【完結】その少年は硝子の魔術士

鏑木 うりこ

文字の大きさ
34 / 117

34 リトさん メイド目線

しおりを挟む
 リトさんが割れたグラスを全部くださって言うのです。何故でしょう?


 その時、血の気が全部引いてその場にかくんと膝をついたメイドのアリーナは不思議なリトの行動を見ていた。

 アリーナが10日ほど前から面倒を見ている見習いメイドのミミーはとにかく落ち着きがない。あっちで植木鉢を割り、こっちで皿を割る。やる気はあるのだけれども、やる事が雑で周りに気を配る事が出来ないので全て空回り。
 そんなだから、他のお屋敷でやらかして借金まみれになり、ギアナ様に助けられてこのお屋敷にやってきた、そんな娘だった。



 それがまさか。このお屋敷で1.2を争う高額の食器を全部割ってしまうとは。弁償してもしきれない値段なのに!
 キラキラと光を照り返す、ガラスのグラスは本当に美しく、高いんです!

「あわ……あわわわ……!ごめんなさいぃ……!」

 謝って済む問題ではないのです。物凄い破砕音に屋敷の人達が集まってきました。

「うわっ!」「えっ?!嘘でしょ?!」「あれって旦那様のご自慢の……?」「あれはやばいって!」

「え……ええ……?」

 ミミーも高い物を壊してしまったという自覚はあるのでしょうけれど、まさかそこまでとは思っていないんでしょう……。
 私達が20年いいえ、一生かかっても払い切れないほど高価なものだとは……。

「何事ですか!?」

 執事さんも現れて、壊れたグラスを見て真っ青です。それでも

「……怪我はありませんか?」

 そう聞いてきてくださる。このお屋敷の人は優しい。それでも執事さんの顔色は悪いし、声は震えている。

「……怪我はないです……申し訳、ございません……」

 私はとにかく立ち上がって、深く深く頭を下げます。それしかできることがないからです。
 茫然するミミーに声をかけます。

「ミミー、まず何をすべきなの?」

 はっとして激しく頭を下げる。

「怪我はないですっっ!あの!あの!申し訳っございませんでしたっっ!!!あのっ!私!!弁償を「ミミー!」」

 思わず遮ってしまった。簡単に弁償なんて口にして良い金額じゃない。

「ミミー!これは私達が何十年かかっても払える額の物ではないのよ……」

 言わない方が良いとは思ってはいたけれども、口から出てしまった。ミミーの青い顔が白くなり、ガタガタと震え始めます。
 完全に前のお屋敷で作った弁償金額を簡単に超えました……。

「ひ、ひえ……」

 どんなに後悔しても割れたグラスは戻らない。

「流石にこれはご主人様に報告せねばならないですな。アリーナ、ミミー……行きましょう……」

「はい……」

「分かりました……」

 全員がこの世の終わりの顔をする。それでもご主人のギアナ様は許してくださるでしょう。そういうお方だ。でもその優しさがとても痛い。
 あの方の為に働きたいのに、あの方をがっかりさせる事しかできないなんて。自分で自分を許せない。

「この壊れたガラス、全部下さい」

 まだ包帯が痛々しいリトさんが、壊れたグラスを全部箱に入れて持っていってしまいました。

 リトさんは本当に美しい男の子で、少し前に拾われて来た人です。死にかけていたけれど、なんとか助かった運の良い方でした。
 とても感じのいい子なんですが、とにかくギアナ様のお気に入り。仕事以外との時、ギアナ様はずっとリトさんについて歩いていて、ギョッと振り返ってしまいます。
 凄い執着みたいな物を感じますが、リトさんはまるで気にしていないみたいで、楽しそうにギアナ様とお喋りをしているのが幸いです。
 そして最近あの嫌らしいギアナ様の元つがいの兎女を撃退出来たのもリトさんのおかげらしいんです。本当にありがとう、リトさん! 

 しかもどうやらギアナ様はリトさんに結婚を申し込んだとか?!屋敷の全員は結婚式に行く気満々ですからね!

