最愛の番に殺された獣王妃

望月 或

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40.果たされた約束【完】

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 こうして私は生き延びる事に成功し、ラノウィンが暴走しなかったのでイドクレース王国も無事のまま未来を迎える事が出来た。


 マライヤさんは牢の中で事情聴取を受け、姿を入れ替える【呪術具】を誰から貰ったのか本気で分からない様子だったので、最終的に彼女単独の犯行という結論に至った。

 どうやら“行く末を渡り歩く”【呪術具】の使用者は、過去に戻っても存在が消失している状態のままのようだった。
 それは【呪術具】に『模倣の術』を使用したユークも同じ状況で。

 城下町の人達に彼の容姿を伝えて見ていないか聞いて回ったけれど、皆、口を揃えて知らない、見ていないと言った。
 あんな珍しい容姿なのに、一人でも見た者がいないのは有り得ない。

 だからユークも、この時代にはいない――


 ユークに会えない寂しさと切なさは募ったけれど、彼との“約束”がこの胸にある限り、希望を捨てず待ち続ける事を己の心に誓ったのだった。



 ふと疑問に思ったのは、クローザムさんと同じく【呪術具】を使用したラノウィンが、過去に戻ってもちゃんとそこに存在していた事だ。
 推測だけど、彼が使用した直後に死亡した事や、【呪術具】が壊れてしまった事と何か関係しているのだろうか。

 ……しかし、それに関して私は調べようとは思っていない。
 もう全て終わった事なのだから。


 その疑問は私の中で謎のまま、時間と共に少しずつ薄れていってゆくのだろう――



 マライヤさんは、王族で王妃である私に危害を加えたので通常は死罪になるのだけど、『回復の術』を使える者は希少という理由で死罪を免れた。

 その代わり生涯牢の中で暮らし、魔物退治で怪我を負った人達の治療や、孤児院に住む子供達の面倒を見たり手助けをしたりする日々を送る事になる。


 そこには彼女自身の“自由”は一切ないけれど、治療や子供達を通して、少しでも慈愛の心が芽生えてくれればと思う。



 私はというと、あれからより一層ラノウィンの溺愛ぶりが加速し、彼の重過ぎる愛情を受けながら王妃としての日々を過ごしている。

 そして二年後、私は子宝を授かり、“母”となった。


 その子は男の子で、髪の色は私と同じ水色で、毛先が少し黒色掛かっていて。
 瞳の色は右目が黄金色、左目が青緑色のオッドアイで。
 頭にはラノウィンと同じ形の、小さな水色の耳がぴょこんと生えていて。

 私はこの子を見た瞬間、涙が溢れて止まらなかった。


「ユーク……私をちゃんと見つけてくれたのね。“約束”を果たしてくれたのね。ありがとう……ありがとうね、ユーク。また会えて嬉しいわ」


 私は流れる涙はそのままで微笑むと、元気良く泣いている愛しい我が子をそっと抱きしめたのだった――



。:+*.゜。:+*.゜。:+*.゜。:+*.゜。:+*.゜



 ユークが産まれてから三年後、私はラノウィンに我が儘を言い、息抜きと称して隣国のエクロジャ王国へ身分を隠して家族旅行に行った。

 その国の王は他国に戦争を仕掛けようとしていたけれど、探していた王の“番”が見つかり、彼女と過ごしているうちに彼はすっかり骨抜き状態になったのだそう。

 その彼女が一言、「戦争はただ悲劇を生むだけだから止めなさい!」と叱り飛ばしたら、王はすんなりとそれを受け入れ平和は維持されたそうだ。
 彼女と王は、周りが砂を吐くくらい仲睦まじく過ごしているらしい。

 町の人達の表情も皆明るく、この国はこれからも安泰に栄えていくだろう。


(リュシカさん、良かった……。いつまでも幸せにね)


 もう一つ気になっていた事があった私は、ラノウィンにお願いしてエレスチャル公爵領にも寄ってもらった。
 活気のある町を歩いていると、前から見知った二人が歩いてくるのが目に入った。
 ウラン様とリシィだ。


(あ……!)


