17 / 33
17 ユーティアの両親とは
しおりを挟む
チャールズ・ラング侯爵と言う人物の社交界での位置は「グラフの末の娘の夫」だった。
ユーティアの父であるチャールズはラング侯爵家の三男として生まれた。跡継ぎの長男、そのスペアの次男がいる中、甘やかされ適度に放置されて育ったチャールズは努力する訳でもなく、生まれ持った才能も乏しいが、自尊心は高かった。
そんなチャールズが6歳の時に貴族達の子供による交流パーティに出席した。そのパーティはとても盛大で華やかなものであった。何せ国の王子達や少し大きくなっていても高位貴族の子供達が軒並み出席するものだったからだ。
何故か婚約者が決まっていない子供達が溢れているこの社交界で、チャールズは気色ばんだ。
「私が私の家よりも高位のご令嬢のハートを射止めて見せます!」
チャールズの容姿は特に優れているわけではない。むしろ普通よりぽっちゃり目の甘やかされて育ったのが目に見えている姿であったが、
「チャールズは可愛いわ!」
と、母親や乳母、メイド達にちやほやされて育ち、外の世界を知らないチャールズは自信満々だった。そして出かけた交流パーティの場で、驚くしかなかった。キラキラと輝くような令嬢達、すっと引き締まりマナーも完璧な紳士たち。
「こ、こんにちは!わ、わた……わたし、わたし……」
「……行きましょう」
上手に喋る事が出来ない。話しかけても皆素通りしてしまう。チャールズはぽつんと立っているしかなかった。
その時、どこかの令嬢が遅れて入場してきたのか、会場が突然ざわめき出した。
「来たぞ、グラフの末の娘だ。必ず射止めろ!」
「はい!父上ッ」
男の子たちは走り出す勢いでその令嬢に向って行った。最初に王子達に取り囲まれ、そして公爵家の息子達……それから侯爵……チャールズ達の順番が回ってくる。
「チャールズも行くのよ」
興奮気味に話す母親……恐怖を感じながら近づくととても大したことがない令嬢がいた。聞けば伯爵家の娘だそうで……顔も髪の色も素朴な女の子だった。ただ、緑の瞳はキラキラとしていてそれだけが美しいと感じた。
「ラング家三男チャールズです」
ただ、それだけを言ってチャールズはさっさとその令嬢から離れた。だって興味がなかったからだ。自分より低い爵位、美しくもない容貌。どれもチャールズが望んだ女性とはかけ離れていたから。
熱心にその令嬢に言葉を囁く同世代たちから離れ、早く帰ろうと母親に訴える。
「チャ、チャールズ!貴方、グラフの末の娘なのよ……まあ、でもしょうがないわね、帰りましょうか」
母親は最初から期待はしていなかった。だから、早めに交流パーティを後にしたのだが、後日やってきた書状に目を丸くして父親と一緒に踊り狂った。
「でかした!でかしたぞ!!チャールズ!お前の婚約者が決まった!お前の婚約者がグラフの末の娘だ!」
「……お断りしてください……」
「バカを言うな!!グラフの末の娘だぞ!!!これで我が家は安泰だ!!うわーーーーーはっはっはっは!」
「チャールズ素晴らしいわ!もうラング家は繁栄が決まったようなものよ!やったわあああああ!」
何故、両親がこんなに喜んでいるのかその時のチャールズには分からなかった。グラフの末の娘、あの地味な娘が自分の婚約者かと思うと気が滅入ってしまうのだ。
「致し方ありません。チャールズがグラフの末の娘に選ばれたのならば」
ラング家の跡継ぎは長男からチャールズに変わった。そして両親の溺愛は加速し、チャールズは何でも買って貰えたし、自由に振る舞う事ができた。ただ、月1回の婚約者とのお茶会は嫌で嫌で仕方がなかった。
「……いらっしゃい、ユリアデット」
「おまねきいただきありがとうございます、チャールズ様」
