幼なじみの王子には、既に婚約者がいまして

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悪役令嬢にだった私は聖女になった、そして今では違う。

前世の記憶を多少は思い出したものの、あの時とはもう違うのだ。

私は私で、マリーベル・ラ・イディアなんだもの。

「ねぇ、お母様...................これからあの方にお会いしても大丈夫かしら...................?」

「ええ。ただ、決して一人で会ってはいけませんよ?」

「はい!」

そうして私は一人あの場所へ向かったのだ。




* * *

馬窓から外を見ていた私の視界にはとても大きな噴水と、その中央にある噴泉が映った。

その噴泉はこの国の象徴で、王と王妃に挨拶する時には必ずこの国の人々はこの噴泉の前で礼をするらしい。

私もそれに倣って馬車から降りて礼をすると、目の前には私が今まで見た中でも一番大きな王城があった。

「ラシード王子殿下の婚約者選定パーティーの会場もここだったのよ」

「そうなのですか?」

お父様の言葉に私は思わず顔を上げた。

あのパーティー会場はこの王城だったのか。

「お父様はその方に会われましたの?」

「もちろん。といっても遠目からしか見たことがないけどね」

お父様はラシード王子の母である王妃殿下の専属執事であり、ずっと昔から懇意にしていたと聞いている。

そのお陰なのか、お父様は王と王妃にも覚えがよく、よく王城に出入りしているらしい。

そして今回も、王城に出向いて仕事をするらしい。

「ではラシード殿下と会うかもしれないですね」

あのパーティーの時はまだ10歳で可愛らしい印象があったけど....................今はどんな風になっていらっしゃるのかしら。

「今日はラシード殿下もお見えになっているそうだから、もしかしたら会うかもしれないね」

「でしたら……私のことを覚えてくださってるかしら?」

すると、お父様は少し考えたあと、笑顔で口を開いた。

「覚えていると思いますよ。あの年頃の子供は親以上に敏感ですからね」

……それはどういう意味なのだろうか。

* * *

(この先にいらっしゃるのがラシード王子と……その婚約者様?)

挨拶を終えた私とお父様は会場に入ると、会場の中を見回した。

このパーティーは国中の貴族が集まるからなのか、会場はとても広い。

「ねぇ、マリー?あの方がラシード殿下の婚約者様よ」

そういってお母様が示した先には白いドレスを纏った美しい金髪の女性がいた。

(まぁ……なんてお綺麗な方……)

そんなことを考えていると、ラシード王子とその婚約者様が私の方へ歩いてきた。

「父上!」

(あら?私のことを紹介するつもりかしら……)

いや、違うか。だって彼は私のことを見たこともないといったのだから。私はそう思って隣を見上げると、お父様も少し驚いていた。

「ラシード、今日は挨拶回りはしないのでは?」

「そうなのですが……ただ、父上に紹介したい者がいるのです」

そんなやり取りのあと、ラシード王子が私を前に出した。

(えっ……なに?どういうことかしら?)

私は訳がわからず戸惑ってしまう。するとラシード王子は私の手を握った。

「マリーベル嬢、こちらが私の婚約者であるリリアナ・ランドロフです!」

え!?婚約者様って女性の方だったの!? 私は驚いて、もう一度ラシード王子が紹介する婚約者様を見た。

確かにお綺麗な方だけど……よく見れば女性にしか見えないわね……。

「そして、こちらがマリーベル嬢です」

私がリリアナ様のあまりの美貌に驚愕していると、今度は私の紹介までし始めたのだ。

(えっ……私も紹介されるの?)

なんてこった!と内心焦りながらも、私は慌てて淑女らしく礼をする。そんな私を見てラシード王子は満足そうに笑った。

(……うん、美少年だわ)

近くで見ると、ラシード王子は美しい顔立ちをしていた。

だけど私が驚いたのはその顔立ちだけではなく、ラシード王子から発せられる魔力だった。

彼もきっと私と同じなのだろう。だけど私は今までこんなに綺麗な魔力を持った人に出会ったことがなかったのだ。

(こんなに綺麗な魔力を秘めていらっしゃるなんて……将来が楽しみね)

でも、まだ幼いからそんなに多くの魔力は感じないけれど……きっと成長すれば彼は凄い魔法使いになるんじゃないかしら?

これから待ち受ける出来事にわくわくと胸を馳せながら、私は微笑みを浮かべた。
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