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16話 一生ついていきます(エルネスティーネ視点)
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今日のお茶会で、エデルガルト殿下やハウルと、楽しくおしゃべりした後、移動魔法で私は屋敷に戻った。
「エルネスティーネ様、お帰りなさいませ。旦那様がお呼びです」
私の顔を見るなり家令にそう告げられ、父の執務室に向かう。
今日の業務報告をしろということだろう。
長い廊下を進んだ先に父の執務室はある。扉の前に立ち深呼吸をしてからノックをした。
「エルネスティーネです」
「入れ」
父の執務室は誰もいないみたいに見えるが何人かの影がいる。父は娘だから、家族だからといっても信用していない。二人きりで会い、危害を加えられると困るので、いつも影を配している。
「ティーネ、エデルガルト殿下はどうだ?」
「清廉潔白なお方です。あのお方はラインハルト殿下の妃となり、いずれ我が国の王妃となるべき方だと思います」
「そうか。では、引き続きエデルガルト殿下についていなさい」
「承知いたしました」
頭を下げ、執務室を出た。
私は代々この国の宰相を務めているダウム公爵家の長女だ。
ダウム公爵家は何代か前の王弟が王家を支える為に起こした家で、表向きは宰相の家であるが、裏の顔はこの国の汚れごとを全て引き受ける暗部を取り仕切っている。
ダウム家に生まれたものは生まれてすぐに適正検査を受ける。家に必要な者は残し、暗部の駒になるように鍛えられる。そして、必要でない者は排除される。
私には奇特な魔法の力があった。そのおかげで生きてはいる。
残された者には、もの心がつくあたりから暗部のものとして生きる訓練が始まる。しかしその訓練は過酷だった。それに耐えられず脱落する者も多い。
訓練中に何度、こんな訓練をしなければならないのなら、最初から排除されていたほうが良かったと思ったことか。
私は訓練をやり抜き、やらねばやられるというダウム思想を植え付けられ、すっかり人間兵器と化した。
私には兄弟がいるが同じ父母なのは嫡男の兄だけだ。あとは腹違いや種違い、そして分家筋からの養子。駒はひとりでも多い方がいいので、子供はたくさんいる。
もちろん母も暗部の駒のひとりであり、父母に愛はない。母は宰相夫人という任務を遂行しているに過ぎない。
次期当主、次期宰相としての表の顔と暗部の総裁としての裏の顔を両方継がなくてはならない兄は、父以上に恐ろしい逸材らしい。
私達兄弟は一応兄弟ではあるが、皆それぞれに任務があるので会うことはほとんどない。
こんな家に生まれてしまったので、仕方がないと諦めてはいるが、本音は愛し愛される人と結ばれ、平凡な暮らしがしたい。誰も信じられないような暮らしは嫌なのだ。
暗部から足を洗いたい。死ぬまでこんな中で生きるなんて嫌だ。しかし、そんな望みは叶うわけもない。私はダウム家の娘なのだ。
エデルガルト殿下はバウムガルテン王国の王女で、暗殺された先の女王の生まれ変わりだという。先の女王は我が国の第2王子であったライムント殿下の婚約者だった。
他国の者であれば生まれ変わりなど簡単には信じられないだろうが、魔法大国、クラウベルク王国の高位貴族であれば、生まれ変わりは普通にあると皆思っている。なぜなら魔法で転生させることができるからだ。
その魔法は難しく、それを使える魔導士はそれほどいない。それに魔法で生まれ変わらせてもらうには多額の報酬は必要だ。それゆえ、そう簡単に使う者はいない。
国王陛下達はエデルガルトが生まれ変わったのは、ライムント殿下が魔法をかけたと思っているようだ。
ライムント殿下は死に際に自分とエデルガルトが転生するように魔法をかけたのだろうと。
それは今まではライムント殿下の生まれ変わりであるラインハルト殿下に前世の記憶がなかったので、定かではなかったが、記憶が戻ったので、これからわかることだと思う。
エデルガルト殿下が生まれ変わりとわかり、我が国に来たことで、国王と宰相である父は、次期王太子でライムント殿下の生まれ変わりでもあるラインハルト殿下の妃としたいらしい。エデルガルト殿下の魔力と加護が欲しいのだろう。