 ってリトさんは話題が尽きない人なのですが、リトさんはアレをどうするつもりなんでしょうか?

 とにかく私達は最初にギアナ様に謝りに行かねばなりません。

「怪我はないか?ならば仕方がない。形ある物はいつか壊れるのだから」

 やはりギアナさまは許して下さいました。ほっと旨を撫で下ろすミミー。しかし、許してくださっていいレベルを超えた物でした。
 許されて心が痛いのはとても辛いことです。これなら怒鳴られた方が良かった!ため息しかこぼれません……。

「そういえばリトさんが壊れたグラスを持ってどこかに行ったんですが何処に行かれたんでしょう?」

「リトが?」

 ギアナ様はグラスより、リトさんの行方が気になるようです。


 ギアナ様も一緒に一階へ降りるとすぐにリトさんの居場所が分かりました。お庭の隅で何かやっています。

「何をされてるんですか?」

「分からん。でも壊れたガラスを溶かしたようだよ」

 私達より先に、リトさんをみていた仲間に聞いてみると、そんな答えが帰ってきました。

 小さくて真っ赤な何か。その中にグラスの破片を全て入れてしまったそうです。リトさんは手を振って、何もない所から棒を取り出します。なんです、あれ??

「……リトはアイテムボックス持ちなのか」
 
 驚いてギアナ様が声を上げました。え?アイテムボックスって伝説級に珍しいスキルですよね?なにもないのに、色々しまっておけるって言う……。リトさん、可愛い上に凄いスキルも持ってるなんて凄いです。

 そんな周りの様子にリトさんはまるで気付いていないらしく、棒を突っ込むとくるくる回しています。

「リトさん楽しそうですね」

「ああ」

 見ているだけで、何か楽しい空気が伝わって来るようです。しかし

「あっ!」

 カラン!リトさんは持っていた棒を落としました。茫然と落とした棒ではなく、自分の左手を見ています。

 リトさんの左手はまだ包帯が巻かれています。拾われて来た時に、すでになかった手のパーツ。
 悔しそうに見て、そしてもう一度棒を拾いあげました。

カラン!

 リトさんは何度も何度も棒を落とします。その度に左手を見て、ため息をつき……また握りました。

 見ているみんなも固唾を飲んで見守っています。昼前から、始まったリトさんの作業はずっと続いています。
 リトさんは何度も何度も道具を落とし、失敗しましたが、やめようとしません。
 いつのまにか日は傾き、辺りは暗くなって来ました。高い温度で溶けているガラスの熱と灯りで作業していることに、リトさんは気がついているのでしょうか?

「サンドイッチです」

「ああ、いただこう」

 ギアナ様はずっと見ていますので、軽食を持って来たり飲み物を持って来たりしました。
 手の空いた人は皆んな見ていて、交代交代で見守っています。


「んんーーー!できた!」

 何時間もかけてリトさんは美しいグラスを1つ作り上げました。遠くから見ても前のグラスより、美しく繊細な薄さが見ても取れます。

「……なんだ、アレは。あんなの見た事ねぇぞ」

 ギアナ様が唸り声を上げました。確かに素晴らしい逸品のようです。

「アレに比べたらうちにあったグラスなんておもちゃ同然じゃないか……リトは……リトは一体何者なんだ?」

 リトさんは、今度はコツを掴んだのか残り9個をさっと作ってしまいます。あり得ないくらい早いし、形が綺麗に揃っています。

 そ、そういう物なんでしょうか?

「まるで……魔法だな」

 キラキラと輝く目でギアナ様はリトさんを見ています。楽しそうに、グラスを作るリトさん。
 最後に残った真っ赤なガラスを取り出して、鼻歌混じりに何かを作り始めました。それは手のひらに乗るほどの可愛い虎です。そしてなにやら話をしていたと思うとその透明な虎は白くなってしまいました。

 リトさん、それは獣化したギアナ様でしょう?私には判りますよ!

