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39.泥棒猫の末路
しおりを挟む「それで? 聖女殿は私の妻の姿になって、何がしたかったのですか?」
ラノウィンの問い掛けにマライヤさんは俯き口を閉ざしたままだったので、代わりに私が答えてあげた。
「彼女、貴方の“愛”が欲しかったみたいなの。だから【呪術具】を使って私の姿と入れ替わったのよ」
「は? 何を馬鹿な事を……。そんな事をしても、私はリシーファしか愛しません。姿形が変わろうとも、私がこの世で最も愛する者はただ一人――リシーファだけです。他の者が入る余地など一切ありません」
恋い焦がれる本人からトドメの言葉を言われ、マライヤさんは顔面蒼白になり、両目から涙が溢れる。
そんな彼女に、ラノウィンは冷めた目線を送っただけだった。
私はと言うと、彼の直球過ぎる台詞に心中で雄叫びを上げながら悶絶していた。
「早く言いなさい。身体を元に戻す方法を」
ラノウィンはマライヤさんに冷淡な口調で言い放ったけれど、彼女はただ無言で首を横に振るだけだった。
何とか復活した私がまたもや代わりに説明する。
「【呪術具】が壊れてしまったから、もう元に戻せないらしいわ。ただ、前回は私が死ぬ直前に元に戻れたけど……」
「え? “前回”? “死ぬ直前に”……? リシーファ、貴女は――」
私に問い掛けようとしたラノウィンは、言葉を切るとふるふると首を振った。
「……いえ、それは後にしましょう。まずは貴女方の身体を元に戻します」
「え? 『戻します』ってそんな簡単に言っちゃうの? 【呪術具】が壊れたのにどうやって?」
「貴女が仰ったではないですか。亡くなる直前に元に戻れたと。なら“それ”をするまでです」
ラノウィンはそう言うと、右手に持っている彼の愛剣を、マライヤさんの左胸に躊躇なく突き刺したのだ!
「「えっ!?」」
彼の突拍子もない行動に、私とマライヤさんの驚きの声が重なる。
両目をはち切れんばかりに見開くマライヤさんの口から、ゴフッと赤い血が噴き出した。
姿は『私』なので、自分のその悲惨な姿に思わず悲鳴を上げる。
「れっ、レオッ!? ど、どうして――」
私は震える両手を口に当て、動揺しながらもラノウィンに問い質そうとした時、突如マライヤさんの身体がパァッと光った。
その光が消えた時、マライヤさんの姿は元の彼女のそれに戻っていた。
「え……っ!?」
反射的に私の身体を見ると、私の方も元の姿に戻っている。
「早く『回復の術』を使いなさい!! このまま何もせず死にたくないでしょう!? 急ぎなさいっ!!」
ラノウィンの鋭い一喝に、マライヤさんは意識が朦朧となりながらも『回復の術』を唱えた。
淡い桃色の温かな光がマライヤさんの身体を包み込み、傷を癒していく。
ラノウィンが刺した傷は完全に塞がれたようだ。
「……上手くいきましたね。リシーファが亡くなる寸前で元に戻ったというのなら、聖女でも同じ結果になるだろうと思ったのです。ですので僅かに急所をずらして刺しました。瀕死の状態になるように」
「そ、そうだったのね……。だ……だからと言って、姿は『私』だったのよ!? あんな躊躇なく刺すなんて――」
「え? 私の愛する貴女は“そこ”にいるでしょう? 姿形は関係ありませんよ」
「あ……え、えぇ……。そ、そうだけど……。そうね……」
(“中身”を見てくれていた事は嬉しいけど、『私』の姿だからほんの少しでも躊躇して欲しかったなんて……自分勝手な気持ちよね、本当……)
「それにしても、よく私の言葉をすんなり信じたわね? “前回”とか“死ぬ直前”とか何言ってんのって感じだったでしょう?」
「ははっ。正直言うと不思議に思っていますが、貴女は私に嘘は決して言いませんから。それだけで信じるに値します。だから、貴女が話したいと思った時に聞かせて下さいね」
「……レオ……。ありがとう」
ラノウィンは私に優しい微笑みを見せると、蹲るマライヤさんの方に目線を向けた。
彼女を見下ろす彼の視線は、凍える程に冷たかった。
そう……ラノウィンは、私以外の人達には女であろうと冷酷で基本無表情なのだ。
私といる時は常に上機嫌なので、お城の重鎮達が難しい案件の解決を彼に頼む場合、大体は私と一緒にいる時に頼まれる。
「貴女はこの国の王妃に危害を加え、彼女に成り代わろうとしました。そして、私に彼女を殺させようとしましたね。貴女はかなりの重罪を犯しました。死刑か、よくて終身刑でしょう」
ラノウィンの言葉に、マライヤさんは身体を大きく震わせると、私をキッと睨みつけた。
「貴女が……貴女さえいなければ、わたくしは……っ!」
私はそんな彼女に、わざとらしく大袈裟に肩を竦めた。
「私がいなくても、この人は貴女を選ばなかったわよ。人の夫を卑怯な手を使って奪おうとする泥棒猫なんてね。結局惨めな思いをするのは貴女だったでしょうね、御愁傷さま。冷たく暗く寂しい牢の中で、自分のしでかした事を一生悔やみ続けるといいわ」
「……っ!!」
マライヤさんは奥歯をギリッと噛み締めたけれど、ラノウィンの氷点下の眼差しにブルリと身体を震わせ、ガクリと項垂れてしまった。
そして、ラノウィンが呼んだ近衛兵達に意気消沈のマライヤさんは連れて行かれ、私は愛する夫に殺される事なく、事件の幕は降ろされたのだった――
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