心の中を読む魔法、そして精神を拘束し操る魔法がつかえる私はエデルガルト殿下の護衛と見極めを命じられた。私の任務はエデルガルト殿下の内面を見ること。そして、妃に相応しい人物ならラインハルト殿下とうまくいくようにすることだった。もちろん守ることは言うまでもない。
エデルガルト殿下の心の中は、私には綺麗過ぎた。心の中に悪意や汚いものが何もない。こんな人を見たことが無かった。
そして父達が睨んだ通り、エデルガルト殿下には全ての悪意の魔法を無効化するチカラがあった。精神拘束魔法など全く効かない。これは魔法というより守護だろう。そのほかにも神のギフトをたくさんもらっている。やはり生まれ変わっているだけあって神の守護が厚いのだと思う。
私は潜入したお茶会でエデルガルト殿下と仲良くなった。
同じ時間を過ごすうちに、任務とは関係なくひとりのただの人間として殿下と友達になりたいと思った。そして守りたいと思った。
この人は信用できる。心を読んだ時に、そんなことなどする必要のない人だと分かった。親兄弟ですら信用できない世界で生きている私には初めての心の底から信用できる人に出会った。
あのお茶会の時、エデルガルト殿下に私のことをカミングアウトしたくなり、秘密を打ち明けた。
ドン引きされ、軽蔑されるかもしれないと思ったが、エデルガルト殿下に嘘はつきたくなかった。
しかし、私の予想とは全く違った。私は突然殿下に抱きしめられた。
「ティーネ、辛かったでしょう。普通の女の子になりたいよね。そんな家に生まれなきゃ、そんな体質でなければ普通に結婚して穏やかな毎日が過ごせたのに」
なんでわかるの? あなたも心が読めるの?
そんなこと忘れていたわ。願っても願っても叶わない夢なんて忘れた方が楽だ。心の奥深く押し込んで蓋をしていたのに、なぜわかったのだろう。
私はエデルガルト殿下に一生ついて行こう。そう思った。
精神拘束魔法が得意の私がすっかり天然の魅了の魔法にかかってしまったようだ。
そして、ラインハルト殿下やハウル殿下も私と同じで、エデルガルト殿下に魅了されているようだ。
やはり、ハウル殿下には悪いがラインハルト殿下の妃になってもらいたい。もしくはハウル殿下が国王になるかだな。
どちらになってもかまわない。私はエデルガルト殿下を王妃にする。そして一生傍で仕える。
これから私はエデルガルト殿下のために生きる。
私の生きる目的は決まった。
「エルネスティーネ様、お帰りなさいませ。旦那様がお呼びです」
私の顔を見るなり家令にそう告げられ、父の執務室に向かう。
今日の業務報告をしろということだろう。
長い廊下を進んだ先に父の執務室はある。扉の前に立ち深呼吸をしてからノックをした。
「エルネスティーネです」
「入れ」
父の執務室は誰もいないみたいに見えるが何人かの影がいる。父は娘だから、家族だからといっても信用していない。二人きりで会い、危害を加えられると困るので、いつも影を配している。
「ティーネ、エデルガルト殿下はどうだ?」
「清廉潔白なお方です。あのお方はラインハルト殿下の妃となり、いずれ我が国の王妃となるべき方だと思います」
「そうか。では、引き続きエデルガルト殿下についていなさい」
「承知いたしました」
頭を下げ、執務室を出た。
私は代々この国の宰相を務めているダウム公爵家の長女だ。
ダウム公爵家は何代か前の王弟が王家を支える為に起こした家で、表向きは宰相の家であるが、裏の顔はこの国の汚れごとを全て引き受ける暗部を取り仕切っている。
ダウム家に生まれたものは生まれてすぐに適正検査を受ける。家に必要な者は残し、暗部の駒になるように鍛えられる。そして、必要でない者は排除される。
私には奇特な魔法の力があった。そのおかげで生きてはいる。
残された者には、もの心がつくあたりから暗部のものとして生きる訓練が始まる。しかしその訓練は過酷だった。それに耐えられず脱落する者も多い。
訓練中に何度、こんな訓練をしなければならないのなら、最初から排除されていたほうが良かったと思ったことか。
私は訓練をやり抜き、やらねばやられるというダウム思想を植え付けられ、すっかり人間兵器と化した。
私には兄弟がいるが同じ父母なのは嫡男の兄だけだ。あとは腹違いや種違い、そして分家筋からの養子。駒はひとりでも多い方がいいので、子供はたくさんいる。
もちろん母も暗部の駒のひとりであり、父母に愛はない。母は宰相夫人という任務を遂行しているに過ぎない。