 出来栄えを目の前にかざして、楽しそうに笑うリトさんはとても良い笑顔でした。

 とうとう我慢しきれなくなったギアナ様がリトさんに後ろから近づきます。リトさんは何を語るかとても気になりますが、ギアナ様にお任せするとしましょう!




しおりを挟む
感想 50

あなたにおすすめの小説

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新! Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新! プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

異世界転移した元コンビニ店長は、獣人騎士様に嫁入りする夢は……見ない!

めがねあざらし
BL
過労死→異世界転移→体液ヒーラー⁈ 社畜すぎて魂が擦り減っていたコンビニ店長・蓮は、女神の凡ミスで異世界送りに。 もらった能力は“全言語理解”と“回復力”! ……ただし、回復スキルの発動条件は「体液経由」です⁈ キスで癒す? 舐めて治す? そんなの変態じゃん! 出会ったのは、狼耳の超絶無骨な騎士・ロナルドと、豹耳騎士・ルース。 最初は“保護対象”だったのに、気づけば戦場の最前線⁈ 攻めも受けも騒がしい異世界で、蓮の安眠と尊厳は守れるのか⁉ -------------------- ※現在同時掲載中の「捨てられΩ、癒しの異能で獣人将軍に囲われてます!?」の元ネタです。出しちゃった!

妹を救うためにヒロインを口説いたら、王子に求愛されました。

藤原遊
BL
乙女ゲームの悪役令息に転生したアラン。 妹リリィが「悪役令嬢として断罪される」未来を変えるため、 彼は決意する――ヒロインを先に口説けば、妹は破滅しない、と。 だがその“奇行”を見ていた王太子シリウスが、 なぜかアラン本人に興味を持ち始める。 「君は、なぜそこまで必死なんだ?」 「妹のためです!」 ……噛み合わないはずの会話が、少しずつ心を動かしていく。 妹は完璧令嬢、でも内心は隠れ腐女子。 ヒロインは巻き込まれて腐女子覚醒。 そして王子と悪役令息は、誰も知らない“仮面の恋”へ――。 断罪回避から始まる勘違い転生BL×宮廷ラブストーリー。 誰も不幸にならない、偽りと真実のハッピーエンド。

身代わりにされた少年は、冷徹騎士に溺愛される

秋津むぎ
BL
第13回BL大賞奨励賞頂きました! 最終17位でした!応援ありがとうございます! あらすじ 魔力がなく、義母達に疎まれながらも必死に生きる少年アシェ。 ある日、義兄が騎士団長ヴァルドの徽章を盗んだ罪をアシェに押し付け、身代わりにされてしまう。 死を覚悟した彼の姿を見て、冷徹な騎士ヴァルドは――? 傷ついた少年と騎士の、温かい溺愛物語。

過労死転生した公務員、魔力がないだけで辺境に追放されたので、忠犬騎士と知識チートでざまぁしながら領地経営はじめます

水凪しおん
BL
過労死した元公務員の俺が転生したのは、魔法と剣が存在する異世界の、どうしようもない貧乏貴族の三男だった。 家族からは能無しと蔑まれ、与えられたのは「ゴミ捨て場」と揶揄される荒れ果てた辺境の領地。これは、事実上の追放だ。 絶望的な状況の中、俺に付き従ったのは、無口で無骨だが、その瞳に確かな忠誠を宿す一人の護衛騎士だけだった。 「大丈夫だ。俺がいる」 彼の言葉を胸に、俺は決意する。公務員として培った知識と経験、そして持ち前のしぶとさで、この最悪な領地を最高の楽園に変えてみせると。 これは、不遇な貴族と忠実な騎士が織りなす、絶望の淵から始まる領地改革ファンタジー。そして、固い絆で結ばれた二人が、やがて王国を揺るがす運命に立ち向かう物語。 無能と罵った家族に、見て見ぬふりをした者たちに、最高の「ざまぁ」をお見舞いしてやろうじゃないか!

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。 ----------------------------------------- 0時,6時,12時,18時に2話ずつ更新

処理中です...