【完結】その少年は硝子の魔術士

鏑木 うりこ

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家族

67 王太子の受難

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 リトが無事に王都に着いたと手紙があった。私は謝らねばならない。私のせいで一生残る怪我をさせてしまったようなものだ。責任をとっても良いと思っている。 
 もし、リトが硝子職人としての能力を失っていたとしても、私の妃として迎えても良いと思っている。
 容姿の良さはさることながら、血筋も悪くないのだ。

「しかし……特別許可証はさておきとしても」

 許可証を求めるギアナと言う男は、リトを保護して、ウィシュバーグまで連れて来てくれた命の恩人らしい。南のバチュール国で商人をしていたと言う。ならばウィシュバーグの特別許可証を欲しがっても不思議ではないのだが……。

「お預けしていた物をお返し願いたい、とはなんのことだろうか?」

 このリト到着の手紙の前についていた手紙に書いてある。私は愛用のリトが作った見事なガラスのティーカップを傾けてお茶を飲みながら考えたが、何の事か分からなかった。

「王都のルシリア伯のタウンハウスへ行く」

 仕事を片付けて、護衛と共にルシリア邸に馬車を走らせた。



「こ、こんにちは。お久しぶりです……エイムド様」

 久しぶりに見たリトはますます美しさに磨きがかかっていた。そのうち光出すのかもしれないな。左手はぐるぐると包帯で巻かれていて、遠目に見ても……指が足りない。なんともならなかったのだろう。

 それにしてもそんなリトの隣に当然と言わん顔で立っている背の高い獣人は何者なのだ?!リトもリトでその獣人の服の袖をきゅっと掴んでいる。

「ああ、無事で良かったリト。手は……」

 リトは悲しそうに目を伏せて、首を振った。

「そうか……私のせいですまない事をした」

「いいえ、エイムド様のせいではありませんから」

 そう言うが私のせいだろう。私が指輪を贈ったから、それを取ろうとしたと聞いた。何故かそんな考えに至ったかは意味が分からないが。

「しかし」

 何か責任を取らねば気が済まない。

「もう、その話はよしましょう。リトは望んでいない」

 背の高い獣人はリトの肩を抱いている。距離が近すぎじゃないか……?しかもリトも嫌がっていないのが、更に気にかかる。
 仕方がない。聞くしかあるまい。

「リト、そちらの方は?」

「あ!ご紹介が遅れました、この人はギアナ……「リト、様はもう止めよう」「あ、はい!」俺の命の恩人です」

 ギアナ、特別許可証を欲しいと言っていた者だな。リトの命の恩人なら、出してやらねばならないだろう。

「私はウィシュバーグ国のエイムド・ウィシュバーグ。リトを助けて貰い感謝する」

「いいえ、当然の事をしたまでです」

 人好きのする笑顔を向けられるが、何だろうか、この薄ら寒さ。このギアナと言う男、底が見えない。私の持つ物を全て根こそぎ奪って行きそうな、そんな気配がする。

「リトを送るついでにこちらまで足を伸ばしまして。すると王都の発展は素晴らしい!私の商人としての心が震えました。ぜひ、この国で商売を始めてみたい!そう、思いまして!」

 よく通る声が耳障り良く響く。この声を聞くだけで信じたくなる。王都の褒め、屈託のない笑顔。商人だと言う何も嘘のない態度。

 私はこの男が心底恐ろしく、大嫌いだ。本能がそう告げたが、王太子と言う立場上、歓迎するしかない。 
 そしてリトの命の恩人。

「貴方がギアナ殿か。特別許可証の件はしかと承った。すぐには出来ぬが早めに作らせよう」

「それを聞いて安心致しました。よろしくお願いします」

 笑顔の裏の黒さが濃くなる。この男、何を考えているのか。

「良かったですね!ギアナ様」

「ああ!リトの分も欲しい所だがな?」

 仲良さげに笑い合う。なんだ、リトの分も寄越せと言うのか?リトに何故必要なんだ?

「リトの……分も作ろう」

「ありがとうございます」

 何を企んでいる?

「ではお約束頂けた所で、ウィシュバーグの王太子よ、お預けした物を受け取りたいのですが、本日はお持ちでなかったようですね?」

「私は何も預かってはおらぬと思うが、ギアナ殿、何の事だろうか?」

 白い虎耳の獣人は牙をちらりとみせながら、豪快に笑った。

「ははは!これは異な事を!貴方様はたくさんお持ちになったと聞きましたよ?リトから。……リトの工房から、たくさんの作品を」

「……確かに、色々いただいて帰ったが、リトは全てくれると言ったぞ?」

 間違いない、リトは私に譲るといった。それでも目の前の虎の目は鋭すぎる。

「まさかとは思いますが、一国の王太子ともあろうものが……物の価値を知るものが、「上げる」と言われて「はい、どうもありがとう」で済ますのですか……?」

なんだと……?

「出会った頃のリトは自分の作る作品の価値をあまりにも理解していなかった!価値を知るものが見れば素晴らしい物であるのに……リト、アレを出してくれ」

「はい」

 にっこり笑ってリトは鞄から、1組のティーカップと受け皿を取り出した。

「まあ!可愛いらしい」

 美しい曲線で作られたガラスのティーカップは取手のところが鳥の長い首を象っていて、カップ自体に鳥の体……白く翼の意匠が施してある。
 リトの母親、リリーはそのカップを大切に持ち上げて見ていた。

「あらあら!上手になったのね、リト」

「ほう!凄い細工だな」

 サマル・ルシリア伯爵も初めて見たのか興味深げに覗き込んでいた。

「リトは素晴らしい職人の手を持っている。私であればこのカップを100万以上で売ってくる。そんなリトの作品を

 金か!!
 
 恐ろしい青い瞳が、獲物を捕らえたとばかりに、私を見つめていた。魂から毟り取られる感覚がして、寒気が止まらなかった。



 
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