあった。このままだと、絶対に捕まらないアイツは“復讐”をし放題だ。だから今度こそアイツを止める。終わらせてやる。必ずな」
ユークの決意を強く秘めた言葉に、私は大きく頷いた。
(ユークが饒舌になってる今なら、色々と訊ける気がするわ)
「ね、ユークは私に『憑依の術』を使ってくれたでしょ? それは私に同情したからなの?」
「……まぁ、そうだな。アンタの死はあまりにも理不尽だった。それを止められなかったオレも悪かったし」
「貴方の所為じゃないわ、気にしないで。じゃあ憑依の先が五年後だったのは、クローザムさんがそこに飛んだから?」
「あぁ。『憑依の術』と『模倣の術』を同時に使うと、オレの魔力が少し足りなくてな。アイツが未来に行く【呪術具】を使う際に発生する、莫大な燃焼力を利用し、魔力に変換した。それに引っ張られてアンタの憑依先がアイツの行き先になった」
(魔力の変換や、最上級魔術であろう二つの術を同時に使うなんて……。やっぱりユークはただ者じゃないわ……)
「ね、まだ質問いい?」
「あ? 多い。ダリぃ。メンドくせぇ」
(あ、元に戻っちゃった……残念)
「もう一つだけ許して。ユーク達は過去から来てるんでしょう? 何年前の時代から来てるの? 貴方の年齢が気になるわ」
「ったく、しょうがねぇな……。この時代から数えると、二十五年前だな。オレ達が初めて未来に飛んでから実際に二年くらい経ってるだろうから、オレは今二十五……いや、六になるのか」
「二十六っ!? 私と二歳しか変わらないじゃない! 散々ガキガキ言っといて何なのよ、もうっ!」
「二歳下なら十二分にガキだろ」
馬鹿にしたように笑いながら言われ、私はムカッとし――ついクローザムさんが言った事をぶり返してしまった。
「とか何とか言って、実はユークって私の事好きなんでしょう?」
「は……はあぁっ!? なっ、何いきなりフザケたコト言ってんだっ!?」
ユークは私の膝の上でピョンッと垂直に飛び跳ね、毛を逆立て瞳をキョロキョロさせて見事なほどに動揺している。
(あら? 予想外だわ。『誰がアンタみたいなチンチクリンを好きになるか』って鼻で嗤われるだけだと思ったのに)
「だってクローザムさんが言ってたじゃない。私の事が好きなのかって」
「誰がアンタみたいなチンチクリンを好きになるか!!」
(あら、ここで例の台詞きたわね。でも珍しく焦ってるユークを見れて満足だわ。百言文句言ってやろうと思ってたけど許してあげましょう)
「えぇ、そうよね。チンチクリンのガキなんて好きになるわけないわよね?」
「…………寝る」
「そう、寝るの――って唐突ねっ!?」
「アイツはまだ動かないだろ。今日アイツが町にいたのは、“番”がいると聞いて様子を見に来ただけだ。これから“番”の身辺調査をして“復讐”の計画を練るだろうし。時間はまだある」
ユークはボソリと言うと、私の膝の上でモフンと丸まって目を閉じてしまった。
(ユークは口数が多い方じゃないから、ずっと話してて疲れたのね)
「うん、分かったわ。おやすみなさい、ユーク。起きたら厨房を借りて貴方の好きなご飯を作るから、楽しみにしてて」
「……あぁ」
私は小さく頷いたユークを優しく撫でながら、ラノウィンの事を思い出していた。
(あの人も完全に被害者だわ。その所為で殺人者になり国を失くし、戦争の“駒”にされて……。私はクローザムさんを絶対に赦せない。けど、あんな話を聞いてしまった以上、憎む事も出来ない……。心から愛する人が“番”に選ばれてしまった所為で、彼女を失ってしまって……。“番”の制度を憎むのは分かる。けど、愛し合っている“番”同士も確かにいるから。彼のやっている事は間違ってるわ。ただの『自己満足』になってしまっている。だから彼を早く止めなければ。もう私達みたいな悲劇を生まない為にも……)
ラノウィンが遥か遠い国で平穏に暮らしている事を祈りながら、私はぷぅぷぅと眠るユークの体を静かに撫で続けたのだった……。
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