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04 国民目線
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最初は歓喜だった。
七本の聖樹がすべて浄化されたという報せが届いたとき、わたしたちは皆、鐘を鳴らし、歌を歌い、踊り明かした。瘴気に覆われていた森は再び緑を取り戻し、畑には豊かな実りが約束された。
そして聖女様。ユラリ様は、ついに王子殿下と結ばれたのだ。
城下の広場では無数の花が蒔かれ、人々は「救世の聖女」と声を枯らして叫んだ。誰もが信じていた。これで未来は安泰だと。
けれど、違っていた。
最初の噂は貴族の屋敷から聞こえてきた。
「侯爵家の奥方が、七か月目で子を亡くされたらしい」と。
続いて隣家の鍛冶屋の妻も、流産した。
「健康な体だったのに」「あれほど待ち望んでいたのに」
皆が顔を見合わせ、不安げにささやいた。
だが、そのうちに気づいた。
これは偶然ではない。
王族であれ、貴族であれ、庶民であれ、誰一人として子を抱けなくなったのだ。
産声が聞こえなくなり、町から赤子の泣き声が消えた。
それどころか、すでに腹に宿っていた命さえ、次々と奪われていった。葬列は絶えず、白布に包まれた小さな亡骸が並んだ。
母たちは声を枯らして泣き、父たちは拳を握りしめた。だが誰も怒りの矛先を向けることはできなかった。
なぜなら、この国を救ったのは、その聖女様だからだ。
次第に人々の間で囁きが広がった。
「これは呪いではないのか」
「聖女様が、怒っておられるのだ」
「聖女様の国では結婚相手は一人だけらしい」
第二妃を迎えた王子殿下。
祝福されるお二人を、冷ややかに見つめていた聖女様の姿を、誰かが思い出した。
その噂は炎のように広がった。
けれど誰も表立って口にはできない。もし聖女様を非難すれば、残されたわずかな希望すら失うのではないか?そんな恐怖が、皆の喉を塞いだ。
街には子供の姿が消えた。うるさくて楽しくて可愛い声が聞こえない。
祭りの日の広場は閑散とした。
「家を継ぐ者がいない」と嘆く商人。
「畑を任せられる子がいない」と涙を流す農夫。
「孫の顔を見ずに逝くのか」と肩を落とす老人。
笑い声も、歌声も、次第に薄れていった。
この国は、静かな沈黙に包まれていった。
一年たち、二年たち‥‥‥
人々は数えることをやめた。
結婚式は行われても、そこに未来はない。
親の墓の前に立つのは老いた子ばかり。新しい命は一つも生まれず、町の通りに子供の声がしなくなった。
それでもなお、わたしたちは祈る。
「どうか、再び命が芽吹きますように」と。
だが心の奥底では皆、気づいている。
これは、聖女様の祈りによるものなのだと。
だからこそ、わたしたちは矛先を向けられない。
この国を救ったのも、滅ぼすのも、同じ人なのだから。
広場の片隅で、誰かが小さな声で呟いた。
「もし、あの日、王子殿下が聖女様を裏切らなければ」
だがその言葉は風にさらわれ、誰も続きを語ろうとはしなかった。
今日もまた、沈黙の国に、鐘の音だけが虚しく響く。
七本の聖樹がすべて浄化されたという報せが届いたとき、わたしたちは皆、鐘を鳴らし、歌を歌い、踊り明かした。瘴気に覆われていた森は再び緑を取り戻し、畑には豊かな実りが約束された。
そして聖女様。ユラリ様は、ついに王子殿下と結ばれたのだ。
城下の広場では無数の花が蒔かれ、人々は「救世の聖女」と声を枯らして叫んだ。誰もが信じていた。これで未来は安泰だと。
けれど、違っていた。
最初の噂は貴族の屋敷から聞こえてきた。
「侯爵家の奥方が、七か月目で子を亡くされたらしい」と。
続いて隣家の鍛冶屋の妻も、流産した。
「健康な体だったのに」「あれほど待ち望んでいたのに」
皆が顔を見合わせ、不安げにささやいた。
だが、そのうちに気づいた。
これは偶然ではない。
王族であれ、貴族であれ、庶民であれ、誰一人として子を抱けなくなったのだ。
産声が聞こえなくなり、町から赤子の泣き声が消えた。
それどころか、すでに腹に宿っていた命さえ、次々と奪われていった。葬列は絶えず、白布に包まれた小さな亡骸が並んだ。
母たちは声を枯らして泣き、父たちは拳を握りしめた。だが誰も怒りの矛先を向けることはできなかった。
なぜなら、この国を救ったのは、その聖女様だからだ。
次第に人々の間で囁きが広がった。
「これは呪いではないのか」
「聖女様が、怒っておられるのだ」
「聖女様の国では結婚相手は一人だけらしい」
第二妃を迎えた王子殿下。
祝福されるお二人を、冷ややかに見つめていた聖女様の姿を、誰かが思い出した。
その噂は炎のように広がった。
けれど誰も表立って口にはできない。もし聖女様を非難すれば、残されたわずかな希望すら失うのではないか?そんな恐怖が、皆の喉を塞いだ。
街には子供の姿が消えた。うるさくて楽しくて可愛い声が聞こえない。
祭りの日の広場は閑散とした。
「家を継ぐ者がいない」と嘆く商人。
「畑を任せられる子がいない」と涙を流す農夫。
「孫の顔を見ずに逝くのか」と肩を落とす老人。
笑い声も、歌声も、次第に薄れていった。
この国は、静かな沈黙に包まれていった。
一年たち、二年たち‥‥‥
人々は数えることをやめた。
結婚式は行われても、そこに未来はない。
親の墓の前に立つのは老いた子ばかり。新しい命は一つも生まれず、町の通りに子供の声がしなくなった。
それでもなお、わたしたちは祈る。
「どうか、再び命が芽吹きますように」と。
だが心の奥底では皆、気づいている。
これは、聖女様の祈りによるものなのだと。
だからこそ、わたしたちは矛先を向けられない。
この国を救ったのも、滅ぼすのも、同じ人なのだから。
広場の片隅で、誰かが小さな声で呟いた。
「もし、あの日、王子殿下が聖女様を裏切らなければ」
だがその言葉は風にさらわれ、誰も続きを語ろうとはしなかった。
今日もまた、沈黙の国に、鐘の音だけが虚しく響く。
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