二人の間に会話はほとんどない。どちらかがどちらかの家に行き、1時間ほどお茶を飲み帰ってゆく。子供らしく遊ぼうという事もなく、街へ行こうという事もない。ただ、静かに座っているだけだ。座っている事も出来ないのかチャールズはどこかに抜け出し、ユリアデットを放っておくことも珍しくなかった。
それでも二人は婚約を続ける。婚約を解消など絶対にチャールズの両親はいう事はなかったし、ユリアデットは自分の事を「グラフの末の娘」ではなく「ユリアデット」と名前で呼んでくれるチャールズの事を好きだったからだ。
産まれた時から「グラフの末の娘」と呼ばれ続けたユリアデットは自分に取り入ろうとする人たちにもううんざりしていた。誰もユリアデットを見てくれない。見ているのは「グラフの指輪」と「その主人のグラフの末の娘」だけだったから。
だからチャールズの素っ気ない態度は、ユリアデットの心に大きく残ったし、放置されたり、適当な扱いも嬉しかった。ユリアデットは静かを好むタイプで、本を読んでいるのが好きなのでチャールズが放っておいてくれるのは苦にもならない。それよりも興味のないおしゃれの話や流行を絶え間なく話しかけられてくる方が苦痛だった。
心が通っていなくても、奇妙なつり合いを取って二人は成長し、そして結婚した。チャールズはとにかく「グラフの末の娘」を逃がしてはならないと言われ続け、ユリアデットはチャールズが取る微妙な距離を心地よく思った。
そうして産まれたのが娘のユーティアだったのである。
ユーティアの父であるチャールズはラング侯爵家の三男として生まれた。跡継ぎの長男、そのスペアの次男がいる中、甘やかされ適度に放置されて育ったチャールズは努力する訳でもなく、生まれ持った才能も乏しいが、自尊心は高かった。
そんなチャールズが6歳の時に貴族達の子供による交流パーティに出席した。そのパーティはとても盛大で華やかなものであった。何せ国の王子達や少し大きくなっていても高位貴族の子供達が軒並み出席するものだったからだ。
何故か婚約者が決まっていない子供達が溢れているこの社交界で、チャールズは気色ばんだ。
「私が私の家よりも高位のご令嬢のハートを射止めて見せます!」
チャールズの容姿は特に優れているわけではない。むしろ普通よりぽっちゃり目の甘やかされて育ったのが目に見えている姿であったが、
「チャールズは可愛いわ!」
と、母親や乳母、メイド達にちやほやされて育ち、外の世界を知らないチャールズは自信満々だった。そして出かけた交流パーティの場で、驚くしかなかった。キラキラと輝くような令嬢達、すっと引き締まりマナーも完璧な紳士たち。
「こ、こんにちは!わ、わた……わたし、わたし……」
「……行きましょう」
上手に喋る事が出来ない。話しかけても皆素通りしてしまう。チャールズはぽつんと立っているしかなかった。
その時、どこかの令嬢が遅れて入場してきたのか、会場が突然ざわめき出した。
「来たぞ、グラフの末の娘だ。必ず射止めろ!」
「はい!父上ッ」
男の子たちは走り出す勢いでその令嬢に向って行った。最初に王子達に取り囲まれ、そして公爵家の息子達……それから侯爵……チャールズ達の順番が回ってくる。
「チャールズも行くのよ」
興奮気味に話す母親……恐怖を感じながら近づくととても大したことがない令嬢がいた。聞けば伯爵家の娘だそうで……顔も髪の色も素朴な女の子だった。ただ、緑の瞳はキラキラとしていてそれだけが美しいと感じた。
「ラング家三男チャールズです」
ただ、それだけを言ってチャールズはさっさとその令嬢から離れた。だって興味がなかったからだ。自分より低い爵位、美しくもない容貌。どれもチャールズが望んだ女性とはかけ離れていたから。
