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32.ランバルトとマーシア
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「はあ、女は怖いものだな……」
自室に戻ってエレインは改めて深い溜息をついた。マーシアはそれを聞いて「あら!」と驚いたように声をあげる。
「エレイン様も女性ですよ」
「それはそうなのだが……」
それを言われては、と肩を竦めてから「わたしは怖いだろうか?」と逆に質問をした。それへ、ううーんと唸って答えるマーシア。
「エレイン様は、怖いのではなく、凄いのだと思います」
「凄い、か。よくわからないが、怖くないならいいか……?」
と、その時ドアをノックする音が響いた。
「エレイン様。失礼いたします。ランバルトでございます」
「どうぞ」
ランバルトが書類を持って入って来る。マーシアの姿を見て何か言いたそうだったが、彼は口を半開きにしてそれを耐えた。
「兄妹がここで揃うのも珍しいですね」
ランバルトは観念をして
「少し照れくさいものです」
と小さく笑った。マーシアは「お茶をお持ちしますね」と、兄のことなぞどこ吹く風で一礼をしてその場から去った。ソファで向かい合わせでランバルトは書類を並べる。
「今後の国王陛下と王妃陛下のご予定の一覧と、王妃陛下にこれから与えられる王城での権限、それから……」
あれこれと説明をされたが、エレインは一通り目を通すとすぐに「わかった」とだけ答えた。ランバルトが持って来た書類はどれも簡潔にまとめられており、ぱっと見ただけで内容がよくわかる。それを褒める。
「ありがとうございます。そうおっしゃっていただけると嬉しいですね……」
「アルフォンス様があなたを重宝する理由もわかるものです」
「いえ、きっとこれについては……アルフォンス様は、これぐらいのことは当たり前だと思っていらっしゃると思いますよ」
苦笑いを見せながら、ランバルトは資料の半分をエレインに渡し、残りの半分を自分が持って来た書類ケースに移した。
「ところで、ランバルト」
「はい」
「わたしは、怖いでしょうか?」
「へっ?」
突然のエレインの問いに間抜けな声をあげるランバルト。
「ええっと……ええ……あの……少しだけ」
素直に答えるランバルトの様子がおかしくて、ついエレインは笑いだす。
「ははっ……すまない。その、怖くなくなるには、どうしたら良いのかと思って」
砕けた様子で尋ねれば、憮然とした表情でランバルトは言葉を返した。
「いえ……それは無理ですよ」
「無理?」
「ええ。だって、わたしは戦場でのあなたを存じていますし……そして、もともと敵国だったこの国にやってきて、堂々となさっているあなたのことも存じていますし、剣で刺客をぶった切ったあなたも存じています。あなたを怖がらないのは、あなたのそれらの姿を知らない者たちばかりでしょう。ですが、それと同時に尊敬もしております」
「尊敬?」
意外な言葉がランバルトの口から出て、エレインは驚きの声をあげた。
「きっとアルフォンス様もおっしゃっていると思うのですが。あなたは王族らしくもあり武人らしくもある。そして、非常に聡明だ。正直、こんなにこちらとしてやりやすい……ええっと、それはあれです。言うことを聞くとか。簡単に手なずけられるとかそういう意味ではなく、なんていうのかな……交渉相手としても、運命共同体としてもこんなにやりやすい方が来てくださるとは思っていませんでした」
それはそうなのだろう。彼らにとってエレインは「話が早い」相手なのだ。それは、理解をしなくても受け入れるだけの者とは違い、理解をして、尚、正しく話を咀嚼する。そして判断をする。それを、ランバルトは言っているのだろう。
彼が言うには、クーデターのことも、何もかも、本来はエレインに開示をするような内容ではなかったとのこと。だが、彼女の聡明さをアルフォンスは見抜いて「正しく交渉をしよう」と方針を変更したという話だ。もちろん、それはエレインとしてもありがたいことだった。
「こちらこそ。一生幽閉される可能性も考えながら嫁いで来たが、様々なことがかみ合った結果とはいえこうして良くしてもらって、本当にありがたい」
「それこそ、こちらこそ。協力していただき、本当にありがたいと思っています」
