最愛の番に殺された獣王妃

望月 或

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36.夢の中で

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 ふと目を開けると、私は真っ白な空間に立っていた。
 そこにいるのは、私と……目の前にいる、薄茶色の背中まで伸びた髪と同じ色の瞳をした女性の二人だけ。
 私はその女性が誰なのか、すぐに理解した。


「貴女、リシィね? こうして顔を合わせるのは初めてね。ここは夢の中かしら?」
「はい、そうです。貴女の夢の中にお邪魔させてもらっています」
「やっぱり。あと、敬語はいらないわ。同い年だし、同じ身体にいた仲じゃない」
「……ふふっ、そうです――そうね」
「貴女とずっとお話ししたいと思っていたの。まずは身体を貸してくれてありがとうね」
「ううん、お礼なんていらないわ。寧ろこっちがお礼を言わなきゃ。メイド長――ノーラの事、本当にありがとう」
「私が勝手に腹が立ってギャフンと言わせたかっただけだから。気にしないで」


 私がそう言って首を横に振ると、リシィはフフッと微笑んだ。


「貴女がここに来たって事は……“決心”がついたのね? もう大丈夫?」
「えぇ、ありがとう。泣いたって奥に閉じ籠ったって、お母さんはもう戻ってこないから……。貴女の行動をずっと見てきて、貴女に勇気を貰ったの。私も前を向いて歩いていこうって」
「そう思う貴女の心はとても強いわ。今の貴女には、ウラン様やマリン……他のメイド達も皆味方になってくれるから。だから大丈夫。何も心配する事はないわ」
「ありがとう。それも皆、貴女のお蔭よ。私一人じゃ泣いているだけで何も出来なかった……。心から感謝しているわ。貴女さえ良ければ、ずっとこの身体の中にいて欲しい。貴女が好きな時に交代するから。貴女と一緒だととても心強いわ」


 リシィの提案に、私は静かに頭を左右に振った。


「ううん、私はこの身体を出るわ。本来は一つの身体に二つの【魂】は存在していけないのよ。この身体と人生は貴女だけのものよ、リシィ」
「……っ。でも、そうしたら貴女が――」
「心配してくれてありがとうね。私も最初は、この身体で第二の人生を……って思っていたけれど、これからの貴女の選択は、貴女自身が決めるものだから。私がいると、きっと私に頼ってしまうでしょう?」


 私の指摘に、リシィはぐっと言葉を詰まらせた。


「……えぇ、そうね……。何か少しでも困った事がある度、頼りになる貴女に甘えてしまうと思う……」
「ふふっ、でしょう? 貴女と一緒に生きていくのはきっと楽しいけれど、本来の私は既に死んでいる身。だから帰るべき場所に帰らなきゃね。この身体で過ごした時間は、とてもかけがえのないものになったわ。私も心から感謝してる。ありがとう、リシィ。貴女のこれからの幸せな未来を見守ってるわ、ずっと」
「リシーファ……」


 リシィは涙ぐむと、私の身体をそっと抱きしめた。私も彼女を抱きしめ返す。


「でも、身体を返すのはもう少し待ってくれる? 決着をつけたい人が私の祖国で待っているの。それが終わったら、必ず貴女に身体を返すから」
「……貴女の夫だった人ね? 大丈夫よ、貴女が納得するまで待ってるわ」
「ありがとう、リシィ。貴女の身体に入れた事、本当に幸運だったわ。無理はしないで元気で過ごすのよ。困った事や悩み事があれば、周りに相談するのよ。皆が助けてくれるし、もっと仲良くなれると思うわ」
「えぇ、本当にありがとう……リシーファ。私も貴女が私の中に入ってきてくれて、幸運に恵まれたと心から思うわ」


 私とリシィが笑い合った瞬間、眩い光が辺りを覆って――


 あまりの眩しさに目を閉じ、再びそっと瞼を開くと、そこはリシィの部屋だった。
 外から小鳥達の声が聞こえる。朝になったのだろう。


「ふふ、良かった……。リシィと話が出来て」


 私はベッドから起き上がると、リシィとのやり取りを反芻し――ユークの最期の笑顔を思い出す。


(そう言えば……最期にユーク、初めて私の名前を呼んでくれた……)


「ユーク、ごめんね……。貴方が生まれ変わっても、私はこの世にはいない……。生まれ変わりは前世の記憶を持っていない事が殆どだって書物で見た事があるから、きっと私の事は覚えていないはず。だから今度こそ貴方は幸せに生きてね。貴方にはその権利が十分にあるもの。貴方にとって大切な人も出来るよう、心から祈るわ……」


 知らずに零れてきた涙を腕で拭うと、私は支度を始めた。
 今日から一週間、お休みを戴いたのだ。
 メイド長は私の顔を見て何かを察したのか、何も聞かずに許可してくれた。

 私は小さなカバンを肩に下げると、部屋の扉を開いた。



「――よし、行くとしましょうか。あの人と『最後』の決着をつけに」
 


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