熱心にその令嬢に言葉を囁く同世代たちから離れ、早く帰ろうと母親に訴える。
「チャ、チャールズ!貴方、グラフの末の娘なのよ……まあ、でもしょうがないわね、帰りましょうか」
母親は最初から期待はしていなかった。だから、早めに交流パーティを後にしたのだが、後日やってきた書状に目を丸くして父親と一緒に踊り狂った。
「でかした!でかしたぞ!!チャールズ!お前の婚約者が決まった!お前の婚約者がグラフの末の娘だ!」
「……お断りしてください……」
「バカを言うな!!グラフの末の娘だぞ!!!これで我が家は安泰だ!!うわーーーーーはっはっはっは!」
「チャールズ素晴らしいわ!もうラング家は繁栄が決まったようなものよ!やったわあああああ!」
何故、両親がこんなに喜んでいるのかその時のチャールズには分からなかった。グラフの末の娘、あの地味な娘が自分の婚約者かと思うと気が滅入ってしまうのだ。
「致し方ありません。チャールズがグラフの末の娘に選ばれたのならば」
ラング家の跡継ぎは長男からチャールズに変わった。そして両親の溺愛は加速し、チャールズは何でも買って貰えたし、自由に振る舞う事ができた。ただ、月1回の婚約者とのお茶会は嫌で嫌で仕方がなかった。
「……いらっしゃい、ユリアデット」
「おまねきいただきありがとうございます、チャールズ様」
二人の間に会話はほとんどない。どちらかがどちらかの家に行き、1時間ほどお茶を飲み帰ってゆく。子供らしく遊ぼうという事もなく、街へ行こうという事もない。ただ、静かに座っているだけだ。座っている事も出来ないのかチャールズはどこかに抜け出し、ユリアデットを放っておくことも珍しくなかった。
それでも二人は婚約を続ける。婚約を解消など絶対にチャールズの両親はいう事はなかったし、ユリアデットは自分の事を「グラフの末の娘」ではなく「ユリアデット」と名前で呼んでくれるチャールズの事を好きだったからだ。
産まれた時から「グラフの末の娘」と呼ばれ続けたユリアデットは自分に取り入ろうとする人たちにもううんざりしていた。誰もユリアデットを見てくれない。見ているのは「グラフの指輪」と「その主人のグラフの末の娘」だけだったから。
だからチャールズの素っ気ない態度は、ユリアデットの心に大きく残ったし、放置されたり、適当な扱いも嬉しかった。ユリアデットは静かを好むタイプで、本を読んでいるのが好きなのでチャールズが放っておいてくれるのは苦にもならない。それよりも興味のないおしゃれの話や流行を絶え間なく話しかけられてくる方が苦痛だった。
心が通っていなくても、奇妙なつり合いを取って二人は成長し、そして結婚した。チャールズはとにかく「グラフの末の娘」を逃がしてはならないと言われ続け、ユリアデットはチャールズが取る微妙な距離を心地よく思った。
そうして産まれたのが娘のユーティアだったのである。
163
あなたにおすすめの小説
【本編完結】ただの平凡令嬢なので、姉に婚約者を取られました。
138ネコ@書籍化&コミカライズしました
ファンタジー
「誰にも出来ないような事は求めないから、せめて人並みになってくれ」
お父様にそう言われ、平凡になるためにたゆまぬ努力をしたつもりです。
賢者様が使ったとされる神級魔法を会得し、復活した魔王をかつての勇者様のように倒し、領民に慕われた名領主のように領地を治めました。
誰にも出来ないような事は、私には出来ません。私に出来るのは、誰かがやれる事を平凡に努めてきただけ。
そんな平凡な私だから、非凡な姉に婚約者を奪われてしまうのは、仕方がない事なのです。
諦めきれない私は、せめて平凡なりに仕返しをしてみようと思います。
乙女ゲームの悪役令嬢の兄の婚約者に転生しましたが傷物になったので退場を希望します!
