【完結】その少年は硝子の魔術士

鏑木 うりこ

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海へ

50 リトを食べないで!

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「ふぅふぅ……」

 俺は一生懸命歩く。ジュールが確かに負担にはなっているが、やっぱり置いていく気にはなれない。
 背中からスゥスゥと聞こえてくる寝息が弟たちを思い出して可愛く思うんだ。

「あ……」

 急勾配の坂道に出た。これはジュールを背負ったままじゃ無理だ。

「少し休も」

 ゆっくりジュールを下ろすとスヤスヤ眠っていた。子供らしい顔だけど、耳の後ろに飾りびれがあったり、良く見ると指の間に水掻きみたいのがあったり……子供なのに体温は高くない。

「俺、人魚の子供って初めて見たかも」

 大して変わらないものなんだなぁ。まだ子供っぽいほっぺたをつつくとふにふにしている。

「さて!起こしてこの坂道登らなきゃ!」

 ジュールを揺すろうと思った時、上の方から大きな音が聞こえて来た。

「あ!」

 それは獣の叫び声だ。大型の肉食獣の雄叫びがトンネル内に響き渡る。
 分かる!分かるよ!俺を呼んでる!

「ギアナさまーーー!俺はここですーーー!」

「きゅっ?!」

 びっくりしてジュールが飛び起きるほどの大声で、俺は答えた。

「リト?!」

 目を白黒させるジュールの頭を撫でながらにっこり笑った。

「俺の……俺の……旦那様が迎えに来たんだ」

 へへっ!なんだか恥ずかしいや!本人がいないから言えるんだけどね!

 崖の上を見ていると、すぐに真っ白な影が飛び出して来た。

「ギアナさまーーうおっ?!」

 ぽーんと空中に飛んだと思うと、ほぼ俺の真上に着地して押し倒された。猫科特有のザラザラした舌でベロンベロンに舐めまわされる。

「リト?!」

 真横で見ていたジュールは青ざめた。何せ多分ジュールの目には俺が巨大な虎に襲われているようにしか見えないはずだ。

「うわーーー!リトを!リトを食べないでーーーー!」

 果敢にも突撃してきたジュールは、一瞥もしなかったが、的確に振り回された太い尻尾に弾かれゴロンと後ろに転がった。

「ギア、ギアナ様!やめて、やめてーくすぐったいですーー!」

 もうどこもここも舐めまわされて酷い。顔はもちろん、肌がでている所は全て、首回りは勿論、転がって上着がくれた上がった腹まで舐めまわされた。

「だ!大丈夫!大丈夫ですって!怪我なんてしてませんから!くすぐったいってば!やんっ!」

 肩からざっくりされた傷跡までベロベロに舐め回される。痛くないって教えたのにー!もう!

「やめて!やめてくださいってば!もう!猫の子供じゃないんだから、首を噛もうとしないで!」

 親猫にぷらーんとぶら下げられて運ばれる子猫の映像が頭を過ぎる。俺はもう歩けますから!

「リトーー!リトがーー!うわあああーーーん!」

 ゴロン!泣いていても容赦なく尻尾一つでひっくり返されて遠くへ転がされた。

「ほんと!ちょっと!話を聞いて!ギアナさま!ねえ、ねぇってば!」

 鋭い前脚の爪に引っ掛かったのか、着ていたシャツとズボンがボロボロだよ!もう!大丈夫!怪我してないってば!
 俺の全身を確認するまでやめない気かな!もう!

「も、もう!もう分かりました!好きに確認してください!俺は怪我なんてしてません!」

 抵抗を止めてごろりと寝そべった!どこも痛くないんだからねっ!

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