次期当主、次期宰相としての表の顔と暗部の総裁としての裏の顔を両方継がなくてはならない兄は、父以上に恐ろしい逸材らしい。
私達兄弟は一応兄弟ではあるが、皆それぞれに任務があるので会うことはほとんどない。
こんな家に生まれてしまったので、仕方がないと諦めてはいるが、本音は愛し愛される人と結ばれ、平凡な暮らしがしたい。誰も信じられないような暮らしは嫌なのだ。
暗部から足を洗いたい。死ぬまでこんな中で生きるなんて嫌だ。しかし、そんな望みは叶うわけもない。私はダウム家の娘なのだ。
エデルガルト殿下はバウムガルテン王国の王女で、暗殺された先の女王の生まれ変わりだという。先の女王は我が国の第2王子であったライムント殿下の婚約者だった。
他国の者であれば生まれ変わりなど簡単には信じられないだろうが、魔法大国、クラウベルク王国の高位貴族であれば、生まれ変わりは普通にあると皆思っている。なぜなら魔法で転生させることができるからだ。
その魔法は難しく、それを使える魔導士はそれほどいない。それに魔法で生まれ変わらせてもらうには多額の報酬は必要だ。それゆえ、そう簡単に使う者はいない。
国王陛下達はエデルガルトが生まれ変わったのは、ライムント殿下が魔法をかけたと思っているようだ。
ライムント殿下は死に際に自分とエデルガルトが転生するように魔法をかけたのだろうと。
それは今まではライムント殿下の生まれ変わりであるラインハルト殿下に前世の記憶がなかったので、定かではなかったが、記憶が戻ったので、これからわかることだと思う。
エデルガルト殿下が生まれ変わりとわかり、我が国に来たことで、国王と宰相である父は、次期王太子でライムント殿下の生まれ変わりでもあるラインハルト殿下の妃としたいらしい。エデルガルト殿下の魔力と加護が欲しいのだろう。
心の中を読む魔法、そして精神を拘束し操る魔法がつかえる私はエデルガルト殿下の護衛と見極めを命じられた。私の任務はエデルガルト殿下の内面を見ること。そして、妃に相応しい人物ならラインハルト殿下とうまくいくようにすることだった。もちろん守ることは言うまでもない。
エデルガルト殿下の心の中は、私には綺麗過ぎた。心の中に悪意や汚いものが何もない。こんな人を見たことが無かった。
そして父達が睨んだ通り、エデルガルト殿下には全ての悪意の魔法を無効化するチカラがあった。精神拘束魔法など全く効かない。これは魔法というより守護だろう。そのほかにも神のギフトをたくさんもらっている。やはり生まれ変わっているだけあって神の守護が厚いのだと思う。
私は潜入したお茶会でエデルガルト殿下と仲良くなった。
同じ時間を過ごすうちに、任務とは関係なくひとりのただの人間として殿下と友達になりたいと思った。そして守りたいと思った。
この人は信用できる。心を読んだ時に、そんなことなどする必要のない人だと分かった。親兄弟ですら信用できない世界で生きている私には初めての心の底から信用できる人に出会った。
あのお茶会の時、エデルガルト殿下に私のことをカミングアウトしたくなり、秘密を打ち明けた。
ドン引きされ、軽蔑されるかもしれないと思ったが、エデルガルト殿下に嘘はつきたくなかった。
しかし、私の予想とは全く違った。私は突然殿下に抱きしめられた。
「ティーネ、辛かったでしょう。普通の女の子になりたいよね。そんな家に生まれなきゃ、そんな体質でなければ普通に結婚して穏やかな毎日が過ごせたのに」
なんでわかるの? あなたも心が読めるの?
そんなこと忘れていたわ。願っても願っても叶わない夢なんて忘れた方が楽だ。心の奥深く押し込んで蓋をしていたのに、なぜわかったのだろう。
私はエデルガルト殿下に一生ついて行こう。そう思った。
精神拘束魔法が得意の私がすっかり天然の魅了の魔法にかかってしまったようだ。
そして、ラインハルト殿下やハウル殿下も私と同じで、エデルガルト殿下に魅了されているようだ。
やはり、ハウル殿下には悪いがラインハルト殿下の妃になってもらいたい。もしくはハウル殿下が国王になるかだな。
どちらになってもかまわない。私はエデルガルト殿下を王妃にする。そして一生傍で仕える。
これから私はエデルガルト殿下のために生きる。
私の生きる目的は決まった。
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