そう言ってランバルトは生真面目にエレインを見た。が、ちょうどマーシアが戻って来たので「妹が入れる茶を飲むのは、どうも面映ゆいんですけどね……」と表情を崩して笑った。
自室に戻ってエレインは改めて深い溜息をついた。マーシアはそれを聞いて「あら!」と驚いたように声をあげる。
「エレイン様も女性ですよ」
「それはそうなのだが……」
それを言われては、と肩を竦めてから「わたしは怖いだろうか?」と逆に質問をした。それへ、ううーんと唸って答えるマーシア。
「エレイン様は、怖いのではなく、凄いのだと思います」
「凄い、か。よくわからないが、怖くないならいいか……?」
と、その時ドアをノックする音が響いた。
「エレイン様。失礼いたします。ランバルトでございます」
「どうぞ」
ランバルトが書類を持って入って来る。マーシアの姿を見て何か言いたそうだったが、彼は口を半開きにしてそれを耐えた。
「兄妹がここで揃うのも珍しいですね」
ランバルトは観念をして
「少し照れくさいものです」
と小さく笑った。マーシアは「お茶をお持ちしますね」と、兄のことなぞどこ吹く風で一礼をしてその場から去った。ソファで向かい合わせでランバルトは書類を並べる。
「今後の国王陛下と王妃陛下のご予定の一覧と、王妃陛下にこれから与えられる王城での権限、それから……」
あれこれと説明をされたが、エレインは一通り目を通すとすぐに「わかった」とだけ答えた。ランバルトが持って来た書類はどれも簡潔にまとめられており、ぱっと見ただけで内容がよくわかる。それを褒める。
「ありがとうございます。そうおっしゃっていただけると嬉しいですね……」
「アルフォンス様があなたを重宝する理由もわかるものです」
「いえ、きっとこれについては……アルフォンス様は、これぐらいのことは当たり前だと思っていらっしゃると思いますよ」
苦笑いを見せながら、ランバルトは資料の半分をエレインに渡し、残りの半分を自分が持って来た書類ケースに移した。
「ところで、ランバルト」
「はい」
「わたしは、怖いでしょうか?」
「へっ?」
突然のエレインの問いに間抜けな声をあげるランバルト。
「ええっと……ええ……あの……少しだけ」
素直に答えるランバルトの様子がおかしくて、ついエレインは笑いだす。
「ははっ……すまない。その、怖くなくなるには、どうしたら良いのかと思って」
砕けた様子で尋ねれば、憮然とした表情でランバルトは言葉を返した。
「いえ……それは無理ですよ」
「無理?」
「ええ。だって、わたしは戦場でのあなたを存じていますし……そして、もともと敵国だったこの国にやってきて、堂々となさっているあなたのことも存じていますし、剣で刺客をぶった切ったあなたも存じています。あなたを怖がらないのは、あなたのそれらの姿を知らない者たちばかりでしょう。ですが、それと同時に尊敬もしております」
「尊敬?」
意外な言葉がランバルトの口から出て、エレインは驚きの声をあげた。
「きっとアルフォンス様もおっしゃっていると思うのですが。あなたは王族らしくもあり武人らしくもある。そして、非常に聡明だ。正直、こんなにこちらとしてやりやすい……ええっと、それはあれです。言うことを聞くとか。簡単に手なずけられるとかそういう意味ではなく、なんていうのかな……交渉相手としても、運命共同体としてもこんなにやりやすい方が来てくださるとは思っていませんでした」
それはそうなのだろう。彼らにとってエレインは「話が早い」相手なのだ。それは、理解をしなくても受け入れるだけの者とは違い、理解をして、尚、正しく話を咀嚼する。そして判断をする。それを、ランバルトは言っているのだろう。
彼が言うには、クーデターのことも、何もかも、本来はエレインに開示をするような内容ではなかったとのこと。だが、彼女の聡明さをアルフォンスは見抜いて「正しく交渉をしよう」と方針を変更したという話だ。もちろん、それはエレインとしてもありがたいことだった。
「こちらこそ。一生幽閉される可能性も考えながら嫁いで来たが、様々なことがかみ合った結果とはいえこうして良くしてもらって、本当にありがたい」
「それこそ、こちらこそ。協力していただき、本当にありがたいと思っています」
そう言ってランバルトは生真面目にエレインを見た。が、ちょうどマーシアが戻って来たので「妹が入れる茶を飲むのは、どうも面映ゆいんですけどね……」と表情を崩して笑った。
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