ユウ
恋愛
平凡な伯爵令嬢のリネットは優しい婚約者と妹と穏やかで幸福な日々を送っていた。
相手は公爵家の嫡男であり第一王子殿下の側近で覚えもめでたく社交界の憧れの漆黒の騎士と呼ばれる貴族令息だった。
結婚式前夜、婚約者の妹に会いに学園に向かったが、そこで事件が起きる。
現在学園で騒動を起こしている第二王子とその友人達に勘違いから暴行を受け階段から落ちてしまう…
その時に前世の記憶を取り戻すのだった…
「悪役令嬢の兄の婚約者って…」
なんとも微妙なポジション。
しかも結婚前夜で傷物になる失態を犯してしまったリネットは婚約解消を望むのだが、悪役令嬢の義妹が王子に婚約破棄を突きつける事件に発展してしまう。
善人ぶった姉に奪われ続けてきましたが、逃げた先で溺愛されて私のスキルで領地は豊作です
しろこねこ
ファンタジー
「あなたのためを思って」という一見優しい伯爵家の姉ジュリナに虐げられている妹セリナ。醜いセリナの言うことを家族は誰も聞いてくれない。そんな中、唯一差別しない家庭教師に貴族子女にははしたないとされる魔法を教わるが、親切ぶってセリナを孤立させる姉。植物魔法に目覚めたセリナはペット?のヴィリオをともに家を出て南の辺境を目指す。
妹のために犠牲になることを姉だから仕方ないで片付けないでください。
木山楽斗
恋愛
妹のリオーラは、幼い頃は病弱であった。両親はそんな妹を心配して、いつも甘やかしていた。
それはリオーラが健康体になってからも、続いていた。お医者様の言葉も聞かず、リオーラは病弱であると思い込んでいるのだ。
リオーラは、姉である私のことを侮っていた。
彼女は両親にわがままを言い、犠牲になるのはいつも私だった。妹はいつしか、私を苦しめることに重きを置くようになっていたのだ。
ある時私は、妹のわがままによって舞踏会に無理な日程で参加することになった。
そこで私は、クロード殿下と出会う。彼との出会いは、私の現状を変えていくことになるのだった。
えっ「可愛いだけの無能な妹」って私のことですか?~自業自得で追放されたお姉様が戻ってきました。この人ぜんぜん反省してないんですけど~
村咲
恋愛
ずっと、国のために尽くしてきた。聖女として、王太子の婚約者として、ただ一人でこの国にはびこる瘴気を浄化してきた。
だけど国の人々も婚約者も、私ではなく妹を選んだ。瘴気を浄化する力もない、可愛いだけの無能な妹を。
私がいなくなればこの国は瘴気に覆いつくされ、荒れ果てた不毛の地となるとも知らず。
……と思い込む、国外追放されたお姉様が戻ってきた。
しかも、なにを血迷ったか隣国の皇子なんてものまで引き連れて。
えっ、私が王太子殿下や国の人たちを誘惑した? 嘘でお姉様の悪評を立てた?
いやいや、悪評が立ったのも追放されたのも、全部あなたの自業自得ですからね?
【完結】猫を被ってる妹に悪役令嬢を押し付けられたお陰で人生180度変わりました。
本田ゆき
恋愛
「お姉様、可愛い妹のお願いです。」
そう妹のユーリに乗せられ、私はまんまと悪役令嬢として世に名前を覚えられ、終いには屋敷を追放されてしまった。
しかし、自由の身になった私に怖いものなんて何もない!
もともと好きでもない男と結婚なんてしたくなかったし堅苦しい屋敷も好きでなかった私にとってそれは幸運なことだった!?
※小説家になろうとカクヨムでも掲載しています。
3月20日
HOTランキング8位!?
何だか沢山の人に見て頂いたみたいでありがとうございます!!
感想あんまり返せてないですがちゃんと読んでます!
ありがとうございます!
3月21日
HOTランキング5位人気ランキング4位……
イッタイ ナニガ オコッテンダ……
ありがとうございます!!
甘やかされた欲しがり妹は~私の婚約者を奪おうとした妹が思わぬ展開に!
柚屋志宇
恋愛
「お姉様の婚約者ちょうだい!」欲しがり妹ルビーは、ついにサフィールの婚約者を欲しがった。
サフィールはコランダム子爵家の跡継ぎだったが、妹ルビーを溺愛する両親は、婚約者も跡継ぎの座もサフィールから奪いルビーに与えると言い出した。
サフィールは絶望したが、婚約者アルマンディンの助けでこの問題は国王に奏上され、サフィールとルビーの立場は大きく変わる。
※小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。
★2025/11/22:HOTランキング1位ありがとうございます。
婚約者を譲れと姉に「お願い」されました。代わりに軍人侯爵との結婚を押し付けられましたが、私は形だけの妻のようです。
ナナカ
恋愛
メリオス伯爵の次女エレナは、幼い頃から姉アルチーナに振り回されてきた。そんな姉に婚約者ロエルを譲れと言われる。さらに自分の代わりに結婚しろとまで言い出した。結婚相手は貴族たちが成り上がりと侮蔑する軍人侯爵。伯爵家との縁組が目的だからか、エレナに入れ替わった結婚も承諾する。
こうして、ほとんど顔を合わせることない別居生活が始まった。冷め切った関係になるかと思われたが、年の離れた侯爵はエレナに丁寧に接してくれるし、意外に優しい人。エレナも数少ない会話の機会が楽しみになっていく。
(本編、番外編、完結しました)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる