敵国に嫁いだ姫騎士は王弟の愛に溶かされる

今泉 香耶

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26.天恵除け(1)

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 アルフォンスがエレインの部屋を訪れたのは、それから二刻経過をした頃だった。マーシアが銀のワゴンでティーセットを運び込む。エレインはそれに驚いたが、どうやらアルフォンスがエレインの部屋で少しゆっくりしたい、と告げたようだった。

「先ほどは失礼をした」

「まだ、そのようなことを」

「許してくれ。あ、いや、これは、わたしが二度も三度も同じこをと言ってしまう、ということに対してだ」

 そう言ってアルフォンスは苦々しい笑みを浮かべる。エレインは「仕方ありませんね」と頷いて、かすかに微笑んだ。

「あなたに、これをつけていただきたいのだ」

「えっ?」

「ああ、あれではない。天恵封じのバングルとは違う。これは、身を守るためのものだ。言葉にすれば、天恵除け、というものだな」

 そう言ってアルフォンスは黒い糸と金の糸で編みこまれているブレスレットを手渡す。糸には小さな石がいくつも通っており、その石の色は透明だ。

「これは、わたしが生まれてからすぐに父からもらったものだ。調整が出来るのであなたの腕でもちょうどよくなると思う」

「生まれてからすぐ?」

「ああ。これは呪いから守ってくれると言われたのだが、その後の調べでは天恵から身を守るものだとわかった」

「天恵から? それは……どんな天恵があるのかはわかりませんが、他者からの何かを防ぐ、というような……?」

 そもそも、天恵と呼ばれる力を持つ者がいる、という認識があるのは、マリエン王国とガリアナ王国、他隣国数か国の話で、他の国がどうなのかをエレインは知らない。天恵というものの歴史を掘り返してみると、100年、200年などという年数を遥かに越え、少なくともガリアナ王国は建国してほどない頃に「天恵を測定する石」があったと歴史書には書いてある。

 天恵を持つ人間は1000人に1人。そして、その天恵は人によって違う。中にはきっと、自分が天恵を持っていることすら知らない者がいるに違いない。天恵を持っている者をすべて洗い出すことは不可能だ。エレインもアルフォンスも、王族であったからこそそれがわかっただけのこと。

 ガリアナ王国もマリエン王国も、天恵を持つ者だけが反応をするという大きな石を持っている。他国はどうかはわからない。そして、王族、貴族と国の主だった者たちが、ある程度の年齢になる前にはその石で天恵の判定を受ける。

 エレインもアルフォンスも、それぞれの国が持つ石の出自はよくわかっていなかった。だが、彼らはどちらも幼い頃に天恵の判定を受け、それから一体自分の天恵が何なのかを、長い年月をかけて探した者同士だ。

 明確になった天恵について、ガリアナ王国は王城で詳細を記録として保管している。聞いていないが、きっとマリエン王国でもなんらかの形でまとまっているに違いない。エレインが「他者からの何かを防ぐ」と言ったのは、過去に読んだ報告書に「人の記憶を壊す天恵」だとか「人の眼球で見たものを見る天恵」だとか、想像がつかないが、他人を対象とするものがあったからだ。

それらは遠い昔にあったらしい天恵だが、正直なところ「そういう天恵だ」と判断をされたということは、それを行なったということで……という思いに至るのが当然だ。考えるだけで身震いしてしまう。

「そうだ。わたしの天恵があなたに向けられることはない。だが、どこで何の天恵持ちがいるのかはわからないしな。きっと、父は呪いを何かの天恵だと考えたのだろう」

 話を聞けば、父親の分とアルフォンスの分。要するに、王族としての直系ではない者が身に着けていたということだ。となれば、もう一つアルフォンスの父が持っていたものがあるのではないか。それを聞けば「そこまで頭が回らなくてな。父のものは、共に墓に入ってしまった」と、残念そうな表情を見せる。

「そんな大切なものをわたしに? 受け取れません。これも、天恵封じと同じく、高価なものですよね?」

「高価ではあるな。そもそもマリエン王国は天恵に関する研究が進んでいるため、天恵封じやら何やらを開発出来ているものの、それらに効果がある石の産出は少なくてな……ガリアナ王国の方が多いはずだ。父はともかく、兄はそれを狙っていた節もある」

「ガリアナ王国が? そんな石のことは……」

「知らないだろう。だからだ。他の国が知らないうちに、自分たちのものにしてしまおうと考えたのだと思う。勿論、それは戦争における一要因にしかならないが。わたしは情報を開示して、取引を行おうと思っているんだが……ああ、いや、話が逸れた」

 そう言うと、アルフォンスはブレスレットを握っているエレインの手を、そっと上から大きな手を覆った。

「あなたに受け取って欲しい。わたしは、四六時中あなたと共にいるわけにはいかないのでな。あなたを守れない分、これを渡そうと」

「……わたしを、守る?」

 エレインが不思議そうな表情でアルフォンスを見れば、彼は苦笑を浮かべて「そうだ」と答える。

「何もおかしくはない。あなたはわたしの妻になったのだ。わたしが守りたいということには、何も不思議はないはずなのだが?」

「っ……」

 エレインは喉の奥で言葉が詰まり、一瞬うまく声を出せなくなった。が、軽く目を逸らし

「でも、あなたからは剣もいただきましたし」

と言ったが、彼は引き下がらない。結局根負けをして「わかりました」とブレスレットを受け取って手首に着ける。

「ドレスによってはあまり合わないとは思うので、まあ少し隠れるぐらいのところにつけてもらえれば」

「わかりました」

 今日の彼女のドレスは袖が長いものだったので、ブレスレットは隠れている。少し袖をめくった状態でしばらくブレスレットを見てから、そっと袖口でそれを隠した。彼から物を貰うことは初めてではなかったが、身に着けるものだからかなんとなく気恥ずかしい。
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