敵国に嫁いだ姫騎士は王弟の愛に溶かされる

今泉 香耶

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プロローグ

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 エレイン・ミレイ・ガリアナは、ガリアナ王国の第一王女だった女性だ。今日、彼女は隣国のマリエン王国の若き新国王、アルフォンス・リード・マリエンと結婚をした。当然ながら、今晩は初夜と呼ばれるものとなる。

 初夜といっても、最初は「これはほぼ契約結婚のようなものだし『そういうこと』はしないのだろう」と高を括っていた。しかし、聞けばマリエン王国のならわしで、初夜は寝室の外で臣下が控えており、営みが正常に行われているのかを確認するという話。しかも、それを聞いたのは湯あみを終え、夜の支度を整えてからのことだった。

 まさか、ことを終えた後に夫となったアルフォンスが「つつがなく終わった」と臣下たちに解散を促さなければいけないなんて。そうは思ったものの、決まっていることならば仕方がない……と彼女は堪えた。彼女は余計なことはぐだぐだと悩まないという長所を持っている。が、こんなことに発揮をしたくなかった。先に言って欲しかった。いや、先に聞いていたとしても、どうなるものでもないのだが。

 どうやら、アルフォンスは既に女性との夜の営みの経験はあるらしい。一方のエレインは、まったくない。彼女は幼少期、王女ではなく王子として育てられた上に剣まで持ち、そのせいで先日までマリエン王国との戦争でも前線に立っていた。よって「そういうこと」については、男性の兵士たちのおかげで色々と耳にはしてきた。だが、それだけだ。

 仕方なく、彼女はそれを隠すことも卑下することもなく、素直に「初めてなのです」とアルフォンスに伝えた。

「エレイン」

 ベッドに並んで座ると、アルフォンスは紅色の彼女の長い髪を一筋、そっと指先に絡めた。エレインの髪色はこの国では珍しいほどの赤。そして、この国に来てからと言うもの、日々の湯あみで香油を塗りこまれ、燃えるようなその色合いは艶やかだ。ああ、綺麗にしてもらっていてよかった……エレインはそんなことを考えながらも、恥ずかしさにそっと目を伏せる。

(こんな風に恥ずかしがるのは、わたしらしくないだろう。きっと、彼もそう思っているはずだ。でも、どうにもならない……!)

 女性としては比較的大柄な彼女の横にいるアルフォンスは、更に大きな体で、がっしりとした肩幅。涼し気で端正な顔立ちだ。彼は前線で彼女と剣を交えたことがある、マリエン王国屈指の騎士。戦場で対峙をした時は互いに上から下まで甲冑で覆われており、中の姿を見たことがなかった。まさか、その彼に自分が嫁ぐことになるなんて、今考えてもわけがわからない。こんな風にベッドで並んで座っても、彼と目を合わせることすら難しく感じてしまう。

 アルフォンスは低く、だがどこか甘い響きがある声で彼女の名を呼ぶ。きっと、怖がらせないようにしようと思ってくれているのだろう……エレインは申し訳ない気持ちと、怖気づいてしまう心を抑え、なんとか顔をあげた。

「美しい指だ」

 そっと彼女の手を取るアルフォンス。自分の手に触れる彼の手は大きい。けれど、もっと華奢な手指を持った女性の手こそ、彼にふさわしいのではないかと思う。

 だって、どう見ても自分の指は「貴婦人の指」ではない。だが、彼はそれを褒める。剣をそう握らなくなったからといって、固くなった指の腹は柔らかく戻るわけでもない。あちこちの角質が固くなっているし、形だって色だって白魚のような手とは言い難い。傷こそはついていないが、彼の言葉は嘘だろうとエレインは思う。

「大丈夫です。そんな風に、世辞なぞいりません」

「いや、本心だ。あなたが自分の国を守ろうとした結果だろう。これは。あなたの精一杯の表れだ」

 そう言うと、アルフォンスはエレインの手の甲にそっと口づけた。それぐらい、よくある挨拶の一種のはずなのに、エレインの心臓は高鳴る。頬が赤くなっていないだろうか。耳が赤くなっていないだろうか。自分の高揚を彼に知られることが、恥ずかしいと思ってしまう。

「このように」

 顔をあげ、アルフォンスはエレインに問いかけた。彼はまっすぐ彼女を見つめる。どうしてよいかわからなかったが、視線をそらすことが出来ず、エレインはごくりと唾を飲み込んだ。

「あなたの体に、口づけても?」

「っ……」

 嫌だ、と言いたい。だが、断るわけにもいかないだろうと、苦笑いを見せるエレイン。

「わかりません……その……嫌な時は、嫌だと言っても良いでしょうか……?」

「もちろんだ。が、時には、嫌だと言われても止めないかもしれないのだが」

「それは……仕方がないですね……」

 すっかり困惑した様子でそう答えれば、アルフォンスはうっすらと笑って

「優しくはしたい。が、それでも泣かせたらすまない。善処はする」

と言った。

 ああ、今からこの男に抱かれてしまうのだ。エレインはどう答えて良いのか測りかねて、頬を染めながら「はい」と静かに答えた。
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