 二人の真ん中には、薄茶色の肩まで伸ばした髪と、同じ色の瞳をした四十代位の女性がいた。
 その女性は、リシィと顔つきが似ていて。

 彼女がきっと、リシィの母親であるユーディアさんだろう。


 私はリシィの日記から、ノーラがユーディアさんに毒を飲ませ始めた時期を推測して、エレスチャル公爵家に極秘に使いを出したのだ。
 そして、ウラン様に直接手紙を渡すように伝えた。


『メイド長と料理長が共謀してユーディアさんの食事に毒を混ぜて殺害しようとしている。二人の部屋を徹底的に調べて欲しい。特に料理長の部屋の鍵がついた机の引き出しが怪しいと思う。ユーディアさんとリシィの為に、この手紙の内容を信じてくれる事を切に願う』


 そう、匿名で便箋に書いて。
 その後、ウラン様は動いてくれたのだろう。そしてユーディアさん毒殺を未然に防ぐ事が出来た。

 だから今、こうしてユーディアさんは生きて、愛する人達と笑い合いながら一緒にいる――
 
 三人は本当の親子のように寄り添い、楽しそうにお喋りしながらお店の中に入って行く。


(ウラン様とリシィ、心から楽しそうに笑っていたわ。ユーディアさんも……。上手くいって本当に良かった。皆、どうかお幸せにね)


 三人の背中を見送りながら感慨に浸って涙ぐんでいると、手を繋いでいるユークが私を見上げ、ニコリと笑って言った。


「おかーさん、すごくうれしそう。みんな幸せでよかったね」
「え?」


 まるで心を見透かされたかのような言葉に、私はドキリとする。
 ユークには前世の記憶はないはずだ。

 この子は赤ちゃんの頃から、自ら子犬になって私の頭に乗りたがった。
 そっと頭の上に乗せると、ユークは安心したようにモフリと水色の体を委ね、そのままスースーと眠ってしまっていた。
 私もついクセで、この子を頭に乗せたまま普通にお城の中を歩いたりしていたので、皆からクスリと笑われ、面白がられていたのだ。

 そんな事もあって、彼が三歳になった時、試しに訊いてみたのだ。


「ねぇユーク。私の事覚えてる?」


 するとユークはキョトンとし、小首を傾げ頭の両耳をピコピコさせた。


「なんのこと? おかーさんはおかーさんでしょ?」


 それを聞いて、私はやっぱり覚えていないわよね、と少しだけ寂しい気持ちになった。
 私の頭に乗りたがるのは、前世のユークの名残りが残っていて、無意識に出てしまっているのだろう。

 けれどユークは私を見つけてくれて、私の子供として産まれて約束を守ってくれたのだ。


 改めて、私はこの子に“母”として沢山の幸せをあげようと心に決めたのだった。



。:+*.゜。:+*.゜。:+*.゜。:+*.゜。:+*.゜



 それから三年後にユークが望んでいた弟が出来、私達家族は幸せな日々を過ごしていた。
 ……そう……幸せに過ごしているのだけれど、ただ一つ困った点があって。

 ユークの母離れが全然出来ないのだ。

 もうすぐ八歳になるのに、ずっと私にひっついている。どこに行くにも付いてくる。
 見兼ねたラノウィンがユークに注意しても、彼はどこ吹く風で。


「ほら、父さん仕事たまってんだろ? 早く行かなきゃ宰相達にどやされるぜ。その間オレが母さんをつきっきりで守るから心配すんなよ」
「ぐ……」


 こんな風にユークは自分の父でさえも言い負かして、ラノウィンは何度も息子に敗北をしていた。


 勉強も剣のお稽古も「めんどくさー」と言いながらもしっかりやって、弟の面倒もよく見てくれるとても良い子なのだけど。
 私の料理を食べたがって、作ってあげると美味しそうに頬張りながら平らげる姿はまだまだ子供で、とても可愛いのだけれど。

 顔は父親似で心做しか前世のユークにも似て、母目線でなくても顔立ちが整って格好良く、女の子達にモテモテで次々と遊びに誘われるのに。


「母さんの手伝いをするから」
「母さんの傍にいたいから」


 そう言って誘いを全て断り、ニコニコ顔で耳をピンと立て尻尾をブンブン振り回しながら私のもとへとやってくる。

 流石にこのままでは駄目だと思い、後ろから勢い良く抱きついてきたユークに、


「こら、ユーク! お母さんのお尻ばっかり追いかけていないで、他の女の子のお尻を追っかけなさい!」


 そうビシッと言ってやった。
 言った後に何故か既視感を覚え、私は首を斜めに傾げる。


(……あら? この台詞、どこかで聞いたような……?)


 ユークはそれを聞いて軽く目を見開いた後、プハッと吹き出し、



「やーだね! オレは母さんとずっと一緒にいるんだ。母さんが断ろうがイヤだって言おうが絶対離れてやんねぇ!」



 と、私に抱きつきながら、太陽のような眩しい笑顔を顔一杯に浮かべて言ったのだった――






Fin.






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